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最終章
たくさんの嘘と、秘められた真実 2
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マリアをコウトに託し、寝台にはルオと獄主、聡一朗が残された。
「しかしマリアの話が本当なら、霧谷聡一朗は殺人を犯している筈だ。咎津の匂いがしないのはおかしい」
ルオが言うと、獄主から舌打ちが漏れる。
ルオは信じられない思いで獄主を見た。その可憐な唇から舌打ちが漏れる事など、未来永劫無いと思っていたのだ。
「聡一朗が人を殺めるなんてありえん」
そう吐き捨てて、獄主は再度舌打ちする。ルオは思わず仰け反った。
「その通り!流石マダリンだねぇ」
その間延びした声は、聡一朗の布団の中から聞こえてきた。
さすがの獄主もぎょっとして、寝台の方を振り返る。聡一朗の隣から、リュシオルがひょっこりと顔を出していた。
「リュシオル様!」
ルオが驚愕で上擦った声を上げ、獄主は聡一朗の隣で寝るリュシオルを睨んだ。
リュシオルは「お~こわ」と言いながら、上体を起こした。
「聡一朗がマリアに打ったのはモルヒネだよ。打った後、聡一朗は逃げることも出来たけど、マリアを抱きしめたまま爆発に巻き込まれた。聡一朗の身体のお陰で、被害はそれなりに抑えられたんだ」
聡一朗の髪を弄びながら、リュシオルは言う。
「も~おりこうさんすぎて食べちゃいたいくらい」と言いながらリュシオルは聡一朗の頬にキスを落とした。
「リュシオル様!」
獄主の戒めるような声に、リュシオルは口を尖らせた。
「何さ~マダリン。彼は僕の愛し子だよ?我が子にキスしちゃいけないの?」
「い、愛し子!?」
ルオの焦りを含んだ声に、リュシオルは初めて気付いたかのようにルオに手を振った。
「あら、ルオじゃん。おひさ~」
「リュシオル様……こ、これはどういう事でしょうか?霧谷聡一朗が愛し子?しかも地獄の花嫁候補?」
リュシオルはルオに向き直り、うんうんと頷いた。
ルオは未だ信じられないといった顔を浮かべて、聡一朗とリュシオルの顔を行き来している。
「地獄の花嫁だなんて、信じられません!こんなに清らかで美しい魂は初めてだ!」
「うん。だから、僕らの愛し子だって言ってるじゃん。ちょっと手違いがあって、地獄の花嫁にしちゃったんだよね。聡一朗があんな形で死んじゃうとは思わなかったから、焦っちゃったんだよ~」
ルオは目を見開いて獄主を見た。獄主は苦虫を噛み潰したような顔で、ルオを見返す。
「マダリオ、知っていたのか?知ってて霧谷聡一朗を留め置いたのか?」
「……リュシオル様は承知だと言っただろう?」
「まさか、霧谷聡一朗は元は天国の花嫁候補者だったんじゃ……」
「今は私の嫁だ!」
獄主が叫び、ルオが硬直する。リュシオルは「あらあら」と言いながら、聡一朗の髪を梳いて弄んだ。
「元は天国の花嫁だったのなら、私にも聡一朗と話す権利くらいあるはずだ!彼と話がしたい!」
「聡一朗と呼ぶな!私の嫁だぞ!」
「まだ候補だろう!?選抜期間中のはずだ!」
肩で息をするルオを、獄主は睨み付けた。冷たい空気が立ち込め、それに対抗するように灼熱の空気も漂い始めた。
「……他に候補者はいるだろう?」
「そっちこそ」
拮抗する力で天蓋がガタガタと揺れ始めた時、リュシオルが動いた。
「はいはい!ストップ!そこまで!」
2人はピタリと動きを止め、リュシオルを見る。桁違いのオーラを燻らせながら、リュシオルは微笑んだ。
「聡一朗が、ゆっくり寝れないでしょ?静かにしてくんない?」
