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トーヤの風呂屋編
31. ローズマリーの石鹸
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たつとらの持ってきたローズマリーで作った石鹸は、かなり人気があったようで飛ぶように売れているようだ。
そして今日もチカとトキはせっせと石鹸を袋に詰める。開店前の脱衣所で、たつとらもそれを手伝っていた。
浴室の掃除をし終わったルメリアとタールマが、足をタオルで拭いながら脱衣所に上がってくると、彼女たちも自然に袋詰めに参戦する。
「しばらく休んでていいのに。浴室掃除、意外と大変だろ?」
「ほんと大変よね。お風呂屋さんに感謝だわ」
そう言いながら手は止めない2人に、たつとらも笑顔で返す。
ふと入り口の引き戸が開いて、そこから狐が現れた。突如現れた狐に子供らは湧き立ち目を輝かすが、タールマとルメリアは冷たい目でそれを見遣る。
狐は湧き立つ子供には目もくれず、さも当然といった所作で彼はたつとらの膝に乗り丸まった。
彼は膝に乗ってきた狐に何も言う事なく、尚且つ作業も止めることは無い。肘を高く上げて狐の為のスペースを確保してやると、その尻尾が満足気にパタパタと揺れる。
「39,40と。納品分は揃ったぞ。2人で持っていける?」
トキとチカは頷くと、たつとらが分けてくれた石鹸をバッグに詰めていく。
ローズマリーの石鹸が人気過ぎて、トーヤの街で有名な宿に納品することになったらしいのだ。2人が去っても、袋詰めは進めていく。
膝の上にいる狐に圧力を掛けないようにか、手を目線の位置まで持ち上げて作業をする彼を、タールマは軽く溜息をつきながら見ていた。
ルメリアは膝の上の狐を、殺意のある目で見つめている。
「たっちゃん、その狐寝てばっかりじゃん。ほんとずっと、寝てばっかり!」
「狐って……寝てばっかりの生き物じゃなかったか?」
「たつ、狐は猫じゃないぞ。しかもそいつは厳密に言うと狐じゃない」
あ、そっか。といいながら彼は膝で寝ている狐を撫でた。2人はそれを見ながら作業を続けるが、ルメリアは苛立ちを隠せず袋もくしゃくしゃになっている。
「朱楽は、異形なのに薬草を生えさせることができるし、知識もある。相当勉強したんだと思う」
「にしても甘やかせすぎじゃない?」
そこまで聞いて、狐が頭を上げ薄目を開いた。
「なんや、文句でもあるんか!狐の姿やねん!何も出来へんやろ!」
「それにしても寝てばっかじゃん!」
「朱楽、静かに。ジャックだ」
たつとらが手元から目を離さずに言うと、狐はすぐに黙り込んだ。間もなく、脱衣所の扉の音がしてジャックが顔を出した。
「たつ、ちょっと」
入り口で手招きをしているジャックの元へ行くと、狼狽えた様子で腕を掴まれた。
「悪いが、あの子たちが行った石鹸の納品先に行ってくれないか」
あの子たちとはチカとトキだという事は聞かずとも分かっていた。慌てた物言いに、たつとらも眉根を寄せる。
「何か問題でも?」
「あの納品は教会に行く途中にユトが仕入れてきたものなんだが、あの仕入れ先は良くねぇ。俺も仕入れ先を良く聞かなかった事が悪ぃんだが、あそこは、そのあっち系の宿なんだ」
あっち系とはたつとらにも想像できた。
下の階がバーになっており、接客する従業員全てが『買える』仕組みになっている。2階から上は一般的な宿になっていて、表向きは普通の宿として経営しているのだ。ユトはそれを知らなかったのであろう。
チカとトキはもう出発してしまっている。子供を行かせるべきところでは無かった。
行く先を手短に聞くと、たつとらは走った。
訪ねた宿はとても豪華なものだった。チカとトキは互いに顔を見合わせ、貰った地図に目を落としながらこの場所に間違いがないことを確認する。
場所も2人には馴染みのない場所で、路地裏にひっそりと建っていた。
金縁で彩られた呼び鈴を押すと、すこしの間の後に扉が開く。
中から顔を出したのは、若い男だった。
