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前編
第21話 他種族料理教室
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クラーリオが用意した服は、厚くて暖かい寝間着だった。ふわふわと肌触りが良くて、エリトは思わず身体中をパタパタと叩く。
「風呂上がりなのに少しも寒くない! すごい」
感動しながら家へと入ると、クラーリオがニコニコしながら立っている。相変わらず目元は隠れているが、歪みのない優しい笑みだった。
「エリト、夕飯!」
「ゆうはん?」
クラーリオが後ろ手に隠していた手を、エリトへと差し出す。
そこにはエリトの母が良く作ってくれる『米を握って海苔で巻いたもの』が乗っていた。
エリトが信じられないといった顔でクラーリオを見ると、彼は幸せそうに微笑んだ。
_________
数時間前______
「米を握って、海苔で巻いた料理? のりってなんすか?」
「海藻を干したものだ。人間界ではポピュラーな食材だぞ。……お前に聞いたのが間違いだったな、スガノ」
そう呟くクラーリオはすっかり『暴戻の魔神』に戻っている。先ほど合流したときは人間の姿だったが、魔神の姿に戻ると途端に冷たい雰囲気になる。
ヘラーリアの森を調査しに来たクラーリオに、スガノは珍しく同行していた。最近のクラーリオの様子が気になっていたし、何より興味が勝った。
ナークレンの隣にあるヘラーリアで魔獣が溢れているのは、クラーリオにとって都合がよかったようだ。軍をヘラーリアに駐留させ、森を調査しながらクラーリオはナークレンへと足繫く通う。
「宗主の可愛い生き物は、リゾット喜んでくれたんすか?」
「ああ、朝も昼も旨そうに食べてくれた」
「……ええ、まじかよ……」
顔を歪めて言うスガノに、クラーリオは鋭い目を向けるものの、直ぐに視線を外す。抗議してこないのは、自分でも自覚があるからだろう。
実のところ、クラーリオの料理はまだ不味い。クラーリオもそれは分かっているようで、自分で作ったものを食べては顔を歪ませていた。
「あの料理食べて美味いって……相当飢えてますね、その生き物」
「……きらきらした瞳で、喜んでくれた」
「うっわ、ぐぅ天使じゃないですか? はやく連れ帰りましょうよ」
軽い口調で言うスガノに、クラーリオは咎めるような目を向ける。いつもなら無表情、無反応であるクラーリオの挙動が嬉しくて、スガノはつい顔を綻ばせた。
ニヤついているスガノを見て、クラーリオが眉に深い皺を刻んだ。
「魔族の屋敷にそう気軽に連れて帰れるものか。信頼関係というものを知らんのか」
「……はは、そうっすよね……(コミュニケーション能力皆無の誰かさんに言われたくないわな)」
スガノが曖昧に笑っていると、ジョリスが駆けてきた。愛剣を血に濡らし、息は荒い。
「っはぁ、お二人とも、余裕ですね! もう、スガノさん! 現役に戻ってくださいよぉ」
「嫌だ。もう年で、足もかなわん」
「私とあんまり変わらないでしょ~? もう、副官の私がどれだけ………! ちょっと待って、……うるぁああ! よっしゃ、一撃ぃ………えっと、苦労していると思うんですか?」
会話の途中で襲ってきた魔獣を蹴散らし、ジョリスは何事も無かったように会話を始める。
ジョリスの相変わらずの強さに口笛を吹きながら、スガノは口を開いた。
「そうだジョリス、米を握って、海苔で巻いた料理知ってるか? 人間の間ではポピュラーらしい」
「ああ! 『おむすび』! 知ってますよ。他種族料理は女子にお任せ……ってごるぁあああ! しつこいっ!!! 消し炭にするぞ!!」
「………」
決して女子とは言えない年のジョリスだが、絶対に指摘してはいけない。怒るジョリスはスガノよりも強いのだ。
