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はじまりの章

第3話 奴隷生活はじめました

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 本隊は相変わらず、撤退しながら騒ぎ立てている。このままだと間抜けな本隊は全滅するだろう。

 シュルホが横を通り過ぎたタイミングで、光太朗は地を蹴った。


 そしてその背後から項へ向けて、自家製のナイフを数本投げる。シュルホの首は硬い鱗に覆われているが、かろうじてナイフは刺さったようだ。
 首に違和感を感じたシュルホが、その足をひたと止めた。それに構わず、光太朗は今度は短剣を投げる。火の属性を持つ短剣だ。

 次の瞬間、項のナイフから火花が散った。次いでシュルホの首が爆ぜる。光太朗は飛び退き、シュルホから距離をとった。

(お、ちゃんと爆発した。火薬をナイフに仕込むの、かなり良い案かも)

 二度目の爆発音が響いたのを合図に、光太朗は先程身を隠していた岩へと滑り込む。

「トト! 本隊へ帰るぞ!」
「わ、分かった!!」

 身を隠していたトトと共に、撤退していく本隊の後を追う。シュルホは群れで暮らすドラゴンだ。騒ぎを聞いて、谷から仲間がやってくるだろう。

 光太朗から攻撃を受けたシュルホの身体が、地に落ちる音が聞こえる。光太朗は少し振り返り、眉を顰めた。

(ごめんな。野生のドラゴンなんて、何も悪い事してないのに……)

 心の中で零しながら、光太朗は前方に目線を戻した。すると、光太朗と並走していたトトが興奮した様に口を開く。

「……相変わらず、君は凄い! ドラゴンをあんな方法で倒しちゃうなんて! ……ほんとにギフトを貰ってないのか?」

「貰ってたら、こんなとこには居ない」

「はは、だな……。フェブールは、こんな地獄みたいなところ来ないわな……」


 ウィリアムとかいうあの美男が言った通り、フェンデの扱いは酷いものだった。

 転移者管理官と別れた後、光太朗は即牢獄に入れられ、おまけに腕には焼き印を押された。その焼き印は、フェンデを表す文字らしい。

 『人権は前の世界に置いてきたと思え』

 身長2メートル越えの看守に激励の言葉を頂き、光太朗は戦場に送り込まれた。牢獄での滞在期間はたったの2日。実に仕事が速い。

 光太朗が転移した先は、ザキュリオ・ハバルィタという舌を噛みそうな名称の国だ。

 国境には魔獣を使役する民族がいて、ザキュリオはその国と長い事争っているらしい。光太朗は今、その激戦区に第10騎士団と一緒に派遣されている。

  
 本隊への宿営地に戻ると、指揮官が光太朗へと詰め寄ってきた。光太朗は責めるような目を向けるが、指揮官はそれに気づきもしない。

「な、なな、なんだあのドラゴンは! 谷の中に居るのは、シュルホぐらいじゃないのか!」

「……シュルホだったぞ? 目が退化しているのはお前の方か?」

「なに!? シュルホだったのか!? あの大きさのものは、初めてだ……」

「……お前……まさかドラゴンを大きさで判断しているのか? 流石だな」


 言うだけ言うと、光太朗は寄せていた眉根を戻した。

 光太朗の言葉使いの悪さを、騎士団の誰もが指摘しない。
 ありがたいことに『異世界から来たからしかたがない』と思われているようだ。フェンデはフェブールと違って、言語の習得に時間がかかるらしい。

 しかし何度も放った煽り言葉に、反応が無いのは癪である。彼のせいで光太朗他、本隊も全滅しかけたのだ。

「……今度からは大きさじゃなくて、特徴を見ろよな。……確かに、でかかったとは思うが……」
「そ、そうだろ!? ……にしても、ゼロを先に行かせた俺の判断は正しかったって事だな!」
「ああ。見事に無駄にしてくれたがな」


 『ゼロ』という名は、奴隷兵士になる前に光太朗に付けられた呼び名だ。

 フェンデの呼び名は決まっているらしく、第10騎士団に隷属する者は『ゼロ』と呼ばれる決まりらしい。
 何の価値もないフェンデへの当てつけのような名前だが、今ではその名がすっかり馴染んでしまった。

「ゼロが居なかったら、本隊丸焦げですよ」
「そうだな。では今日も、この宿営地に留まる事としよう! 直に日が沈むからな、ははは」
 
 呑気に笑っているのが、この第10騎士団を束ねるゲイラスという男だ。

 この世界特有である褐色の肌、大きい体躯。愛嬌のある大きい目を持つ顔は、指揮官と言うより八百屋の主人の方が合っている。

 騎士団のやりとりを見ながら、光太朗は胸中で深く溜息をついた。
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