「なに?」
白いシャツに黒いスラックス。とても宿の主人には見えないが、見た目は整っており清潔感がある。瞳の奥にある冷たい印象に、子供たちは少し距離をとった。
「石鹸を納品にきました……風呂屋の使いです」
2人がたどたどしく言うのを聞くと、若い男は口の端を吊り上げニヤリと笑った。
「可愛いお遣いだな。入りなよ、皆よろこぶぜ」
中に入ると、開店前であるバーには従業員がそれぞれ寛いでいた。テーブルで化粧をする者や、下着姿のまま食事をとっている者もいる。
午後3時、訪ねた時間帯が悪かったようだ。
夜通し働いた従業員が、そろそろと起き始めて今日の支度をしだすのがこの時間帯のようだ。
突如入ってきた可愛い珍客を、店の一同は舐めまわす様に見る。
「あら可愛い。まさか新入り?うちの店も外道を極めたわね」
化粧をしていた女が言うと、側にいた下着姿の女がこちらへ向かってきた。
「オーナーからは聞いてないわよ」
「石鹸売りだよ。ほら、風呂屋の」
ああ、といいながら目の前に女が立つ。手に持った煙管から煙がふわりと浮かび、目線を合わせるように女が腰を折ったせいで、その匂いに2人は眉根を寄せた。
「本当に可愛いわね、どっちも。いまからスカウトしときましょうか」
「風呂屋ってあのユトの子だろ?そりゃ可愛いわ」
ニヤニヤ笑いながら男が寄ってくる。片手にグラスを握っており、中で茶色い液体が氷と共に揺れている。
「ぼ、僕たち石鹸を届けに来ただけです……」
トキが震えながら言うと、チカがコクコクと頷く。お互いに手を繋いで身を寄せあう様は、さながら狼に囲まれた兎のようだ。
「風呂屋にはもったいねぇよ。男の方も女の方も良い素質してる」
顔をよく見せな、と男がチカの顎に指を這わせようとしたとき、入り口のドアが豪快に開いた。
入り口に立つ人物を見て、チカとトキは叫んだ。
「たつ!」
たつとらは入り口に立ち、普段の温和な雰囲気は微塵も感じられない表情で立っている。走ってきたはずなのに息は全く乱れていないようだ。
「その子らに触るな」
チカとトキが脱兎のごとく走り出し、たつとらの腕に収まる。安堵感からか2人はわぁわぁ泣き出した。相当我慢していたのだろう、無理もないことだった。
たつとらは落ち着けるように髪を撫でた後、男を睨んだ。
チカの顎を撫でようとしていた男が、卑し気な笑顔を浮かべながら口笛を吹いた。
「こりゃ驚いた。あんた誰だ?すげぇ綺麗な顔してんな」
近づいてくる男から視線を外し、たつとらはしゃがんで子供たちと向き合う。たどたどしく話をする子供らの顔色を見ながら優しく微笑んだ。
「怪我は無い?……ん?代金もらってない?うん、大丈夫だよ」
「もっと顔みせ……」
たつとらは触れようとしてきた男の手首を掴むと、キュッと捻る。男は苦悶の顔を浮かべると、大げさなほど騒ぎ立てた。
「いてててて!!おい、こいつ手を上げたぞ!!!」
たつとらはパッと手を離すと、立ち上がってトキとチカを自身の後ろへ隠す。
たつとらはおもむろに手を出すと、「代金は?」と冷たく言い放った。それを見ていた下着姿の女が、ニヤリと笑う。
「あんたが今手を上げたのは、うちの演奏担当でね。あらあらあら、今日は楽器の演奏はできなさそうだねぇ。あんたのせいで」
紫煙を吐き出しながらそう言うと、女はゆっくりと近づいてきた。腰をくねらせ、媚びるような眼差しをしながら微笑みを浮かべる。自身の身体に随分と自信があるのだろう。くびれた腰と豊かな胸を強調した下着は、見るもの全てを誘惑するかのようだ。
「あんた楽器はできるかい?」
たつとらが首を振ると、女は勝ち誇ったように笑った。
「あの感じだと、3日は仕事できないねぇ。石鹸代だけでは済まされないよ?」
「そうか?そんなに痛かったかな?」
加減が足りなかったか?とたつとらは首を傾げた。最近人間を相手にしたことがないから、もしかしたら力を入れすぎたかもしれない。
石鹸代は貰えないどころか、このままではジャックに迷惑が掛かりそうだ。
「なにをすればいい?」
(かかった!)
