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前編
第33話 ただいま
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「ぼ、暴戻の……!! そ、そんな、まさか……!」
「……」
クラーリオは手元で毛皮を生成し、エリトの身体をそっと包んだ。ノウリの毛質と同じ毛皮に包まれて、エリトの表情が少し和らぐ。その顔を見つめながら、クラーリオは口を開いた。
「……言い残すことはあるか?」
「……っ!! わ、我が国は、人間の国でも最大級の国だッ! この街を滅ぼせば、戦が起こるぞ!」
「……誰がこの街を滅ぼすと言った?」
クラーリオが一歩踏み出すと、アージャンが金切り声を上げた。そのアージャンをスガノは眼光鋭く睨みつけ、指をぱちんと鳴らす。その瞬間、アージャンの口が縫われたように開かなくなった。
恐怖に顔を歪めながら涙を流すアージャンを、スガノは鋭く睨んだ。そして「静かにしろよ」と低く唸る。
「我が主は、この捌き屋と盟約を交わしている。障害であるお前らを、排除するのみ。街を滅ぼすつもりはない」
「こ、この穢れの子は、我が国の……」
「この子が特別なのは、先ほど聞いた」
クラーリオが冷たい視線をドワソンに投げ、次いで牢の中に横たわる身体を見遣った。そこには先ほどまで生きていた『クリオ』が、骸になって転がっている。
「俺を殴る間、お前はこう言っていたな? この子が特別で、国の蓄えの殆どをこの子が担っていると。……奪われては、国が立ち行かないと。そう言ったな?」
「……!! ま、まさか、あの……男は……」
ドワソンが目を見開き、牢の中を見る。その骸がじわりと溶けていくのを見て、小さく悲鳴を上げる。
「……い、命だけは……」
「居なくなれば、国が立ち行かなくなるような存在を、お前たちは何故大事にしない?」
「こッ! こ、ここを潰せば……我が国が黙っては……っ」
「……質問に答える気がないのか?」
「……ッ!? 許してくれ! お許しを!! 命だけは……!」
狼狽えるドワソンを見て、クラーリオが瞳を眇める。忌々し気に2人を見下ろすと、呆れたように溜息を零した。
「この子に危害を加えた時点で、お前たちに生きる選択肢はない。……ジョリス」
「はい、宗主」
「……気が削がれた。お前の知っている最も残虐な方法で、始末しろ。俺は先に戻る」
「いいんですか?」
「お前が適任だ。スガノ、先行してゼオに知らせよ」
スガノとジョリスが「御意」と零すと、クラーリオの姿が立ち消えた。
ナークレンの教会から響く悲鳴は、外に届くことは無かった。その日教会にいた人間は跡形もなく消え去った上、素材屋の店主までもが謎の死を遂げる。
________
クラーリオは屋敷に向かって飛びながら、タオを呼び出した。並行して飛ぶようにして現れたタオは、頷いて口を開く。
「ナークレンの国であるガーランデに潜んでいる密偵に接触しましたが、白髪の穢れの子の母はいませんでした」
「いない? どういう事だ?」
「穢れの子は通常、母子一緒に監視棟へ入るものらしいです。……母親と離れて暮らしている穢れの子はいません」
「……どういう事だ……」
腕の中のエリトを見つめて、クラーリオは眉を顰めた。
(エリトにはやはり、何か秘密がある)
特別な穢れの子。どうして特別なのか。
そしてガーランデの都の近くには、数百年前のエリトと出会った村もある。
エリトの身体を抱きしめながら、クラーリオは屋敷の庭へ降り立った。表に出ていたゼオが安堵の表情を浮かべるのを、クラーリオはぼんやりと眺める。
こんなにも、ここが家だと感じたことは無かった。
安らげる場所へエリトを連れてくることができた。
そう感じることができたクラーリオは、はじめて「ただいま」と呟いた。
「……」
クラーリオは手元で毛皮を生成し、エリトの身体をそっと包んだ。ノウリの毛質と同じ毛皮に包まれて、エリトの表情が少し和らぐ。その顔を見つめながら、クラーリオは口を開いた。
「……言い残すことはあるか?」
「……っ!! わ、我が国は、人間の国でも最大級の国だッ! この街を滅ぼせば、戦が起こるぞ!」
「……誰がこの街を滅ぼすと言った?」
クラーリオが一歩踏み出すと、アージャンが金切り声を上げた。そのアージャンをスガノは眼光鋭く睨みつけ、指をぱちんと鳴らす。その瞬間、アージャンの口が縫われたように開かなくなった。
恐怖に顔を歪めながら涙を流すアージャンを、スガノは鋭く睨んだ。そして「静かにしろよ」と低く唸る。
「我が主は、この捌き屋と盟約を交わしている。障害であるお前らを、排除するのみ。街を滅ぼすつもりはない」
「こ、この穢れの子は、我が国の……」
「この子が特別なのは、先ほど聞いた」
クラーリオが冷たい視線をドワソンに投げ、次いで牢の中に横たわる身体を見遣った。そこには先ほどまで生きていた『クリオ』が、骸になって転がっている。
「俺を殴る間、お前はこう言っていたな? この子が特別で、国の蓄えの殆どをこの子が担っていると。……奪われては、国が立ち行かないと。そう言ったな?」
「……!! ま、まさか、あの……男は……」
ドワソンが目を見開き、牢の中を見る。その骸がじわりと溶けていくのを見て、小さく悲鳴を上げる。
「……い、命だけは……」
「居なくなれば、国が立ち行かなくなるような存在を、お前たちは何故大事にしない?」
「こッ! こ、ここを潰せば……我が国が黙っては……っ」
「……質問に答える気がないのか?」
「……ッ!? 許してくれ! お許しを!! 命だけは……!」
狼狽えるドワソンを見て、クラーリオが瞳を眇める。忌々し気に2人を見下ろすと、呆れたように溜息を零した。
「この子に危害を加えた時点で、お前たちに生きる選択肢はない。……ジョリス」
「はい、宗主」
「……気が削がれた。お前の知っている最も残虐な方法で、始末しろ。俺は先に戻る」
「いいんですか?」
「お前が適任だ。スガノ、先行してゼオに知らせよ」
スガノとジョリスが「御意」と零すと、クラーリオの姿が立ち消えた。
ナークレンの教会から響く悲鳴は、外に届くことは無かった。その日教会にいた人間は跡形もなく消え去った上、素材屋の店主までもが謎の死を遂げる。
________
クラーリオは屋敷に向かって飛びながら、タオを呼び出した。並行して飛ぶようにして現れたタオは、頷いて口を開く。
「ナークレンの国であるガーランデに潜んでいる密偵に接触しましたが、白髪の穢れの子の母はいませんでした」
「いない? どういう事だ?」
「穢れの子は通常、母子一緒に監視棟へ入るものらしいです。……母親と離れて暮らしている穢れの子はいません」
「……どういう事だ……」
腕の中のエリトを見つめて、クラーリオは眉を顰めた。
(エリトにはやはり、何か秘密がある)
特別な穢れの子。どうして特別なのか。
そしてガーランデの都の近くには、数百年前のエリトと出会った村もある。
エリトの身体を抱きしめながら、クラーリオは屋敷の庭へ降り立った。表に出ていたゼオが安堵の表情を浮かべるのを、クラーリオはぼんやりと眺める。
こんなにも、ここが家だと感じたことは無かった。
安らげる場所へエリトを連れてくることができた。
そう感じることができたクラーリオは、はじめて「ただいま」と呟いた。
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