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SS
夫婦の日SSにしたかったSS ②
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翌日、和室に用意された服を前に、聡一朗は口を引き結んだ。何故引き結んでいるのかと言うと、緩む頬を抑えられないからだ。
『私も、獄主様と聡一朗様のデート見たかった!!』
泣きながら言うソイの顔が浮かび、聡一朗は口を覆う。
(デ、デート……? なのか?)
コウトから用意された服は、カジュアルなものが揃っていた。
パーカーやシャツ、ジーンズ、帽子……。これを獄主が着ると思うと、否が応でも心が踊る。
獄主の姿を思い浮かべながら服を手に取るも、何でも似合いそうだと聡一朗は苦笑いを零した。
「聡一朗」
「ひょあ!!」
突然尻を撫でられた聡一朗が振り向くと、そこには無表情の獄主が立っていた。聡一朗が上擦った声を上げたことが嬉しいのか、無表情がみるみる愉し気に変わっていく。
硬直した聡一朗の腰を掴み、獄主は耳元に口を寄せた。
「なんて声を出すんだ。誘っているのか?」
「い、いいえ~とんでもない。今からヤッたら下界に降りれない。っていうか、セクハラ上司みたいなことすんなよ!」
自身の腰にある獄主の手を払い退け、聡一朗は服を手に取った。
獄主は背も高ければ、スタイルも抜群に良い。あまり目立ちすぎると、行動に支障が出るかもしれない。
「黒のパーカーと、ジーンズで良いんじゃないかなぁ? これ、着てきて」
「……ああ」
聡一朗から手渡された服を手に取ると、獄主はその場で着ていた服を脱ぎ始めた。躊躇なく脱ぎ続け、みるみる裸になっていく。
「ちょ、ちょちょ、寝室で着て来いって……!」
「何故だ。聡一朗に隠すものなど何もない」
「お、俺の他にも居るだろ! トップの裸なんて見たら、テキロの黒目がどうなる事か……!」
「テキロ? テキロなどどこにいる?」
獄主の静かな声に、控えていたテキロがもの凄い勢いで後退していく。縁側から降りたテキロは、そこで待機していたソイと物陰に隠れた。
こちらを窺う二対の目に溜息を付きながら、聡一朗は視線を獄主へと戻す。そこには案の定素っ裸になった獄主が立っていた。
聡一朗は視線を逸らし、パンツを手に取った。それを獄主へと突き出す。
「……よ、よし! まずはパンツを履こう。……ほら!」
「聡一朗、手伝ってくれ」
「!!?」
「冗談だ」
狼狽える聡一朗を見て、獄主は吹き出した。そして穏やかに笑うと、聡一朗の額にそっと口付ける。
やたらニコニコしている獄主に、聡一朗は顔を赤らめながら口を開いた。
「エ、エン? 何かご機嫌だな? どうしたんだ?」
「……そりゃあ、聡一朗。デートだぞ?」
獄主の口から飛び出した「デート」という単語に、聡一朗は思わず固まった。そんな聡一朗の頬や耳朶に、獄主はごそごそと着替えながら器用に唇を落とす。
「お前は何を着るんだ? 聡一朗、楽しみで仕方がない」
「……ま、待ってくれ。昨日はあんまり乗り気じゃなかったのに……」
「里帰りをした時に、本当は城下町に連れて行ってやりたかった。今回で挽回できる思うと、嬉しくてな」
「……うっそ、それ……今、言う?」
鬼の王城の城下町がどんなものかは聡一朗も知らない。
しかし獄主と並んで歩いたり、買い物をしたり、買い食いしたり。想像するだけで胸がきゅっと熱くなる。前回の里帰りの時に、獄主がそんな事を考えていたと思うと、尚更胸が切なく絞られた。
(うっわ、俺、恋する女の子みたいじゃん! こんなにドキドキすんのか、デートの前って!)