剣についた血を掃って、ジョリスが晴れやかに笑う。今しがた魔獣を斬り払った顔には見えない。
「宗主! おむすび、作りましょう! まずは米を炊かないと……てか米あります? 海苔は?」
「米はある。海苔はタオに頼んであるから、直に届く」
「……宗主? 護衛を何だと思ってるんです? タオにおつかいをさせたら駄目でしょ?」
「……」
黙り込んで目線も合わせないクラーリオに、スガノは嘆息した。クラーリオは都合が悪くなると直ぐに黙り込む。
スガノが責めるような目を向けていると、本当に間もなくタオが到着した。
ジョリスの説明を受けながらクラーリオが作った『おむすび第一号』は、信じられないほどしょっぱかった。その上ボロボロと崩れるのだ。
第二号はその逆で、米が潰れるほど硬く握ってあり、味も薄い。
どうやらクラーリオには、料理の才能が無いようだ。これを食べる「可愛い生き物」にスガノは心底同情した。
_________
そして今、クラーリオの目の前でエリトは『おむすび』を頬張っている。その信じられないほどの可愛いさに、クラーリオの顔は緩みっぱなしだった。
スガノには絶望の瞳で見つめられ、ジョリスには「り、料理は愛情ですから……」と頬をひくつかせながら言われた。
正直エリトに食べさせるのを躊躇ったが、エリトは大袈裟なほど喜んでくれている。
「うっま! 海苔いっぱい! もいっこ食べて良い? クリオは食べないのか?」
「……食うよ」
ぺろりと舌なめずりするエリトの顎を掴んで、クラーリオはその双眸を覗き込んだ。突然の事に目を白黒させるエリトの頬に、クラーリオは舌を這わせる。
エリトの頬についていた米粒を舐めとって、クラーリオはにっこりと微笑んだ。
「……旨いな」
「っっっっつ!! な、なにやってんだよ! 犬か!!」
(鋭いな、エリト)
舐められた頬をごしごしと拭いながら、エリトはまた『おむすび』へと齧り付く。その姿を見ているだけでも、クラーリオは幸せだった。
「風呂上がりなのに少しも寒くない! すごい」
感動しながら家へと入ると、クラーリオがニコニコしながら立っている。相変わらず目元は隠れているが、歪みのない優しい笑みだった。
「エリト、夕飯!」
「ゆうはん?」
クラーリオが後ろ手に隠していた手を、エリトへと差し出す。
そこにはエリトの母が良く作ってくれる『米を握って海苔で巻いたもの』が乗っていた。
エリトが信じられないといった顔でクラーリオを見ると、彼は幸せそうに微笑んだ。
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数時間前______
「米を握って、海苔で巻いた料理? のりってなんすか?」
「海藻を干したものだ。人間界ではポピュラーな食材だぞ。……お前に聞いたのが間違いだったな、スガノ」
そう呟くクラーリオはすっかり『暴戻の魔神』に戻っている。先ほど合流したときは人間の姿だったが、魔神の姿に戻ると途端に冷たい雰囲気になる。
ヘラーリアの森を調査しに来たクラーリオに、スガノは珍しく同行していた。最近のクラーリオの様子が気になっていたし、何より興味が勝った。
ナークレンの隣にあるヘラーリアで魔獣が溢れているのは、クラーリオにとって都合がよかったようだ。軍をヘラーリアに駐留させ、森を調査しながらクラーリオはナークレンへと足繫く通う。
「宗主の可愛い生き物は、リゾット喜んでくれたんすか?」
「ああ、朝も昼も旨そうに食べてくれた」
「……ええ、まじかよ……」
顔を歪めて言うスガノに、クラーリオは鋭い目を向けるものの、直ぐに視線を外す。抗議してこないのは、自分でも自覚があるからだろう。
実のところ、クラーリオの料理はまだ不味い。クラーリオもそれは分かっているようで、自分で作ったものを食べては顔を歪ませていた。