静かになった2人を見遣って、リュシオルは溜息をつく。
「マダリンさ。地獄の候補者で良いって言ったけど……問題がなければって言ったよね?うちの子なんでこんなにボロボロなわけ?」
「……申し訳ございません」
「謝って欲しいわけじゃない。……実はもう聡一朗を連れて帰ろうかと思ってる」
獄主の瞳が見開かれる。一切の動きを止めた獄主を見て、リュシオルは吹き出した。
「っは!ほんとマダリンは変わったね。……分かった。もう少し聡一朗を見てから決めるよ。聡一朗と話が出来るまでここに滞在する。いいよね?ルオもそうする?」
「はい。滞在します」
「なっ!?」
獄主の声に反応して、聡一朗は眉を寄せて「んん」と唸る。
リュシオルとルオにしーっと窘められ、獄主は静かに歯噛みした。
________
「おはよぉ、ママだよぉ?」
聡一朗は目の前で優しく微笑む人物を見つめた。
水色の髪が緩くウェーブしてして、褐色の肌に良く映えている。綺麗な顔だが、女性には見えない。
しかし、聡一朗にその人物に見覚えがあった。
「……以前どこかで……」
「……嬉しいな。覚えててくれたの?」
感情に蓋をするすべを教えた時、リュシオルは聡一朗に姿を見せている。その時の聡一朗は自我を失っていたので、まさか覚えているとは思わなかった。
「愛おしいなぁ」
リュシオルがそう言いながら、聡一朗の前髪を弄ぶ。何故だか嫌な感じはせず、聡一朗は気持ちよさそうに目を閉じる。
「エン……」
聡一朗が小さく零すのを、リュシオルは拾った。
「エン?マダリオの事をエンって呼んだ?」
聡一朗は再び目蓋を閉じていて、返事をすることはなかった。
リュシオルは自身の髪を掻き回し、大きく嘆息する。
「はぁ、まったく。マダリオのやつめ」
色恋に興味のなかった彼が、こんなに大胆になるとは。
リュシオルは聡一朗の額に口付けた。
「……可愛い聡一朗。僕が必ず幸せにするからね」
「しかしマリアの話が本当なら、霧谷聡一朗は殺人を犯している筈だ。咎津の匂いがしないのはおかしい」
ルオが言うと、獄主から舌打ちが漏れる。
ルオは信じられない思いで獄主を見た。その可憐な唇から舌打ちが漏れる事など、未来永劫無いと思っていたのだ。
「聡一朗が人を殺めるなんてありえん」
そう吐き捨てて、獄主は再度舌打ちする。ルオは思わず仰け反った。
「その通り!流石マダリンだねぇ」
その間延びした声は、聡一朗の布団の中から聞こえてきた。
さすがの獄主もぎょっとして、寝台の方を振り返る。聡一朗の隣から、リュシオルがひょっこりと顔を出していた。
「リュシオル様!」
ルオが驚愕で上擦った声を上げ、獄主は聡一朗の隣で寝るリュシオルを睨んだ。
リュシオルは「お~こわ」と言いながら、上体を起こした。
「聡一朗がマリアに打ったのはモルヒネだよ。打った後、聡一朗は逃げることも出来たけど、マリアを抱きしめたまま爆発に巻き込まれた。聡一朗の身体のお陰で、被害はそれなりに抑えられたんだ」
聡一朗の髪を弄びながら、リュシオルは言う。
「も~おりこうさんすぎて食べちゃいたいくらい」と言いながらリュシオルは聡一朗の頬にキスを落とした。
「リュシオル様!」
獄主の戒めるような声に、リュシオルは口を尖らせた。
「何さ~マダリン。彼は僕の愛し子だよ?我が子にキスしちゃいけないの?」
「い、愛し子!?」
ルオの焦りを含んだ声に、リュシオルは初めて気付いたかのようにルオに手を振った。
「あら、ルオじゃん。おひさ~」
「リュシオル様……こ、これはどういう事でしょうか?霧谷聡一朗が愛し子?しかも地獄の花嫁候補?」
リュシオルはルオに向き直り、うんうんと頷いた。
