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汚名を雪ぐ
50. 思惑の交差
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『おい、起きろ。何してんだ』
金の髪をした男が、横たわった身体を揺らしてくる。
呼吸が苦しくて、身動ぎさえできないのに無茶なことを言う、と男を睨み付けた。
『情けないな、早くしろ。ヴィテさんにその姿見せるつもりか?』
ああ、そうだった。彼女はあまりにも背負いすぎている。それなのにこれ以上背負わせるのは酷だ。
せめて俺だけは、大丈夫でいないといけない。
__________
ボルエスタが頭上から降り続くシャワーを止めると、たつとらが苦しそうに咳をした。数回続く咳と、辛そうな喘鳴にボルエスタは背中を擦る。
(発作だ。どうする?まずは……)
ボルエスタが考えを巡らせていると、意識を取り戻した彼が顔を上げ、浴槽の方に手を伸ばしているのが見えた。
何をするかとボルエスタが困惑していると、何と彼は風呂の栓を抜こうと手を伸ばしているようだった。朦朧としている中でも、彼は自分の苦しんだ証拠を消そうと必死で手を伸ばす。
その姿にボルエスタは全身が粟立った。
「っ……たつ!!」
その声に彼はビクリと肩を揺らし、ひゅっと息を吸った。思い出したかのようにまた咳を繰り返し、伸ばしていた手が諦めたかのようにパタリと落ちた。
たつとらを抱えたまま、ボルエスタは備え付けのタオルをありったけ掴み、バスルームを出る。暖炉の前にあるソファにたつとらを座らせ、炎の魔法で暖炉に火を灯した。
ぜ、ぜ、と荒い呼吸を繰り返す彼の顔をタオルで拭うと、色を失った唇が震えている。
「一体いつから、あそこに……」
たつとらの身体は冷え切っている。意識のない状態で、いつから冷たい水に身を晒していたのだろう。
水を出した理由が自分の血の痕跡を消すためだったとしたら、目の前の弱り果てている男に対して怒りさえ湧いてくる。それと共に情けなさも襲ってきて、舌打ちしながら立ち上がった。
ボルエスタはベッドの方へ駆けると、毛布をひっつかみ暖炉の前に置く。暖炉の火は十分に燃え上がっているので、部屋の温度は直に上がるだろう。
「呼吸が苦しいですか?胸に痛みが?」
そう聞きながら濡れた服を脱がすため、たつとらの上着のボタンを外していく。頷くたつとらに眉を寄せながら、震える手が上手くボタンを外せないのに苛立った。
「じ、ぶんで……脱ぐ、よ……。ボルちゃんも、ぬれてるから……きが、えな?」
色のない唇で弧を描き、彼はゆっくり上体を起こした。
ゆっくりとした動作で上着を脱ぎ、たつとらはブルっと震える。置いてあったタオルで身体を拭いて、下も脱ごうとベルトに手を掛けた。
ボルエスタは咄嗟にたつとらから背を向け、暖炉の前で温めていた毛布を手に取る。背を向けたまま毛布を渡してくるボルエスタに、たつとらは微笑んだ。
(男同士なのに、照れてる)
毛布で身体を包むと、たつとらはその暖かさにほっと息を吐いた。そのままソファに横になると、カタカタ震える身体を押さえるように丸まる。
ボルエスタは彼から離れ、バスルームで服を脱ぐ。厚着をしていたお陰でインナーは濡れておらず、下も脱がなくて良さそうだった。
時折たつとらの咳込む声が聞こえ、胸がギュッと痛む。
(どうして、頼ってくれないんだ。どうして隠そうとする?)