今まで女性と付き合ったことはあるものの、聡一朗はこんなに心が高鳴ったことがない。
ちらりと視線を上げると、パーカーとジーンズ姿の獄主が目に入った。
ダボっとしたパーカーからすらりと伸びる脚。何頭身か数えたくなるくらいの小さな顔はは、恐ろしいほど整っている。
「っ!! だぁああ……。駄目だ……」
「? どうした?」
「いや、格好良すぎる。目が潰れる。うちの旦那さんが格好良すぎる……抑えてくれ、まじで」
「何を言っている。ほら、聡一朗も着替えろ」
そう言いながら、獄主は聡一朗の腰に手を回す。いつもより過剰なスキンシップに、聡一朗の思考回路は焼き切れる寸前だった。
(まじで、急に甘くなるの止めて……)
肩口に顔を埋め始めた獄主をちらりと見て、聡一朗はもそもそと着替え始めた。出発前からこれでは、先が思いやられる。
________
久しぶりの人間界は、やはり賑わっていた。
人生の最後が外国で終わった聡一朗にとって、日本の光景は懐かしいものばかりだ。都市部ではなく田舎のほうが好きな聡一朗だったが、久しぶりだった為か日本というだけで浮足立ってしまう。
「うっわ、人間いっぱい。日本人いっぱい」
「聡一朗、傍を離れるな。迷子になるぞ」
「フウトさん達がいるから、大丈夫でしょ?」
そう言いながら聡一朗は護衛2人を振り返った。人間界では姿を消す事をしないのか、2人は数メートル先を付いてくる。
その姿を見て、聡一朗は苦笑いを浮かべた。
(その恰好……本当にどうにかならなかったのか?)
護衛2人は、お揃いのトレーナーを身に着けている。一見普通のトレーナーだが、問題はバックプリントにあった。
フウトの背中には『推しを推すは今なり』と書かれており、ライトの背中には『尊い死を恐れるな』と書かれている。
(どこで買ったんだよ、あれ……)
そのトレーナーは、護衛2人が下界に降りるときの戦闘服なのだという。
角も納めて髪色も黒いが、2人とも骨格がいいため日本人には見えない。正直かなり目立つようだが、自覚しているようには見えなかった。
「聡一朗様、再度申し上げます」
「ん?」
「我々は壁です」
「我々は壁です」
「あ、うん。……分かりました」
出発前にも口酸っぱく言われた言葉を再度言われ、聡一朗は苦く笑いながら頭を掻いた。要は「居ない存在にしてくれ」という意味らしい。
『私も、獄主様と聡一朗様のデート見たかった!!』
泣きながら言うソイの顔が浮かび、聡一朗は口を覆う。
(デ、デート……? なのか?)
コウトから用意された服は、カジュアルなものが揃っていた。
パーカーやシャツ、ジーンズ、帽子……。これを獄主が着ると思うと、否が応でも心が踊る。
獄主の姿を思い浮かべながら服を手に取るも、何でも似合いそうだと聡一朗は苦笑いを零した。
「聡一朗」
「ひょあ!!」
突然尻を撫でられた聡一朗が振り向くと、そこには無表情の獄主が立っていた。聡一朗が上擦った声を上げたことが嬉しいのか、無表情がみるみる愉し気に変わっていく。
硬直した聡一朗の腰を掴み、獄主は耳元に口を寄せた。
「なんて声を出すんだ。誘っているのか?」
「い、いいえ~とんでもない。今からヤッたら下界に降りれない。っていうか、セクハラ上司みたいなことすんなよ!」
自身の腰にある獄主の手を払い退け、聡一朗は服を手に取った。
獄主は背も高ければ、スタイルも抜群に良い。あまり目立ちすぎると、行動に支障が出るかもしれない。
「黒のパーカーと、ジーンズで良いんじゃないかなぁ? これ、着てきて」
「……ああ」
聡一朗から手渡された服を手に取ると、獄主はその場で着ていた服を脱ぎ始めた。躊躇なく脱ぎ続け、みるみる裸になっていく。
「ちょ、ちょちょ、寝室で着て来いって……!」
「何故だ。聡一朗に隠すものなど何もない」
「お、俺の他にも居るだろ! トップの裸なんて見たら、テキロの黒目がどうなる事か……!」
「テキロ? テキロなどどこにいる?」
獄主の静かな声に、控えていたテキロがもの凄い勢いで後退していく。縁側から降りたテキロは、そこで待機していたソイと物陰に隠れた。
