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最終章

第51話 

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 金色の双眸で見つめられ、エリトは息を詰める。

「エリト。俺の核は、ここにある」

 右目を指さしながら言う魔神の顔を、エリトは見つめた。何か大きな感情が襲ってきて、エリトは頭をいやいやと横に振る。
 そんなエリトを見て、目の前の魔神が親し気に笑った。

「……この距離だったら、失敗はしないな? レゴーラの時みたいに」
「……、あ……」

 
 その瞬間、エリトの頭の中に蘇ったのは黒い犬だった。ころころと自分にすり寄ってくる、可愛くて愛しい黒い犬。
 遠い遠い昔、傷ついたその犬のために、エリトはレゴーラという魔獣を狩った。

「……っ、の……ノウリ……」

 ノウリを思い出したら、そこから次々と色んな光景が溢れ出してくる。

 レゴーラの狩りに失敗したエリトを、ノウリが助けてくれた事。そのノウリがクラーリオだった事。
 思い出す光景には、いつもクラーリオがいる。彼を想うだけで、心が焼けつくように痛む。

 ぼろぼろと涙を零しながら、エリトは胸を鷲掴んだ。もう叫ばずにはいられなかった。
 思うがままに叫ぶと、色んな感情が蘇ってくる。

 大好き。嬉しい。幸せ。
 寂しい。離れたくない。置いて行かないで。
 憎い。愛しい。

「ぼ、僕……」

 エリトが泣きながら呟くと、宗主がその髪を梳く。そして眉を下げた。

「エリト。……あの時は、置いて行ってすまない。……帰れなくて、すまなかった」
「っつ! ……おれ……僕……、あ、ぁあ……」

 頭に強烈な痛みが走り、エリトは頭を抱え込んだ。
 激しい感情と共に、更に記憶が溢れ出してくる。

 幼いころに見た本当の母の顔。その母を殺し、自分を攫った者たちの事。

 虐げられた日々の中で、初めて愛した人がクラーリオだった。あの時の自分にはまだ名があって、その名を愛しい人に呼ばれることが幸せだった。

 それから何度記憶を消されても、エリトはクラーリオを思い出した。そして2人で暮らしたこの場所へ来て、訳もなく泣く。
 それを仮面の男に見つかって、記憶を塗りなおされる。その繰り返しだった。
  

 部屋の中に衝撃音が響き渡り、エリトが視線を上げた。
 仮面の男が、こちらに受けて攻撃魔法を放っている。その魔法は何かにぶつかって弾け、霧散していく。

 クラーリオはエリトを抱きしめながら、2人を守るシールド魔法を発動していた。そのシールドに阻まれて、魔法はこちらに届かない。

「……エリト、頭が痛いだろう? 一気に思い出さなくてもいい」
「……っ、そう、しゅ……」

 宗主から髪を撫でられると、頭痛が少しずつ引いていく。尚も続く攻撃には居も介さず、宗主は穏やかな瞳をエリトに向けていた。

 髪に絡む指の感触を感じると、恐怖も和らいだ。宗主に身体を預けるように凭れると、自然と瞼が重くなってくる。
  

 攻撃を仕掛けていた仮面の男が、忌々し気に叫ぶ。

「くそっ! 暴戻を殺すチャンスなのに! マルタはどこに行ったんだ!? あの女、後から合流するって言ってたのに……! ……っ!?」

 叫んでいた男の仮面が、突如として砕け散った。中から現れた顔は、額から鼻梁にかけて大きな傷痕が走っている。しかし見覚えのない男だった。

 その傷を慌てて隠しながら、男が足をふらつかせた。指の間から怯えた赤い目が覗く。

「……お前の罪は、死んでも償えん」

 エリトを抱き込みながら、宗主は男に殺気の籠った目を向ける。金の瞳に見据えられ、男の足は縫いつけられたかのように動かない。

 そして次の瞬間、光が男の肩を貫いた。肩にぽっかりと穴が開き、そこから血がじわりと溢れ出す。

「……エリトの記憶を奪った回数分、苦しめ」

「ひっ……! やめ……」

 逃げ出そうとした男の膝を、また光が貫いた。射貫かれた膝は機能を無くし、男はその場に崩れ落ちる。
 膝を押さえて、男は痛みにのたうち回る。次の攻撃を恐れてか、男が叫んだ。

「……っ! 待て!! 俺を、殺せば……ガーランデの軍が動くぞ! ガーランデを敵に回すつもりか!!」

「ガーランデの軍? いつもカマロが遊んでやってる、あのガーランデの軍の事か?」

「……っ!」
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