いやそれ以前に、気付かなきゃいけなかったのかもしれない。
馬鹿みたいに浮かれて、自分たちの計画が成功したことに陶酔して……。当の救いたかった本人はこうして傷ついて横たわっているなんて、本末転倒も良いところだ。
たつとらは暖炉の炎が火の粉を上げながら燃えている様を見ていた。
(この炎もいつしか燃え尽きる時が来る。未練がましく燻って、今の自分みたいに……)
突然の浮遊感に目を開けると、毛布に包まれたままボルエスタに抱えあげられていた。ボルエスタはたつとらを抱えたまま暖炉の前に座ると、まだ濡れたままの彼の髪をタオルで拭う。
「温まるまで、ここに居ましょう」
たつとらはコホコホと咳をしながら、ボルエスタを見上げた。毛布の下から伝わる体温と、しっかり自分を支える逞しい身体に、安堵感が湧き上がってくる。
ぜ、ぜ、と喘鳴が響く。聞いてるこちらまで息が辛くなり、ボルエスタは彼の頭を自身の胸に凭れかけさせた。
「姿勢は辛くないですか?」
たつとらは首を振ると、ボルエスタの胸に頭を擦りつけた。
余程辛いのかもしれない。普段は絶対してこない可愛らしい行為に、ボルエスタの胸は不本意ながら大きく高鳴った。
「ボル、ちゃん……は、本当に……あっ、たかい」
荒い呼吸を繰り返しながら紡がれる言葉に、驚きながらも愛おしさが溢れ出る。ボルエスタはたつとらの背中を擦り、そのか細さに息を呑んだ。
胸にかかる重さが増したような気がして、ボルエスタはたつとらの様子を窺う。身体全てをボルエスタに預けて、彼は眠っていた。その身体をギュッと抱きしめると、またその細さに心が跳ねる。
(こんなにも、細い……)
女性とさほど変わらないその細さに、その繊細さに、いつも心が乱される。離したくない。ずっとこの手の中に留めておきたい。
場違いな独占欲に、自分自身への嫌悪感で一杯になる。医師として、あるまじき感情だと思う。なのにどうしてか抗う事が出来ない感情が、ボルエスタを支配してしまうのだ。
部屋の扉がノックされ、ボルエスタはハッと意識を引き戻された。
「たつ、ボル太?どっちかいるか?」
チャンの声に、ボルエスタは眼鏡を押し上げた。
「チャン、入ってください」
言い終わるか否か、チャンは扉を開けた。ボルエスタの腕の中にいるたつとらを認めると、眉を顰め悔しそうに呻く。
「やっぱり、発作か。大丈夫そうか?」
ボルエスタが首を横に振る。大丈夫ではないという合図に、チャンが目を見開いた。
「今回は、肺を多くやられています。肺挫傷は肺炎を引き起こしやすいので、治るのには時間がかかると思います」
肺挫傷、という単語に、チャンは眉を寄せた。戦場で耳にしたら、諦めるほどの重症だ。
「どうしたらいい?」
「修道院へ運びます」
その答えに、チャンは驚いた。
「この容体で、移動に耐えられるのか?」
ボルエスタは眉を顰めながら俯き、腕の中のたつとらを見た。顔色は無いに等しい。呼吸もおかしいのは医師ではないチャンでも分かった。
「……彼がいつも言っている事を肯定する訳ではありませんが、たつは死にません。ここにいては、安心して休めないでしょう。多少無理をしても、今のうち移動したほうが良いかと僕は思います」
それに、とボルエスタはチャンを見た。チャンが首を傾げると、ボルエスタは眼鏡を押し上げた。
「この毛布の中、たつは全裸です。チャンは彼に服を着せられますか?」
その問いにチャンは固まった。そしてボルエスタは続ける。
「雑念を持たずテキパキとこなす自信が、情けないけど僕にはありません。だけど院長なら可能です」
「……なるほど。確かにその通りだ」
笑いながら言うチャンに、ボルエスタは自嘲気味に笑みを返す。医者でありながら情けない限りだが、認めざるを得なかった。
__________
目の前に立つ青年は、黒い髪に黒い瞳をしていた。