こちらを窺う二対の目に溜息を付きながら、聡一朗は視線を獄主へと戻す。そこには案の定素っ裸になった獄主が立っていた。
聡一朗は視線を逸らし、パンツを手に取った。それを獄主へと突き出す。
「……よ、よし! まずはパンツを履こう。……ほら!」
「聡一朗、手伝ってくれ」
「!!?」
「冗談だ」
狼狽える聡一朗を見て、獄主は吹き出した。そして穏やかに笑うと、聡一朗の額にそっと口付ける。
やたらニコニコしている獄主に、聡一朗は顔を赤らめながら口を開いた。
「エ、エン? 何かご機嫌だな? どうしたんだ?」
「……そりゃあ、聡一朗。デートだぞ?」
獄主の口から飛び出した「デート」という単語に、聡一朗は思わず固まった。そんな聡一朗の頬や耳朶に、獄主はごそごそと着替えながら器用に唇を落とす。
「お前は何を着るんだ? 聡一朗、楽しみで仕方がない」
「……ま、待ってくれ。昨日はあんまり乗り気じゃなかったのに……」
「里帰りをした時に、本当は城下町に連れて行ってやりたかった。今回で挽回できる思うと、嬉しくてな」
「……うっそ、それ……今、言う?」
鬼の王城の城下町がどんなものかは聡一朗も知らない。
しかし獄主と並んで歩いたり、買い物をしたり、買い食いしたり。想像するだけで胸がきゅっと熱くなる。前回の里帰りの時に、獄主がそんな事を考えていたと思うと、尚更胸が切なく絞られた。
(うっわ、俺、恋する女の子みたいじゃん! こんなにドキドキすんのか、デートの前って!)
今まで女性と付き合ったことはあるものの、聡一朗はこんなに心が高鳴ったことがない。
ちらりと視線を上げると、パーカーとジーンズ姿の獄主が目に入った。
ダボっとしたパーカーからすらりと伸びる脚。何頭身か数えたくなるくらいの小さな顔はは、恐ろしいほど整っている。
「っ!! だぁああ……。駄目だ……」
「? どうした?」
「いや、格好良すぎる。目が潰れる。うちの旦那さんが格好良すぎる……抑えてくれ、まじで」
「何を言っている。ほら、聡一朗も着替えろ」
そう言いながら、獄主は聡一朗の腰に手を回す。いつもより過剰なスキンシップに、聡一朗の思考回路は焼き切れる寸前だった。
(まじで、急に甘くなるの止めて……)
肩口に顔を埋め始めた獄主をちらりと見て、聡一朗はもそもそと着替え始めた。出発前からこれでは、先が思いやられる。
________
久しぶりの人間界は、やはり賑わっていた。
人生の最後が外国で終わった聡一朗にとって、日本の光景は懐かしいものばかりだ。都市部ではなく田舎のほうが好きな聡一朗だったが、久しぶりだった為か日本というだけで浮足立ってしまう。
「うっわ、人間いっぱい。日本人いっぱい」
「聡一朗、傍を離れるな。迷子になるぞ」
「フウトさん達がいるから、大丈夫でしょ?」
そう言いながら聡一朗は護衛2人を振り返った。人間界では姿を消す事をしないのか、2人は数メートル先を付いてくる。
その姿を見て、聡一朗は苦笑いを浮かべた。
(その恰好……本当にどうにかならなかったのか?)
護衛2人は、お揃いのトレーナーを身に着けている。一見普通のトレーナーだが、問題はバックプリントにあった。
フウトの背中には『推しを推すは今なり』と書かれており、ライトの背中には『尊い死を恐れるな』と書かれている。
(どこで買ったんだよ、あれ……)
そのトレーナーは、護衛2人が下界に降りるときの戦闘服なのだという。
角も納めて髪色も黒いが、2人とも骨格がいいため日本人には見えない。正直かなり目立つようだが、自覚しているようには見えなかった。
「聡一朗様、再度申し上げます」
「ん?」
「我々は壁です」
「我々は壁です」
「あ、うん。……分かりました」
出発前にも口酸っぱく言われた言葉を再度言われ、聡一朗は苦く笑いながら頭を掻いた。要は「居ない存在にしてくれ」という意味らしい。
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