下着姿の女、この店の店長であるランサーはほくそ笑んだ。
「あんたが働けばいいだろう?3日で良い。楽器が出来ないなら給仕でもやってもらうわ」
「……給仕で良いのか?」
「言っとくけど、この店は従業員全員が商品よ。言い値でお互いが合意したら2階へ行くことになってる」
たつとらは首を傾げ、腕を組んだ。
「合意しなければ?」
「そりゃ合意が無ければ決裂よ。でも目の前に札束積まれたら、その決心は揺らぐわよ?」
この店に来る客層は主に富裕層だ。
特に男娼を求めてやってくる客というのは富を持ち、かつ美しい客が多い傾向にある。店側としても旨味のある客なのだ。特に彼女たちは金に糸目を付けない。
面白みのない日常を彩る一瞬を、この店に求めてやってくるのだ。
金を積まれて、綺麗な女と寝るなんて願ってもないことのはずだ。現にこの宿で働く男娼はほぼ100%の確率で取引に応じている。
(この男にはその価値がある。売れる)
頬が緩むのを隠す気もなく、ランサーは笑う。たつとらが腕を組んだまま口を開いた。
「いつからだ?」
「そりゃ今からよ」
間髪入れずに答えると彼はしばらく考えた後、後ろを振り返ってしゃがんだ。ずっと足に縋りついていた2人に視線を合わせると、優しく微笑む。
「チカ、トキ。今から帰って、ジャックに伝えてくれ。今から宿屋で働くって事と……石鹸代は待ってくれってこと。伝えられるな?」
「たつ……でも……」
「この店を出たら、俺の狐が待っているから一緒に帰るんだ。離れてはいけないよ」
不安そうな顔が少しだけ和らいだ。朱楽も少しは役に立つと、たつとらは笑った。
「わかった。必ず伝えるよ」
そう言い残すと2人は店を出た。
本当に待っていた狐は、2人を見遣ると興味なさげに風呂屋へ歩き出す。2人は顔を見合わせると、その尻尾を追いかけた。
__________
「え!?なんでそんな事に!?」
ジャックは頭を抱え、ユトはお玉を持ったまま固まっていた。
浴室掃除の褒美でもある一番風呂を終えたホカホカの元教師陣は、口を開けたまま固まっている。
「その宿ってアレな宿だよなぁ?……大丈夫なのか?まぁ野郎だし問題ないか」
チャンが言うと、女性陣が何とも言えないような表情を浮かべる。
「ごめん、なんか想像したくないというか、なんというか……」
ミンユエが言うと、ルメリアが激しく同意する。
「分かる!私たちよりずっと長生きだから、経験も豊富なはず、なんだけど、ああ、想像したくない……!」
タールマに至っては俯いたままずっと黙り込んでいる。チャンが笑って茶化す様に言う。
「あんたら、たつのことマスコットキャラみたいに思ってんだろ?あいつだって男なんだからすることはするだろ、ははは!」
「お兄ちゃん!!」
「……すまん」
珍しく声を荒げるミンユエに、チャンは一瞬で大人しくなった。先ほどからずっと考え込んでいるボルエスタに一同は目線を向ける。その視線に気づいたのか「あ、いや……」と言いながら彼は眼鏡をクイっと押し上げた。
「体調は万全ではないですが…問題ないと思います。ただ、彼のトラブル体質が懸念されますね。また何か起こらないと良いのですが」
確かに。と全員が思った。
「潰す?あの宿」
物騒なことを言いだすルメリアにジャックは目をひん剥いた。見た目は可愛くか弱そうな女性であるため、そんな言葉が飛び出すとは思わなかったのだ。
「可能だが、問題になるぞ。私たちはまだ国軍に在籍しているんだから……」
「お前さんたち、軍人なのか?ウェリンクの?」
ジャックが言うと、言ってなかったっけ?というような目を一同は向けてくる。ミンユエが笑顔を作って口を開いた。
「そうなんです。皆軍人です。すみません、説明してなかったですね…」
ウェリンク軍といえば、屈強な戦士として有名である。となるとたつとらも軍人だろう、とジャックは思った。
「ジャックさん、お店には入れそうですかね?様子を見に行きたいんですが……」
「ん?ああ、あそこは会員制だ。富裕層しか入れねぇ高級宿だよ」
タールマが唸り、一同が黙り込む。
「忍び込むか」
チャンがニヤリと笑いながら言うのを、皆が不安そうな目で見つめる。
「なんだその目は。俺は隠密もやってたんだよ、昔。様子見てくるよ」
そう言うと制止も聞かず部屋を出ていった。
「不安でしかない」そう呟くミンユエにタールマは黙って頷いた。
__________
宿の一室に忍び込んだチャンは、備え付けの鏡で自身の姿を確認する。