『俺の事を忘れたの?』
今度は誰だ、とたつとらは目を凝らすが、彼の顔は霧がかかった様に見えない。
『俺の事も、さくらの事も忘れたの?』
続けて問う彼は、こちらを見て笑う。その笑みに見覚えがあった。
『まぁいいか。あんたは俺で、俺はあんただ』
その姿が遠ざかり、その姿が見えなくなる。不思議と、それでいいと思った。
それでいいと、本能が言っているように。
__________
目を開けると見慣れた部屋にいた。
修道院だ、と思うと同時に懐かしさが駆け巡る。布団からも慣れ親しんだ匂いがして、目が潤んだ。
もう帰れないと諦めていた場所に、自身がこんなに執着していたとは驚きだった。
(それにしても……これは辛いな)
自分でもかなりの熱がでているのが分かる。胸の痛みはさることながら、息が上手く出来ない。咳込むとなかなか止められず、胸の痛みもどんどん増す。
ふと扉が開いて、人が駆けこんできた。咳込みながらその人物を見て、たつとらは笑みを零す。
「柚、都……」
院長は泣きながら、たつとらの背を擦る。その院長の頭を、彼はくしゃりと撫でた。齢80歳を超えると流石に誰もしてこない行為に、院長は少女に戻ったように瞳を揺らす。
「風邪、は、大丈夫だっ、た?」
息も絶え絶えに言うたつとらに、院長は何度も頷いて答える。
「……っナナシさま……いえ、たつとら様……また会えて、良かった」
「ナナシ、で、いい……」
咳込んでいるせいか、はたまた違う原因か、訳も分からず涙が零れる。
高熱で意識が朦朧としているせいか、ポロポロと流れる涙を院長が優しく拭いた。
「ナナシ様、眠りましょう。点滴を打たなければいけません」
「しゅ、らく……」
その言葉に気付いた院長は、そっと立つと眠る狐を連れてきた。布団を捲ると、たつとらの身体に沿わせるように寝かせる。
たつとらは安心した様に微笑むと、狐の背を撫でる。
(あんなに頑張ったのに、構ってあげられなくてごめん)
顔が熱くて、身体が自分のものとは思えないほど重い。目を瞑ると、引き込まれるように意識を失った。
_______
夕方になって、チャンはたつとらの部屋を訪れた。
彼は短い間隔で意識を失っては、起きてを繰り返している。
深く眠らないと点滴ができないと院長が困っており、経口投与しようとするが咳込んで吐いてしまうのだという。
口から薬を飲むとしても、何か胃に入れないと負担が大きい事も気にしていた。
「たつ、何か食べれそうか?」
チャンが心配そうに顔を覗き込んできて、たつとらは困った様に笑った。首を横に振ると、チャンの眉根が寄る。
たつとらも、もう面倒は掛けたくなかった。吐いたら、後片付けは自分ではなく他の者がしなくてはいけないのも、申し訳なくていたたまれなくなる。
その辺の森の中に転がしておいてくれればと思うが、さすがの彼もそれを言うと怒られると分かっていた。
(顔真っ赤だな。首まで赤い)
辛いだろう、とチャンは思った。自分だったら泣きながら辛いって喚いて、甘えるだけ甘えるが、目の前の友人はそんなこと微塵もしない。
「林檎のすりおろしたやつも、食べれないか?」
「……ご、めん」
チャンは謝る彼の髪を掬った。手に伝わる熱が、容体の悪さを物語っている。
「ボル太は、アカラ風邪の対応を手伝わされてる。お前の事心配してたぞ。ここの院長が、ボル太みたいに上手に注射出来ないって困ってたよ。もうすぐ来るはずだから、頑張れるか?」
たつとらは首を振って、また笑った。
「俺は大丈夫だから、ボルちゃんに休むように、伝えて。もう、大分、落ち着いたから……」
サイドデスクに置いてあるコップに、ストローが挿してある。それに視線を移すと、たつとらが少し上体を起こした。
「中身は、経口補水液で、こまめに飲んでるから、脱水は大丈夫。チャン、は、ご飯食べた?」
