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第二章 執念の後、邂逅へ臨む

第26話 黒羽の王

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***

 鵠玄楚こくげんその謁見は司台殿で行われ、後に宴が開かれた。
 上級の天上人が集められ、一段高い座に四帝と冥王が横一列に座る。

 その他は通路を挟んだ脇にずらっと並ぶだけだ。葉雪も『その他』に紛れ、久々に見る四帝を見上げた。

 四帝の一人である雷司白帝の壬宇は、いつものように左端の席に座っている。右隣に地司黄帝、炎司朱帝が続き、風司紫帝、そして冥王と続く。

(……げ、炎府の古狸まで来てるじゃないか。何も勢揃いしなくても良いだろうに……。新しい黒羽の王の事が、さぞかし気になるんだろうな……)

 宴の間には、衛兵の姿も多く見受けられた。
 新勢力になり得る鵠玄楚を警戒しての事だろうが、黒羽側も閉口するほどの露骨な警戒態勢となっている。


 四帝が席について間もなく、鵠玄楚は数名の従者を引き連れて宴の間に入ってきた。

 葉雪にとっては800年ぶりの再会だ。しかしその再会は、懐かしさよりも驚きが勝った。

 鵠玄楚は漆黒の衣を身に着け、ゆっくりと通路を進む。

 群青色の髪は僅かに癖があり、緩く波立っている。しかし毛質は上等な絹のようで、艶々と光を纏わせながら、彼の腰の上でゆったりと揺れ動いた。

 雄々しい眉山を描いた美眉、そのすぐ下には燃えるような夕焼け色の瞳がある。鼻筋は男らしい高さで、唇は薄く大きい。

(……これは……立派になったな……!)

 青年期の鵠玄楚とは、大きく印象が違う。

 葉雪より少し大きいほどだった身体も、四帝にも負けないほどの大きな体躯になっている。
どこをどう切り取っても美丈夫で、纏う空気もどっしりと威厳に溢れていた。

 鵠玄楚は四帝の前に立つと、佩いていた剣に手を添え、ゆっくりと腰を折った。

「黒羽王、鵠玄楚でございます。このような席を設けて頂き、感謝いたします」

 鵠玄楚は言い放ち、自身の卓へと座る。それを合図にして、雷司白帝が酒杯を手に立ち上がった。

「黒羽の王よ。試練を終えられた事、昊穹としても喜ばしい。祝杯を捧げよう」

 鵠玄楚は口元に笑みを浮かべると、同じく酒杯を捧げ、一気に煽る。

 彼の所作は貫禄があり、800年もの間、試練に身を投じた者にはとても見えない。
四帝をも呑み込まんとする存在感に、誰しもが気圧されているのが分かる。

 鵠玄楚は悠然とした微笑みを湛え、四帝にも臆さず口を開く。低いが、耳を撫でるような艶を持った声だ。

「試練に多くの時を費やし、昊穹の方々にもご迷惑をお掛けしました。これからは屠淵池とふちの管理にも本腰を入れますので、瘴気も少しは治まるでしょう」

「先代の黒羽王が急逝し、力の継承も困難だったろう。さぞ激烈な試練だったんだろうな」

「……そうですね。それはもう」

 意味深な笑顔を浮かべ、鵠玄楚は手酌で酒を注ぐ。四帝を前にして少々不遜な態度だが、その男っぷりが気持ちよく、誰もが彼を咎めない。

 しかし雷司白帝としては、彼の一挙手一投足が気になるところなのだろう。雷司白帝は鵠玄楚をしっかりと見据えた後、卓へと座り直した。

 手酌で注いだ酒を飲み干した鵠玄楚は、葡萄を一粒口に放り込んだ。それを咀嚼しつつ、四帝が座る辺りをぐるりと見回す。

「……して、昊黒烏殿は何処に?」

 それは誰もが予想していなかった問いだった。
 
 四帝の顔色は変わり、近くの卓から酒を拝借していた葉雪は、あやうく酒杯を落としそうになる。
 鵠玄楚は何食わぬ顔で、また酒器に手を伸ばした。

「昊王や四帝の側には、いつも昊黒烏殿が控えていましたよね? 謁見が行われた司台殿にもいらっしゃらなかった」

「……それを知って、どうするつもりだ?」

 これまで黙していた炎司朱帝が、酒杯を卓へと叩きつけるように置く。

 古株である炎司朱帝は、四帝の中で最も権力を持つと言われている。彼は威圧的な姿勢を隠すことなく、鵠玄楚へ言葉を放った。

「なるほどな。あやつがどうなったか、黒羽が一番気になっているところだろう」

「何の事です?」

「150年前、昊黒烏の部下である塵竹という男が、私を害した。お前は試練中だったが、黒羽が関与している証拠があった。報告は受けているだろう?」

「……あの件なら、こちらは関与していないと申していたはず。塵竹という男の運命簿は、黒羽には存在しない。故に黒羽の民ではない」

 鵠玄楚は卓へと片肘を付き、まっすぐだった姿勢を僅かに低くした。そして再度「して、彼は?」と問う。
 炎司朱帝はふんと鼻で笑い、忌々し気に舌打ちを落とした。

「追放したに決まっているだろう。昊黒烏は塵竹を右腕として従えていた。この責任は重い」

「……追放……?」

 鵠玄楚が驚いたように目を見開く。
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