綺麗にセットされた髪、ジャケットにベスト。見た目は貴族そのもの、に見えるはずだ。
門の外の見張りがチケットの様な物を確認していたので、店の中の従業員は客全員を把握していないはずだ。
廊下を出ると、あたかも『今しがた事を終わらせました』かのような表情を浮かべる。ネクタイを締め直しながら階段を降りると、すぐにバーが見えてきた。
際どいドレスを着た女がピアノを弾いており、周りの男たちは静かに聞き入っている、ように見えるがどこを見ているかは一目瞭然だった。
富裕層や貴族たちはお行儀よく座っている。だが頭の中は女や金の事でいっぱいだろう。だけど表に出すことは無い。店側も下品になりすぎないように努めているようで、上品で色気のある演出をしているようだ。
もうすることしてきたという顔でバーカウンターの隅に腰かけると、女のバーテンダーが注文を聞いてきた。腰回りは細いのに、胸が馬鹿みたいにでかいのは下着のせいだろうか。
そう思いながらも酒を注文すると、チャンは店内を見回した。
たつとらは意外なほどすぐ見つかった。
彼は、滅茶苦茶真面目に仕事をしていた。
注文を取り、テーブルを拭き、客を案内し……常時くるくると動き回っている。席は満席で女性客のほぼ全員から熱い視線を送られるも、彼は気付いてるのか否かただただ働いている。
バーテンダーの服が良く似合っていて、普段ふわふわとしている髪も綺麗に整えられていた。腰巻をしているせいか細い腰が際立っていて、捲った袖から出ている腕は丁度良く筋肉が付き細く伸びていた。男性とは想えないほど白い肌だ。
驚いたことに彼は酒も作れるらしく、他のバーテンダーと連携しながら業務をこなしている。もうすでに仲良しになっているらしく、笑顔を湛えながら酒を作ったり運んだり……。
そう、この宿の働き方としては間違っている。
普通は酒を運んだ時に熱い視線を送ったり、注文を受けた時に甘い言葉を囁いたりするのがここでは普通なのだ。女性からは声を掛け辛いだろうから、きっかけを作るのがここの従業員の役目なのだろうが、わざとやっているのか何なのか…チャンは頬が緩んだ。
(たつらしいな。おもしれ……)
そうこうしていると、この店の主人らしい女がたつとらに近づいてくる。チャンは聞き耳を立てた。
「T!そんなに真面目にしなくていいから!お客様ともっとお話をして!」
Tというのはたつとらの源氏名だろう。たつとらは不思議そうな顔を浮かべている。
周りにいた女性客が、いいぞ!グッジョブ!という視線を店主に送っている中、一人の女性客が声をかける。
店の中でも上客なのだろう。身に着けている物が彼女の富を象徴している。50歳ほどだろうが実際にはもっと上かもしない。若いころはもっと美しかったであろうその顔は、今でも十分魅力的だ。
「しばらくお話しても?」
女主人が上品に笑い、たつとらに座れと命じたようだ。彼は向かいに座ると、笑顔を向けた。
それから数十分、会話は途切れないまま続いていた。
「カヤナ様はトーヤのモンテリーナ家出身なんですか?初代当主のサグラム公は弓の名手ですよね」
女性客、カヤナは顔を輝かせ、花が咲いたように笑う。
「何ということ、若いのに良くご存知ね。サグラムは私の父で、私は末っ子だったのよ」
「なんとお嬢様でしたか。サグラム公も秀麗な方でしたから、お嬢様もこんなに美しいのですね」
「い、嫌だわお嬢様だなんて……」
カヤナが顔を赤くするのに気付かないまま、たつとらは続ける。
「そして、トーヤでも名家のサガラ家に嫁いだんですね」
「……そうよ、主人はずっと仕事仕事で私は放ったらかし、子供たちも成人して家を離れたわ。どうにもこうにも寂しくてね……」
グラスが空になったのを見て、果実酒を紅茶で割ったものを差し出す。ナッツの殻を割ってやりながら、たつとらは黙って話を聞いている。
「私は趣味が手芸で、新しい作品に取り組むたびに主人は『また新しいやつ作ってるのか』って言ってくるのよ。自分は多忙で、趣味に没頭できる私が妬ましいんだわ。確かにあの人の稼ぎで食べているし、私は暇で仕方ない。女は飾りでしかないなんて生きる意味がない……」
カヤナが溜息をつくと、たつとらが口を開いた。
「カヤナ様、手芸はお子さんが家を出られてからの趣味ですか?」
「そうだけど、どうして?」
「以前は何を?」
「そうね、馬で森を駆けたり狩りをしたり……そんなのが趣味だった。けれど子供が生まれたらそれどころじゃなくなって……」
「お子さんが生まれる前は、ご主人と狩りをしていたのでは?」