首を振るチャンを見ながら、たつとらは側にあった毛布を重ねてそれに寄りかかる。
「食べて、きなよ。チャン、も、疲れた、でしょ?」
息も絶え絶えに言うたつとらに、チャンは舌打ちをしながら近くの毛布を手に取った。毛布を首まで掛けてやり、コップを握らせる。
「もういい。もう喋らなくていい。ゆっくり休め。余計な事はもう考えんな」
たつとらが口を開こうとしたのを、チャンが制する。人差し指をたつとらの唇に当てると、しーっと言ったあと自身の口を開く。
「司奈菊草の効果は抜群だった。さすが藥王とあんただよ。国王も持ち直している。あんたの生徒たちは全員無事だ。羅漢してた生徒も軽症。他に気になってることあるか?」
明らかに嬉しそうな顔をするたつとらに、チャンはフッと笑った。
チャンは唇に当てていた指で、その輪郭をなぞる。いつもは艶やかな彼の唇も、色を失い乾いていた。それでも尚、彼の美しさは衰えない。
「たつは、ずるいな」
「………?」
チャンは欲しい者は手に入れてきたし、来る者も拒まない奔放な生活をしてきた。
欲しいと思ったら手に入るまで欲するし、パートナーがいる相手だって奪ったことがある。
でも目の前のこの男だけは、侵してはいけない聖域の様な気がするのだ。
そんな存在でありながら、男に唇を撫でられるという行為をされても、眉一つ動かさない。
多分このままキスをしても、この男は……。
「チャン」
掛けられた言葉に意識を引き戻され、チャンは目前まで迫っていた彼の顔を見た。もう顔を斜めにまでしていたチャンは、たつとらの美麗な顔を下から眺めながら固まる。そしてその状態のまま、たつとらはその唇を動かした。
「キス、するつもりか?」
「……だったらどうする?」
チャンは彼の意外な反応に、胸がザワザワと湧き立つのを感じる。
求愛の行動に、彼が初めて反応した。これはチャンにとって衝撃と歓喜をもたらした。
たつとらの下顎を逃さないように掴んで、彼の答えを胸を高鳴らせながら待つ。
「ボルちゃん、が、怒る」
「はぁ?」
彼の意外な返答に、チャンは階段から蹴落とされたような気がした。同時にぐつぐつと腹の奥から黒い感情が伸し上がってくる。
「……ボル太とデキてんのか?」
「……?いや、違うよ」
きっぱりと否定するたつとらの腹が読めず、チャンは舌打ちする。
「じゃぁお前が誰とキスしても、あいつには関係ねぇだろうが……ん?待てよ。お前誰かとキスした、のか?」
たつとらは頷くと「駿と」と言いながら、毛布を引き上げて咳をした。
(駿と!?)
チャンは頭が良く回る男である。駿というワードから色んな可能性を導き出し、側に眠る藥王を睨み付けるまでに至った。
(異形ってスキンシップが濃いのか?)
チャンは咳をしながら身体を揺らすたつとらを見た。流石にこのまま話をするのは酷だ。
後は妹に問いただそうと思いながら、ふとサイドデスクに目を留める。そこには手をつけられていない薬が小皿に入れて置いてあった。
チャンはその薬を手に取り、ニヤリと笑う。
咳が落ち着いて息を吐くたつとらの下顎に手を当て上に向かせると、その口の中に薬を投げ込んだ。
狼狽えるたつとらを見ながらチャンは経口補水液を口に含み、そのまま口付ける。
「む!ぐ……」
チャンの口から流し込まれた液体に更に狼狽えていると、背中を優しく叩かれ、咄嗟に喉をゴクリと鳴らした。
たつとらが薬を無事に飲み込んだのを確認すると、口付けたままチャンはニヤリと笑う。彼の口内は熱くて甘かった。
チャンは貪りたいのを必死で抑え、そのかわり派手なリップ音をたてて離れる。
「よし!上手に飲めたな」
「……いま、のは……?」
口から零れた液体を拭いながら聞くたつとらに、チャンはあっさりと言った。
「今のは、医療行為だ。ボル太も咎めはしない」
それを聞くと彼はほっと息を吐き、安心したように微笑んだ。