ルオは未だ信じられないといった顔を浮かべて、聡一朗とリュシオルの顔を行き来している。
「地獄の花嫁だなんて、信じられません!こんなに清らかで美しい魂は初めてだ!」
「うん。だから、僕らの愛し子だって言ってるじゃん。ちょっと手違いがあって、地獄の花嫁にしちゃったんだよね。聡一朗があんな形で死んじゃうとは思わなかったから、焦っちゃったんだよ~」
ルオは目を見開いて獄主を見た。獄主は苦虫を噛み潰したような顔で、ルオを見返す。
「マダリオ、知っていたのか?知ってて霧谷聡一朗を留め置いたのか?」
「……リュシオル様は承知だと言っただろう?」
「まさか、霧谷聡一朗は元は天国の花嫁候補者だったんじゃ……」
「今は私の嫁だ!」
獄主が叫び、ルオが硬直する。リュシオルは「あらあら」と言いながら、聡一朗の髪を梳いて弄んだ。
「元は天国の花嫁だったのなら、私にも聡一朗と話す権利くらいあるはずだ!彼と話がしたい!」
「聡一朗と呼ぶな!私の嫁だぞ!」
「まだ候補だろう!?選抜期間中のはずだ!」
肩で息をするルオを、獄主は睨み付けた。冷たい空気が立ち込め、それに対抗するように灼熱の空気も漂い始めた。
「……他に候補者はいるだろう?」
「そっちこそ」
拮抗する力で天蓋がガタガタと揺れ始めた時、リュシオルが動いた。
「はいはい!ストップ!そこまで!」
2人はピタリと動きを止め、リュシオルを見る。桁違いのオーラを燻らせながら、リュシオルは微笑んだ。
「聡一朗が、ゆっくり寝れないでしょ?静かにしてくんない?」
静かになった2人を見遣って、リュシオルは溜息をつく。
「マダリンさ。地獄の候補者で良いって言ったけど……問題がなければって言ったよね?うちの子なんでこんなにボロボロなわけ?」
「……申し訳ございません」
「謝って欲しいわけじゃない。……実はもう聡一朗を連れて帰ろうかと思ってる」
獄主の瞳が見開かれる。一切の動きを止めた獄主を見て、リュシオルは吹き出した。
「っは!ほんとマダリンは変わったね。……分かった。もう少し聡一朗を見てから決めるよ。聡一朗と話が出来るまでここに滞在する。いいよね?ルオもそうする?」
「はい。滞在します」
「なっ!?」
獄主の声に反応して、聡一朗は眉を寄せて「んん」と唸る。
リュシオルとルオにしーっと窘められ、獄主は静かに歯噛みした。
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「おはよぉ、ママだよぉ?」
聡一朗は目の前で優しく微笑む人物を見つめた。
水色の髪が緩くウェーブしてして、褐色の肌に良く映えている。綺麗な顔だが、女性には見えない。
しかし、聡一朗にその人物に見覚えがあった。
「……以前どこかで……」
「……嬉しいな。覚えててくれたの?」
感情に蓋をするすべを教えた時、リュシオルは聡一朗に姿を見せている。その時の聡一朗は自我を失っていたので、まさか覚えているとは思わなかった。
「愛おしいなぁ」
リュシオルがそう言いながら、聡一朗の前髪を弄ぶ。何故だか嫌な感じはせず、聡一朗は気持ちよさそうに目を閉じる。
「エン……」
聡一朗が小さく零すのを、リュシオルは拾った。
「エン?マダリオの事をエンって呼んだ?」
聡一朗は再び目蓋を閉じていて、返事をすることはなかった。
リュシオルは自身の髪を掻き回し、大きく嘆息する。
「はぁ、まったく。マダリオのやつめ」
色恋に興味のなかった彼が、こんなに大胆になるとは。
リュシオルは聡一朗の額に口付けた。
「……可愛い聡一朗。僕が必ず幸せにするからね」
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