その言葉を聞いて、カヤナはハッとした顔をした。たつとらはニコニコしながらナッツの殻を剥く。
「本当は奥様と一緒に狩りがしたいけど、奥様が別の趣味を見つけてしまったら寂しいのかもしれませんね」
カヤナは頬に手を当て、赤くなった顔を覆う。恥ずかしくなったのか、酔いが回ったのかクスクスと笑いだした。たつとらもそれを見てクスクスと笑う。
(なんだこれ、女子会か)
チャンが呆れた顔を浮かべ、チーズを齧る。よく見ると周辺の女性客が皆、カヤナの席に釘付けになっているようだ。クスクスと笑うたつとらを見ながら眉尻を下げる女性陣は、今夜『男狩り』に来た事さえも忘れているようだ。
カヤナが帰ると言うので、たつとらは椅子を引き彼女の上着を取りに向かった。
カヤナが誰も買わずに帰るのは久しぶりだった。交渉成立時の半分を頂くことになっている店側は堪ったものでは無い。女主人が引き留めようとすると、カヤナが札束を取り出した。
「これは置いていく。Tちゃんにまた来るって伝えて」
上着を持ってきたたつとらに微笑むと、彼女は店を出ていった。
その後も挑戦する女性客はいたが、その笑顔に絆され全員失敗に終わった。失敗に終わったのに満足して帰る女性陣は必ず金を置いて帰る。前代未聞の事態だった。
チャンは何だか自分が阿保らしくなり、宿に帰る事にした。
そして今日もチカとトキはせっせと石鹸を袋に詰める。開店前の脱衣所で、たつとらもそれを手伝っていた。
浴室の掃除をし終わったルメリアとタールマが、足をタオルで拭いながら脱衣所に上がってくると、彼女たちも自然に袋詰めに参戦する。
「しばらく休んでていいのに。浴室掃除、意外と大変だろ?」
「ほんと大変よね。お風呂屋さんに感謝だわ」
そう言いながら手は止めない2人に、たつとらも笑顔で返す。
ふと入り口の引き戸が開いて、そこから狐が現れた。突如現れた狐に子供らは湧き立ち目を輝かすが、タールマとルメリアは冷たい目でそれを見遣る。
狐は湧き立つ子供には目もくれず、さも当然といった所作で彼はたつとらの膝に乗り丸まった。
彼は膝に乗ってきた狐に何も言う事なく、尚且つ作業も止めることは無い。肘を高く上げて狐の為のスペースを確保してやると、その尻尾が満足気にパタパタと揺れる。
「39,40と。納品分は揃ったぞ。2人で持っていける?」
トキとチカは頷くと、たつとらが分けてくれた石鹸をバッグに詰めていく。
ローズマリーの石鹸が人気過ぎて、トーヤの街で有名な宿に納品することになったらしいのだ。2人が去っても、袋詰めは進めていく。
膝の上にいる狐に圧力を掛けないようにか、手を目線の位置まで持ち上げて作業をする彼を、タールマは軽く溜息をつきながら見ていた。
ルメリアは膝の上の狐を、殺意のある目で見つめている。
「たっちゃん、その狐寝てばっかりじゃん。ほんとずっと、寝てばっかり!」
「狐って……寝てばっかりの生き物じゃなかったか?」
「たつ、狐は猫じゃないぞ。しかもそいつは厳密に言うと狐じゃない」
あ、そっか。といいながら彼は膝で寝ている狐を撫でた。2人はそれを見ながら作業を続けるが、ルメリアは苛立ちを隠せず袋もくしゃくしゃになっている。
「朱楽は、異形なのに薬草を生えさせることができるし、知識もある。相当勉強したんだと思う」
「にしても甘やかせすぎじゃない?」
そこまで聞いて、狐が頭を上げ薄目を開いた。
「なんや、文句でもあるんか!狐の姿やねん!何も出来へんやろ!」
「それにしても寝てばっかじゃん!」
「朱楽、静かに。ジャックだ」
たつとらが手元から目を離さずに言うと、狐はすぐに黙り込んだ。間もなく、脱衣所の扉の音がしてジャックが顔を出した。
「たつ、ちょっと」
入り口で手招きをしているジャックの元へ行くと、狼狽えた様子で腕を掴まれた。
「悪いが、あの子たちが行った石鹸の納品先に行ってくれないか」
あの子たちとはチカとトキだという事は聞かずとも分かっていた。慌てた物言いに、たつとらも眉根を寄せる。
「何か問題でも?」
「あの納品は教会に行く途中にユトが仕入れてきたものなんだが、あの仕入れ先は良くねぇ。俺も仕入れ先を良く聞かなかった事が悪ぃんだが、あそこは、そのあっち系の宿なんだ」
あっち系とはたつとらにも想像できた。
下の階がバーになっており、接客する従業員全てが『買える』仕組みになっている。2階から上は一般的な宿になっていて、表向きは普通の宿として経営しているのだ。ユトはそれを知らなかったのであろう。