「そう、か。ありが、と」
(し、信じた……)
チャンは眉間を抑え、緩む頬が露見しないように俯いた。肩が震えたせいで、たつとらが酷く心配そうな顔をする。
「チャン、疲れてるな。早く、休もう」
「ん?ああ、分かったよ……。たつもゆっくり休むんだぞ」
頷いて、毛布を引き上げるたつとらの頭を乱暴にくしゃりと撫でる。
(くっそ、可愛いな)
弱っている時の彼は、不謹慎ながら普段よりぐっと可愛く見えてしまう。こんな状態の彼を独り占めしているボルエスタが羨ましい。
自分が抱く感情を全て否定しないチャンは、自分が嫉妬していることをあっさりと認めた。
金の髪をした男が、横たわった身体を揺らしてくる。
呼吸が苦しくて、身動ぎさえできないのに無茶なことを言う、と男を睨み付けた。
『情けないな、早くしろ。ヴィテさんにその姿見せるつもりか?』
ああ、そうだった。彼女はあまりにも背負いすぎている。それなのにこれ以上背負わせるのは酷だ。
せめて俺だけは、大丈夫でいないといけない。
__________
ボルエスタが頭上から降り続くシャワーを止めると、たつとらが苦しそうに咳をした。数回続く咳と、辛そうな喘鳴にボルエスタは背中を擦る。
(発作だ。どうする?まずは……)
ボルエスタが考えを巡らせていると、意識を取り戻した彼が顔を上げ、浴槽の方に手を伸ばしているのが見えた。
何をするかとボルエスタが困惑していると、何と彼は風呂の栓を抜こうと手を伸ばしているようだった。朦朧としている中でも、彼は自分の苦しんだ証拠を消そうと必死で手を伸ばす。
その姿にボルエスタは全身が粟立った。
「っ……たつ!!」
その声に彼はビクリと肩を揺らし、ひゅっと息を吸った。思い出したかのようにまた咳を繰り返し、伸ばしていた手が諦めたかのようにパタリと落ちた。
たつとらを抱えたまま、ボルエスタは備え付けのタオルをありったけ掴み、バスルームを出る。暖炉の前にあるソファにたつとらを座らせ、炎の魔法で暖炉に火を灯した。
ぜ、ぜ、と荒い呼吸を繰り返す彼の顔をタオルで拭うと、色を失った唇が震えている。
「一体いつから、あそこに……」
たつとらの身体は冷え切っている。意識のない状態で、いつから冷たい水に身を晒していたのだろう。
水を出した理由が自分の血の痕跡を消すためだったとしたら、目の前の弱り果てている男に対して怒りさえ湧いてくる。それと共に情けなさも襲ってきて、舌打ちしながら立ち上がった。
ボルエスタはベッドの方へ駆けると、毛布をひっつかみ暖炉の前に置く。暖炉の火は十分に燃え上がっているので、部屋の温度は直に上がるだろう。
「呼吸が苦しいですか?胸に痛みが?」
そう聞きながら濡れた服を脱がすため、たつとらの上着のボタンを外していく。頷くたつとらに眉を寄せながら、震える手が上手くボタンを外せないのに苛立った。
「じ、ぶんで……脱ぐ、よ……。ボルちゃんも、ぬれてるから……きが、えな?」
色のない唇で弧を描き、彼はゆっくり上体を起こした。
ゆっくりとした動作で上着を脱ぎ、たつとらはブルっと震える。置いてあったタオルで身体を拭いて、下も脱ごうとベルトに手を掛けた。
ボルエスタは咄嗟にたつとらから背を向け、暖炉の前で温めていた毛布を手に取る。背を向けたまま毛布を渡してくるボルエスタに、たつとらは微笑んだ。
(男同士なのに、照れてる)
毛布で身体を包むと、たつとらはその暖かさにほっと息を吐いた。そのままソファに横になると、カタカタ震える身体を押さえるように丸まる。
ボルエスタは彼から離れ、バスルームで服を脱ぐ。厚着をしていたお陰でインナーは濡れておらず、下も脱がなくて良さそうだった。
時折たつとらの咳込む声が聞こえ、胸がギュッと痛む。
(どうして、頼ってくれないんだ。どうして隠そうとする?)