「あの料理食べて美味いって……相当飢えてますね、その生き物」
「……きらきらした瞳で、喜んでくれた」
「うっわ、ぐぅ天使じゃないですか? はやく連れ帰りましょうよ」
軽い口調で言うスガノに、クラーリオは咎めるような目を向ける。いつもなら無表情、無反応であるクラーリオの挙動が嬉しくて、スガノはつい顔を綻ばせた。
ニヤついているスガノを見て、クラーリオが眉に深い皺を刻んだ。
「魔族の屋敷にそう気軽に連れて帰れるものか。信頼関係というものを知らんのか」
「……はは、そうっすよね……(コミュニケーション能力皆無の誰かさんに言われたくないわな)」
スガノが曖昧に笑っていると、ジョリスが駆けてきた。愛剣を血に濡らし、息は荒い。
「っはぁ、お二人とも、余裕ですね! もう、スガノさん! 現役に戻ってくださいよぉ」
「嫌だ。もう年で、足もかなわん」
「私とあんまり変わらないでしょ~? もう、副官の私がどれだけ………! ちょっと待って、……うるぁああ! よっしゃ、一撃ぃ………えっと、苦労していると思うんですか?」
会話の途中で襲ってきた魔獣を蹴散らし、ジョリスは何事も無かったように会話を始める。
ジョリスの相変わらずの強さに口笛を吹きながら、スガノは口を開いた。
「そうだジョリス、米を握って、海苔で巻いた料理知ってるか? 人間の間ではポピュラーらしい」
「ああ! 『おむすび』! 知ってますよ。他種族料理は女子にお任せ……ってごるぁあああ! しつこいっ!!! 消し炭にするぞ!!」
「………」
決して女子とは言えない年のジョリスだが、絶対に指摘してはいけない。怒るジョリスはスガノよりも強いのだ。
剣についた血を掃って、ジョリスが晴れやかに笑う。今しがた魔獣を斬り払った顔には見えない。
「宗主! おむすび、作りましょう! まずは米を炊かないと……てか米あります? 海苔は?」
「米はある。海苔はタオに頼んであるから、直に届く」
「……宗主? 護衛を何だと思ってるんです? タオにおつかいをさせたら駄目でしょ?」
「……」
黙り込んで目線も合わせないクラーリオに、スガノは嘆息した。クラーリオは都合が悪くなると直ぐに黙り込む。
スガノが責めるような目を向けていると、本当に間もなくタオが到着した。
ジョリスの説明を受けながらクラーリオが作った『おむすび第一号』は、信じられないほどしょっぱかった。その上ボロボロと崩れるのだ。
第二号はその逆で、米が潰れるほど硬く握ってあり、味も薄い。
どうやらクラーリオには、料理の才能が無いようだ。これを食べる「可愛い生き物」にスガノは心底同情した。
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そして今、クラーリオの目の前でエリトは『おむすび』を頬張っている。その信じられないほどの可愛いさに、クラーリオの顔は緩みっぱなしだった。
スガノには絶望の瞳で見つめられ、ジョリスには「り、料理は愛情ですから……」と頬をひくつかせながら言われた。
正直エリトに食べさせるのを躊躇ったが、エリトは大袈裟なほど喜んでくれている。
「うっま! 海苔いっぱい! もいっこ食べて良い? クリオは食べないのか?」
「……食うよ」
ぺろりと舌なめずりするエリトの顎を掴んで、クラーリオはその双眸を覗き込んだ。突然の事に目を白黒させるエリトの頬に、クラーリオは舌を這わせる。
エリトの頬についていた米粒を舐めとって、クラーリオはにっこりと微笑んだ。
「……旨いな」
「っっっっつ!! な、なにやってんだよ! 犬か!!」
(鋭いな、エリト)
舐められた頬をごしごしと拭いながら、エリトはまた『おむすび』へと齧り付く。その姿を見ているだけでも、クラーリオは幸せだった。
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