チカとトキはもう出発してしまっている。子供を行かせるべきところでは無かった。
行く先を手短に聞くと、たつとらは走った。
訪ねた宿はとても豪華なものだった。チカとトキは互いに顔を見合わせ、貰った地図に目を落としながらこの場所に間違いがないことを確認する。
場所も2人には馴染みのない場所で、路地裏にひっそりと建っていた。
金縁で彩られた呼び鈴を押すと、すこしの間の後に扉が開く。
中から顔を出したのは、若い男だった。
「なに?」
白いシャツに黒いスラックス。とても宿の主人には見えないが、見た目は整っており清潔感がある。瞳の奥にある冷たい印象に、子供たちは少し距離をとった。
「石鹸を納品にきました……風呂屋の使いです」
2人がたどたどしく言うのを聞くと、若い男は口の端を吊り上げニヤリと笑った。
「可愛いお遣いだな。入りなよ、皆よろこぶぜ」
中に入ると、開店前であるバーには従業員がそれぞれ寛いでいた。テーブルで化粧をする者や、下着姿のまま食事をとっている者もいる。
午後3時、訪ねた時間帯が悪かったようだ。
夜通し働いた従業員が、そろそろと起き始めて今日の支度をしだすのがこの時間帯のようだ。
突如入ってきた可愛い珍客を、店の一同は舐めまわす様に見る。
「あら可愛い。まさか新入り?うちの店も外道を極めたわね」
化粧をしていた女が言うと、側にいた下着姿の女がこちらへ向かってきた。
「オーナーからは聞いてないわよ」
「石鹸売りだよ。ほら、風呂屋の」
ああ、といいながら目の前に女が立つ。手に持った煙管から煙がふわりと浮かび、目線を合わせるように女が腰を折ったせいで、その匂いに2人は眉根を寄せた。
「本当に可愛いわね、どっちも。いまからスカウトしときましょうか」
「風呂屋ってあのユトの子だろ?そりゃ可愛いわ」
ニヤニヤ笑いながら男が寄ってくる。片手にグラスを握っており、中で茶色い液体が氷と共に揺れている。
「ぼ、僕たち石鹸を届けに来ただけです……」
トキが震えながら言うと、チカがコクコクと頷く。お互いに手を繋いで身を寄せあう様は、さながら狼に囲まれた兎のようだ。
「風呂屋にはもったいねぇよ。男の方も女の方も良い素質してる」
顔をよく見せな、と男がチカの顎に指を這わせようとしたとき、入り口のドアが豪快に開いた。
入り口に立つ人物を見て、チカとトキは叫んだ。
「たつ!」
たつとらは入り口に立ち、普段の温和な雰囲気は微塵も感じられない表情で立っている。走ってきたはずなのに息は全く乱れていないようだ。
「その子らに触るな」
チカとトキが脱兎のごとく走り出し、たつとらの腕に収まる。安堵感からか2人はわぁわぁ泣き出した。相当我慢していたのだろう、無理もないことだった。
たつとらは落ち着けるように髪を撫でた後、男を睨んだ。
チカの顎を撫でようとしていた男が、卑し気な笑顔を浮かべながら口笛を吹いた。
「こりゃ驚いた。あんた誰だ?すげぇ綺麗な顔してんな」
近づいてくる男から視線を外し、たつとらはしゃがんで子供たちと向き合う。たどたどしく話をする子供らの顔色を見ながら優しく微笑んだ。
「怪我は無い?……ん?代金もらってない?うん、大丈夫だよ」
「もっと顔みせ……」
たつとらは触れようとしてきた男の手首を掴むと、キュッと捻る。男は苦悶の顔を浮かべると、大げさなほど騒ぎ立てた。
「いてててて!!おい、こいつ手を上げたぞ!!!」
たつとらはパッと手を離すと、立ち上がってトキとチカを自身の後ろへ隠す。
たつとらはおもむろに手を出すと、「代金は?」と冷たく言い放った。それを見ていた下着姿の女が、ニヤリと笑う。
「あんたが今手を上げたのは、うちの演奏担当でね。あらあらあら、今日は楽器の演奏はできなさそうだねぇ。あんたのせいで」
紫煙を吐き出しながらそう言うと、女はゆっくりと近づいてきた。腰をくねらせ、媚びるような眼差しをしながら微笑みを浮かべる。自身の身体に随分と自信があるのだろう。くびれた腰と豊かな胸を強調した下着は、見るもの全てを誘惑するかのようだ。
「あんた楽器はできるかい?」
たつとらが首を振ると、女は勝ち誇ったように笑った。
「あの感じだと、3日は仕事できないねぇ。石鹸代だけでは済まされないよ?」
「そうか?そんなに痛かったかな?」
加減が足りなかったか?とたつとらは首を傾げた。最近人間を相手にしたことがないから、もしかしたら力を入れすぎたかもしれない。
石鹸代は貰えないどころか、このままではジャックに迷惑が掛かりそうだ。
「なにをすればいい?」
(かかった!)