いやそれ以前に、気付かなきゃいけなかったのかもしれない。
馬鹿みたいに浮かれて、自分たちの計画が成功したことに陶酔して……。当の救いたかった本人はこうして傷ついて横たわっているなんて、本末転倒も良いところだ。
たつとらは暖炉の炎が火の粉を上げながら燃えている様を見ていた。
(この炎もいつしか燃え尽きる時が来る。未練がましく燻って、今の自分みたいに……)
突然の浮遊感に目を開けると、毛布に包まれたままボルエスタに抱えあげられていた。ボルエスタはたつとらを抱えたまま暖炉の前に座ると、まだ濡れたままの彼の髪をタオルで拭う。
「温まるまで、ここに居ましょう」
たつとらはコホコホと咳をしながら、ボルエスタを見上げた。毛布の下から伝わる体温と、しっかり自分を支える逞しい身体に、安堵感が湧き上がってくる。
ぜ、ぜ、と喘鳴が響く。聞いてるこちらまで息が辛くなり、ボルエスタは彼の頭を自身の胸に凭れかけさせた。
「姿勢は辛くないですか?」
たつとらは首を振ると、ボルエスタの胸に頭を擦りつけた。
余程辛いのかもしれない。普段は絶対してこない可愛らしい行為に、ボルエスタの胸は不本意ながら大きく高鳴った。
「ボル、ちゃん……は、本当に……あっ、たかい」
荒い呼吸を繰り返しながら紡がれる言葉に、驚きながらも愛おしさが溢れ出る。ボルエスタはたつとらの背中を擦り、そのか細さに息を呑んだ。
胸にかかる重さが増したような気がして、ボルエスタはたつとらの様子を窺う。身体全てをボルエスタに預けて、彼は眠っていた。その身体をギュッと抱きしめると、またその細さに心が跳ねる。
(こんなにも、細い……)
女性とさほど変わらないその細さに、その繊細さに、いつも心が乱される。離したくない。ずっとこの手の中に留めておきたい。
場違いな独占欲に、自分自身への嫌悪感で一杯になる。医師として、あるまじき感情だと思う。なのにどうしてか抗う事が出来ない感情が、ボルエスタを支配してしまうのだ。
部屋の扉がノックされ、ボルエスタはハッと意識を引き戻された。
「たつ、ボル太?どっちかいるか?」
チャンの声に、ボルエスタは眼鏡を押し上げた。
「チャン、入ってください」
言い終わるか否か、チャンは扉を開けた。ボルエスタの腕の中にいるたつとらを認めると、眉を顰め悔しそうに呻く。
「やっぱり、発作か。大丈夫そうか?」
ボルエスタが首を横に振る。大丈夫ではないという合図に、チャンが目を見開いた。
「今回は、肺を多くやられています。肺挫傷は肺炎を引き起こしやすいので、治るのには時間がかかると思います」
肺挫傷、という単語に、チャンは眉を寄せた。戦場で耳にしたら、諦めるほどの重症だ。
「どうしたらいい?」
「修道院へ運びます」
その答えに、チャンは驚いた。
「この容体で、移動に耐えられるのか?」
ボルエスタは眉を顰めながら俯き、腕の中のたつとらを見た。顔色は無いに等しい。呼吸もおかしいのは医師ではないチャンでも分かった。
「……彼がいつも言っている事を肯定する訳ではありませんが、たつは死にません。ここにいては、安心して休めないでしょう。多少無理をしても、今のうち移動したほうが良いかと僕は思います」
それに、とボルエスタはチャンを見た。チャンが首を傾げると、ボルエスタは眼鏡を押し上げた。
「この毛布の中、たつは全裸です。チャンは彼に服を着せられますか?」
その問いにチャンは固まった。そしてボルエスタは続ける。
「雑念を持たずテキパキとこなす自信が、情けないけど僕にはありません。だけど院長なら可能です」
「……なるほど。確かにその通りだ」
笑いながら言うチャンに、ボルエスタは自嘲気味に笑みを返す。医者でありながら情けない限りだが、認めざるを得なかった。
__________
目の前に立つ青年は、黒い髪に黒い瞳をしていた。
『俺の事を忘れたの?』
今度は誰だ、とたつとらは目を凝らすが、彼の顔は霧がかかった様に見えない。
『俺の事も、さくらの事も忘れたの?』
続けて問う彼は、こちらを見て笑う。その笑みに見覚えがあった。
『まぁいいか。あんたは俺で、俺はあんただ』
