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はじまりの章

第6話 やっと来た援軍

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 ヴォルフムが半数ほどに数を減らした頃、後方からときが上がる。そしてヴォルフムへの攻撃魔法が続々と届き、屈強そうな騎士団がなだれ込んで来た。
 戦況は一変し、ヴォルフムが制圧されていく。

 ようやく到着した援軍に、光太朗もほっと息をついた。次の瞬間、光太朗の膝から力が抜ける。
 既に限界を迎えていたのか、踏ん張る気力もない。しかし膝が地につく前に、強い腕に肩を抱き寄せられた。

「……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫」

 光太朗はそう青年に言ったものの、正直大丈夫な気はしない。

 連日の戦闘で酷使した光太朗の身体は、もう疲弊しきっている。だましだましで来ていた身体の負傷も、もうそろそろ危ないと思っていたところだ。
 その上、最近ろくに寝ていない。

 少しの間沈黙していた青年は、光太朗の膝裏に手を差し込んだ。そしてそのまま横抱きにすると、足早に歩き出す。
 初めてのお姫様抱っこを経験したわけだが、男として良い気分はしない。

「……おい……女扱いすんな……」
「していない。君には休養が必要だ」

 光太朗は小さく舌打ちを零すと、青年を見上げた。

 顔立ちは美しい青年だが、身体は他の騎士団と変わらない程大きい。その腕にすっぽりと納まると、急激に眠気が襲ってきた。

 本来ならこんな時、光太朗は絶対に眠らない。知らない相手には絶対に気を許さないのが常だ。
 しかし今は、眠気にどうしても抗えなかった。

「……ね、ねむい……」
「……眠ると良い。宿営地まで運ぼう」

『宿営地』

 この言葉に一抹の不安を覚えながらも、光太朗の意識はプツリと途切れた。



 ________
 
 第10騎士団の宿営地で、トトは独り焦っていた。戦は勝利に終わったにも関わらずだ。

 トトは焦りながら、眠っている光太朗をちらりと見遣る。

 この宿営地に光太朗を連れてきたのは、何と第7騎士団の副団長だった。彼はこの国で最も優秀といわれる第4皇子だ。

 超絶美形皇子の腕の中で、光太朗はすやすやと眠っていた。そう、天使のような顔で。


 光太朗を送り届け、皇子は去って行った。そして今、会議用の広い天幕で光太朗は小さな寝息を立てている。

 奴隷兵士に充てられた天幕はない。いつも光太朗はここで寝ているらしい。しかし今ここで寝るのは、非常に良くない。

(非常にまずい、事態だよね……ゼロ?)

 トトは狼狽えながら光太朗を振り返り、その寝顔にゴクリと喉を鳴らす。


 真っ白な肌に、濡羽色の髪。今は閉じられている瞳の色は、美しく色を変えるアンバーだ。
 長い前髪から覗く瞳は蠱惑的で、無条件に人を惹きつける力がある。


 光太朗は、誰もが認める美形だった。

 その魅力を隠すために、光太朗は前髪を伸ばしているのだとトトは思っていた。しかし本人に理由を聞いてみたところ、実際は違っていたのだ。

『前髪を伸ばす理由? 俺、目つき悪いだろ? 良く怖がられていたから……』

 確かに光太朗は目を眇める癖があるし、直ぐに眉も顰める。本人は怖がられていると勘違いしているが、そうではない。

 皆、彼に見られると心臓が跳ねるのだ。怖くて心臓が跳ねている訳では当然無い。しかしその一瞬の間を、彼は「怖がられている」と勘違いしているらしい。


(ああ、どうしよう。こんなところで寝かせたら……。でも俺の天幕も個室じゃないし、外は寒いし……)

「んん……」
「!!」

 声を漏らして身動ぎした光太朗を見て、トトは頭を抱えた。そのまま膝をついて静かに唸る。

(わぁああ、可愛い! いや違う! 起こさないと……このままじゃ……)

 トトが蹲っていると、背後から足音が聞こえた。
 段々とこちらに迫ってくる独り言に、トトはびくりと肩を揺らす。どうやら一番恐れていた事態が、起ころうとしている。

「……トト? 何してる?」
「……団長……」

 身体中を煤と血で濡らしているゲイラスが、トトを不思議そうな目で見ている。戦闘中は動けなくなるほど疲弊していた彼も、すっかり元気になっていた。

 そしてゲイラスは、トトの脇にいる人物に気付いた。その目が驚愕で見開かれるのを、トトは絶望の目で見つめる。

「……それ……ゼロか? 寝てるのか?」
「……団長、駄目です……」

 トトの制止も聞かず、ゲイラスは膝をついた。寝ている光太朗の身体を舐めるように見て、笑みを漏らす。
 その笑みが下賤すぎて、トトは思わず目を逸らした。
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