下着姿の女、この店の店長であるランサーはほくそ笑んだ。
「あんたが働けばいいだろう?3日で良い。楽器が出来ないなら給仕でもやってもらうわ」
「……給仕で良いのか?」
「言っとくけど、この店は従業員全員が商品よ。言い値でお互いが合意したら2階へ行くことになってる」
たつとらは首を傾げ、腕を組んだ。
「合意しなければ?」
「そりゃ合意が無ければ決裂よ。でも目の前に札束積まれたら、その決心は揺らぐわよ?」
この店に来る客層は主に富裕層だ。
特に男娼を求めてやってくる客というのは富を持ち、かつ美しい客が多い傾向にある。店側としても旨味のある客なのだ。特に彼女たちは金に糸目を付けない。
面白みのない日常を彩る一瞬を、この店に求めてやってくるのだ。
金を積まれて、綺麗な女と寝るなんて願ってもないことのはずだ。現にこの宿で働く男娼はほぼ100%の確率で取引に応じている。
(この男にはその価値がある。売れる)
頬が緩むのを隠す気もなく、ランサーは笑う。たつとらが腕を組んだまま口を開いた。
「いつからだ?」
「そりゃ今からよ」
間髪入れずに答えると彼はしばらく考えた後、後ろを振り返ってしゃがんだ。ずっと足に縋りついていた2人に視線を合わせると、優しく微笑む。
「チカ、トキ。今から帰って、ジャックに伝えてくれ。今から宿屋で働くって事と……石鹸代は待ってくれってこと。伝えられるな?」
「たつ……でも……」
「この店を出たら、俺の狐が待っているから一緒に帰るんだ。離れてはいけないよ」
不安そうな顔が少しだけ和らいだ。朱楽も少しは役に立つと、たつとらは笑った。
「わかった。必ず伝えるよ」
そう言い残すと2人は店を出た。
本当に待っていた狐は、2人を見遣ると興味なさげに風呂屋へ歩き出す。2人は顔を見合わせると、その尻尾を追いかけた。
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「え!?なんでそんな事に!?」
ジャックは頭を抱え、ユトはお玉を持ったまま固まっていた。
浴室掃除の褒美でもある一番風呂を終えたホカホカの元教師陣は、口を開けたまま固まっている。
「その宿ってアレな宿だよなぁ?……大丈夫なのか?まぁ野郎だし問題ないか」
チャンが言うと、女性陣が何とも言えないような表情を浮かべる。
「ごめん、なんか想像したくないというか、なんというか……」
ミンユエが言うと、ルメリアが激しく同意する。
「分かる!私たちよりずっと長生きだから、経験も豊富なはず、なんだけど、ああ、想像したくない……!」
タールマに至っては俯いたままずっと黙り込んでいる。チャンが笑って茶化す様に言う。
「あんたら、たつのことマスコットキャラみたいに思ってんだろ?あいつだって男なんだからすることはするだろ、ははは!」
「お兄ちゃん!!」
「……すまん」
珍しく声を荒げるミンユエに、チャンは一瞬で大人しくなった。先ほどからずっと考え込んでいるボルエスタに一同は目線を向ける。その視線に気づいたのか「あ、いや……」と言いながら彼は眼鏡をクイっと押し上げた。
「体調は万全ではないですが…問題ないと思います。ただ、彼のトラブル体質が懸念されますね。また何か起こらないと良いのですが」
確かに。と全員が思った。
「潰す?あの宿」
物騒なことを言いだすルメリアにジャックは目をひん剥いた。見た目は可愛くか弱そうな女性であるため、そんな言葉が飛び出すとは思わなかったのだ。
「可能だが、問題になるぞ。私たちはまだ国軍に在籍しているんだから……」
「お前さんたち、軍人なのか?ウェリンクの?」
ジャックが言うと、言ってなかったっけ?というような目を一同は向けてくる。ミンユエが笑顔を作って口を開いた。
「そうなんです。皆軍人です。すみません、説明してなかったですね…」
ウェリンク軍といえば、屈強な戦士として有名である。となるとたつとらも軍人だろう、とジャックは思った。
「ジャックさん、お店には入れそうですかね?様子を見に行きたいんですが……」
「ん?ああ、あそこは会員制だ。富裕層しか入れねぇ高級宿だよ」
タールマが唸り、一同が黙り込む。
「忍び込むか」
チャンがニヤリと笑いながら言うのを、皆が不安そうな目で見つめる。
「なんだその目は。俺は隠密もやってたんだよ、昔。様子見てくるよ」
そう言うと制止も聞かず部屋を出ていった。
「不安でしかない」そう呟くミンユエにタールマは黙って頷いた。
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宿の一室に忍び込んだチャンは、備え付けの鏡で自身の姿を確認する。
綺麗にセットされた髪、ジャケットにベスト。見た目は貴族そのもの、に見えるはずだ。
門の外の見張りがチケットの様な物を確認していたので、店の中の従業員は客全員を把握していないはずだ。
廊下を出ると、あたかも『今しがた事を終わらせました』かのような表情を浮かべる。ネクタイを締め直しながら階段を降りると、すぐにバーが見えてきた。
際どいドレスを着た女がピアノを弾いており、周りの男たちは静かに聞き入っている、ように見えるがどこを見ているかは一目瞭然だった。
富裕層や貴族たちはお行儀よく座っている。だが頭の中は女や金の事でいっぱいだろう。だけど表に出すことは無い。店側も下品になりすぎないように努めているようで、上品で色気のある演出をしているようだ。