その姿が遠ざかり、その姿が見えなくなる。不思議と、それでいいと思った。
それでいいと、本能が言っているように。
__________
目を開けると見慣れた部屋にいた。
修道院だ、と思うと同時に懐かしさが駆け巡る。布団からも慣れ親しんだ匂いがして、目が潤んだ。
もう帰れないと諦めていた場所に、自身がこんなに執着していたとは驚きだった。
(それにしても……これは辛いな)
自分でもかなりの熱がでているのが分かる。胸の痛みはさることながら、息が上手く出来ない。咳込むとなかなか止められず、胸の痛みもどんどん増す。
ふと扉が開いて、人が駆けこんできた。咳込みながらその人物を見て、たつとらは笑みを零す。
「柚、都……」
院長は泣きながら、たつとらの背を擦る。その院長の頭を、彼はくしゃりと撫でた。齢80歳を超えると流石に誰もしてこない行為に、院長は少女に戻ったように瞳を揺らす。
「風邪、は、大丈夫だっ、た?」
息も絶え絶えに言うたつとらに、院長は何度も頷いて答える。
「……っナナシさま……いえ、たつとら様……また会えて、良かった」
「ナナシ、で、いい……」
咳込んでいるせいか、はたまた違う原因か、訳も分からず涙が零れる。
高熱で意識が朦朧としているせいか、ポロポロと流れる涙を院長が優しく拭いた。
「ナナシ様、眠りましょう。点滴を打たなければいけません」
「しゅ、らく……」
その言葉に気付いた院長は、そっと立つと眠る狐を連れてきた。布団を捲ると、たつとらの身体に沿わせるように寝かせる。
たつとらは安心した様に微笑むと、狐の背を撫でる。
(あんなに頑張ったのに、構ってあげられなくてごめん)
顔が熱くて、身体が自分のものとは思えないほど重い。目を瞑ると、引き込まれるように意識を失った。
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夕方になって、チャンはたつとらの部屋を訪れた。
彼は短い間隔で意識を失っては、起きてを繰り返している。
深く眠らないと点滴ができないと院長が困っており、経口投与しようとするが咳込んで吐いてしまうのだという。
口から薬を飲むとしても、何か胃に入れないと負担が大きい事も気にしていた。
「たつ、何か食べれそうか?」
チャンが心配そうに顔を覗き込んできて、たつとらは困った様に笑った。首を横に振ると、チャンの眉根が寄る。
たつとらも、もう面倒は掛けたくなかった。吐いたら、後片付けは自分ではなく他の者がしなくてはいけないのも、申し訳なくていたたまれなくなる。
その辺の森の中に転がしておいてくれればと思うが、さすがの彼もそれを言うと怒られると分かっていた。
(顔真っ赤だな。首まで赤い)
辛いだろう、とチャンは思った。自分だったら泣きながら辛いって喚いて、甘えるだけ甘えるが、目の前の友人はそんなこと微塵もしない。
「林檎のすりおろしたやつも、食べれないか?」
「……ご、めん」
チャンは謝る彼の髪を掬った。手に伝わる熱が、容体の悪さを物語っている。
「ボル太は、アカラ風邪の対応を手伝わされてる。お前の事心配してたぞ。ここの院長が、ボル太みたいに上手に注射出来ないって困ってたよ。もうすぐ来るはずだから、頑張れるか?」
たつとらは首を振って、また笑った。
「俺は大丈夫だから、ボルちゃんに休むように、伝えて。もう、大分、落ち着いたから……」
サイドデスクに置いてあるコップに、ストローが挿してある。それに視線を移すと、たつとらが少し上体を起こした。
「中身は、経口補水液で、こまめに飲んでるから、脱水は大丈夫。チャン、は、ご飯食べた?」
首を振るチャンを見ながら、たつとらは側にあった毛布を重ねてそれに寄りかかる。
「食べて、きなよ。チャン、も、疲れた、でしょ?」
息も絶え絶えに言うたつとらに、チャンは舌打ちをしながら近くの毛布を手に取った。毛布を首まで掛けてやり、コップを握らせる。
「もういい。もう喋らなくていい。ゆっくり休め。余計な事はもう考えんな」
たつとらが口を開こうとしたのを、チャンが制する。人差し指をたつとらの唇に当てると、しーっと言ったあと自身の口を開く。