もうすることしてきたという顔でバーカウンターの隅に腰かけると、女のバーテンダーが注文を聞いてきた。腰回りは細いのに、胸が馬鹿みたいにでかいのは下着のせいだろうか。
そう思いながらも酒を注文すると、チャンは店内を見回した。
たつとらは意外なほどすぐ見つかった。
彼は、滅茶苦茶真面目に仕事をしていた。
注文を取り、テーブルを拭き、客を案内し……常時くるくると動き回っている。席は満席で女性客のほぼ全員から熱い視線を送られるも、彼は気付いてるのか否かただただ働いている。
バーテンダーの服が良く似合っていて、普段ふわふわとしている髪も綺麗に整えられていた。腰巻をしているせいか細い腰が際立っていて、捲った袖から出ている腕は丁度良く筋肉が付き細く伸びていた。男性とは想えないほど白い肌だ。
驚いたことに彼は酒も作れるらしく、他のバーテンダーと連携しながら業務をこなしている。もうすでに仲良しになっているらしく、笑顔を湛えながら酒を作ったり運んだり……。
そう、この宿の働き方としては間違っている。
普通は酒を運んだ時に熱い視線を送ったり、注文を受けた時に甘い言葉を囁いたりするのがここでは普通なのだ。女性からは声を掛け辛いだろうから、きっかけを作るのがここの従業員の役目なのだろうが、わざとやっているのか何なのか…チャンは頬が緩んだ。
(たつらしいな。おもしれ……)
そうこうしていると、この店の主人らしい女がたつとらに近づいてくる。チャンは聞き耳を立てた。
「T!そんなに真面目にしなくていいから!お客様ともっとお話をして!」
Tというのはたつとらの源氏名だろう。たつとらは不思議そうな顔を浮かべている。
周りにいた女性客が、いいぞ!グッジョブ!という視線を店主に送っている中、一人の女性客が声をかける。
店の中でも上客なのだろう。身に着けている物が彼女の富を象徴している。50歳ほどだろうが実際にはもっと上かもしない。若いころはもっと美しかったであろうその顔は、今でも十分魅力的だ。
「しばらくお話しても?」
女主人が上品に笑い、たつとらに座れと命じたようだ。彼は向かいに座ると、笑顔を向けた。
それから数十分、会話は途切れないまま続いていた。
「カヤナ様はトーヤのモンテリーナ家出身なんですか?初代当主のサグラム公は弓の名手ですよね」
女性客、カヤナは顔を輝かせ、花が咲いたように笑う。
「何ということ、若いのに良くご存知ね。サグラムは私の父で、私は末っ子だったのよ」
「なんとお嬢様でしたか。サグラム公も秀麗な方でしたから、お嬢様もこんなに美しいのですね」
「い、嫌だわお嬢様だなんて……」
カヤナが顔を赤くするのに気付かないまま、たつとらは続ける。
「そして、トーヤでも名家のサガラ家に嫁いだんですね」
「……そうよ、主人はずっと仕事仕事で私は放ったらかし、子供たちも成人して家を離れたわ。どうにもこうにも寂しくてね……」
グラスが空になったのを見て、果実酒を紅茶で割ったものを差し出す。ナッツの殻を割ってやりながら、たつとらは黙って話を聞いている。
「私は趣味が手芸で、新しい作品に取り組むたびに主人は『また新しいやつ作ってるのか』って言ってくるのよ。自分は多忙で、趣味に没頭できる私が妬ましいんだわ。確かにあの人の稼ぎで食べているし、私は暇で仕方ない。女は飾りでしかないなんて生きる意味がない……」
カヤナが溜息をつくと、たつとらが口を開いた。
「カヤナ様、手芸はお子さんが家を出られてからの趣味ですか?」
「そうだけど、どうして?」
「以前は何を?」
「そうね、馬で森を駆けたり狩りをしたり……そんなのが趣味だった。けれど子供が生まれたらそれどころじゃなくなって……」
「お子さんが生まれる前は、ご主人と狩りをしていたのでは?」
その言葉を聞いて、カヤナはハッとした顔をした。たつとらはニコニコしながらナッツの殻を剥く。
「本当は奥様と一緒に狩りがしたいけど、奥様が別の趣味を見つけてしまったら寂しいのかもしれませんね」
カヤナは頬に手を当て、赤くなった顔を覆う。恥ずかしくなったのか、酔いが回ったのかクスクスと笑いだした。たつとらもそれを見てクスクスと笑う。
(なんだこれ、女子会か)
チャンが呆れた顔を浮かべ、チーズを齧る。よく見ると周辺の女性客が皆、カヤナの席に釘付けになっているようだ。クスクスと笑うたつとらを見ながら眉尻を下げる女性陣は、今夜『男狩り』に来た事さえも忘れているようだ。
カヤナが帰ると言うので、たつとらは椅子を引き彼女の上着を取りに向かった。
カヤナが誰も買わずに帰るのは久しぶりだった。交渉成立時の半分を頂くことになっている店側は堪ったものでは無い。女主人が引き留めようとすると、カヤナが札束を取り出した。
「これは置いていく。Tちゃんにまた来るって伝えて」
上着を持ってきたたつとらに微笑むと、彼女は店を出ていった。
その後も挑戦する女性客はいたが、その笑顔に絆され全員失敗に終わった。失敗に終わったのに満足して帰る女性陣は必ず金を置いて帰る。前代未聞の事態だった。
チャンは何だか自分が阿保らしくなり、宿に帰る事にした。
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