「司奈菊草の効果は抜群だった。さすが藥王とあんただよ。国王も持ち直している。あんたの生徒たちは全員無事だ。羅漢してた生徒も軽症。他に気になってることあるか?」
明らかに嬉しそうな顔をするたつとらに、チャンはフッと笑った。
チャンは唇に当てていた指で、その輪郭をなぞる。いつもは艶やかな彼の唇も、色を失い乾いていた。それでも尚、彼の美しさは衰えない。
「たつは、ずるいな」
「………?」
チャンは欲しい者は手に入れてきたし、来る者も拒まない奔放な生活をしてきた。
欲しいと思ったら手に入るまで欲するし、パートナーがいる相手だって奪ったことがある。
でも目の前のこの男だけは、侵してはいけない聖域の様な気がするのだ。
そんな存在でありながら、男に唇を撫でられるという行為をされても、眉一つ動かさない。
多分このままキスをしても、この男は……。
「チャン」
掛けられた言葉に意識を引き戻され、チャンは目前まで迫っていた彼の顔を見た。もう顔を斜めにまでしていたチャンは、たつとらの美麗な顔を下から眺めながら固まる。そしてその状態のまま、たつとらはその唇を動かした。
「キス、するつもりか?」
「……だったらどうする?」
チャンは彼の意外な反応に、胸がザワザワと湧き立つのを感じる。
求愛の行動に、彼が初めて反応した。これはチャンにとって衝撃と歓喜をもたらした。
たつとらの下顎を逃さないように掴んで、彼の答えを胸を高鳴らせながら待つ。
「ボルちゃん、が、怒る」
「はぁ?」
彼の意外な返答に、チャンは階段から蹴落とされたような気がした。同時にぐつぐつと腹の奥から黒い感情が伸し上がってくる。
「……ボル太とデキてんのか?」
「……?いや、違うよ」
きっぱりと否定するたつとらの腹が読めず、チャンは舌打ちする。
「じゃぁお前が誰とキスしても、あいつには関係ねぇだろうが……ん?待てよ。お前誰かとキスした、のか?」
たつとらは頷くと「駿と」と言いながら、毛布を引き上げて咳をした。
(駿と!?)
チャンは頭が良く回る男である。駿というワードから色んな可能性を導き出し、側に眠る藥王を睨み付けるまでに至った。
(異形ってスキンシップが濃いのか?)
チャンは咳をしながら身体を揺らすたつとらを見た。流石にこのまま話をするのは酷だ。
後は妹に問いただそうと思いながら、ふとサイドデスクに目を留める。そこには手をつけられていない薬が小皿に入れて置いてあった。
チャンはその薬を手に取り、ニヤリと笑う。
咳が落ち着いて息を吐くたつとらの下顎に手を当て上に向かせると、その口の中に薬を投げ込んだ。
狼狽えるたつとらを見ながらチャンは経口補水液を口に含み、そのまま口付ける。
「む!ぐ……」
チャンの口から流し込まれた液体に更に狼狽えていると、背中を優しく叩かれ、咄嗟に喉をゴクリと鳴らした。
たつとらが薬を無事に飲み込んだのを確認すると、口付けたままチャンはニヤリと笑う。彼の口内は熱くて甘かった。
チャンは貪りたいのを必死で抑え、そのかわり派手なリップ音をたてて離れる。
「よし!上手に飲めたな」
「……いま、のは……?」
口から零れた液体を拭いながら聞くたつとらに、チャンはあっさりと言った。
「今のは、医療行為だ。ボル太も咎めはしない」
それを聞くと彼はほっと息を吐き、安心したように微笑んだ。
「そう、か。ありが、と」
(し、信じた……)
チャンは眉間を抑え、緩む頬が露見しないように俯いた。肩が震えたせいで、たつとらが酷く心配そうな顔をする。
「チャン、疲れてるな。早く、休もう」
「ん?ああ、分かったよ……。たつもゆっくり休むんだぞ」
頷いて、毛布を引き上げるたつとらの頭を乱暴にくしゃりと撫でる。
(くっそ、可愛いな)
弱っている時の彼は、不謹慎ながら普段よりぐっと可愛く見えてしまう。こんな状態の彼を独り占めしているボルエスタが羨ましい。
自分が抱く感情を全て否定しないチャンは、自分が嫉妬していることをあっさりと認めた。
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