27 / 49
前半戦
26.獄主、めちゃ怒る (下)**
しおりを挟む
上衣の紐を解く獄主の手を掴もうとして、予想以上の手首の痛さに聡一朗は驚いた。
これでは後ろ手をつくことも出来ない。しかたなく肘をつけると、獄主が覆いかぶさるように身体を乗り出して来た。
上衣の合わせからスルスルと獄主の手が入ってくる。衣がずれて肩が露わになりそうな所で、聡一朗は思わず声を上げた。
「ぬ、脱ぐのか!?」
「なに?」
「脱がなきゃ、駄目、か?」
その初心な反応に、獄主は虚を突かれて目を見開いた。聡一朗の胸元に手を置いたまま、ぴたりと制止してしまう。
見れば聡一朗は胸元まで真っ赤に染まり、視線も泳いでいる。
「脱ぐのが嫌なのか?それとも、交合するのが嫌なのか?」
「こ、交合?」
「性交渉の事だ」
「っつ!い、嫌、という、わけでは、というか、しなきゃ駄目、なんだろ……?」
しどろもどろ、とはこういう状態の事を言うのだろう。獄主は目の前で狼狽える男を見た。
何とも好ましい、可愛い、抱き潰したい。そんな感情に支配される。
「聡一朗、お前、抱かれたことはあるのか?」
「へぁ?……!?馬鹿!あるわきゃねぇだろ!」
「では、抱いたことは?」
「……多少は」
多少はある、という回答が面白くない。獄主が少々不機嫌になると、聡一朗が「もちろん女性をだぞ」と訂正してくる。
(ペースが乱されるな……)
今までの候補者は性に奔放で、こんな反応をされるのは初めてだった。
男性の候補者で所謂初モノも少なくなかったが、拒否反応を示されることはない。
心底惚れた相手が、初めてに対して怯えている。
本音は抱き潰してしまいたい。だが、優しく徐々に進めるのも良い。
獄主は両者で鬩ぎ合っていた。
聡一朗の胸に当てた手をゆっくり動かすと、小さな尖りに行きついた。
吸いつきそうな肌にある小さな突起は、少し湿り気がある。胸を擦る指がそれに引っかかると、聡一朗の肩が跳ねた。
一気に真っ赤になる様子が、堪らなくそそる。
「ここは、触られた事があるか?」
「そ、そんなとこ、男には関係……」
「そんなことはない」
尖りを指で潰し、円を描くように刺激する。指で優しく摘まむと、聡一朗が顔を背けた。
声を我慢しているのか、真っ赤な顔で唇を噛みしめている。
「聡一朗、噛むな。息をしろ。痛いか?」
「ん、ン、い、痛い……ような、っあ!く……そ!」
「色気が無いな」
聡一朗はシーツを掴んでは離すを繰り返している。快感を逃すためにシーツを掴むが、手首の痛みを思い出して手を離す、その繰り返しのようだ。
「ま、待った!もう、そこは、いじるな……!っつくぅ、ふっ」
「待たん」
獄主はそう言い放つと、もう片方の尖りを口に含んだ。突然の刺激に、聡一朗は声を上げて仰け反った。
「っああぁ!なん、で!!」
もう肘をついているのも辛いようで、上半身は寝台に沈みかけている。だが沈んだら最後、攻め抜かれるのが分かっているのか、聡一朗は必死に耐えている。
「聡一朗、脱がんでも事は成せる。良かったな」
「ち、ちが、あ、あ、ぁ!う、そだ、こんな……」
「こんなに感じてしまうのが、恥ずかしいか?好ましいだろ」
そう言いながら、獄主は聡一朗の下生えに手を伸ばした。屹立したものを掴むと、聡一朗がひゅっと息を詰める。
「ここもこんなにして、可愛いな、お前は」
「っっ……!?……ぅ!」
ゆるゆると上下に扱くと、聡一朗がいやいやと首を振る。
「ご、獄主、もう、無理だ……ぁ!」
「もっと声を出せ。中毒の時はもっとよがってた筈だ」
「あ、あんときは、ちが、……っぐ!」
にゅちにゅちと水音が耳に届くと、聡一朗は羞恥に身を悶えさせる。
先端を穿って激しく上下に動かすと、二度目の絶頂はすぐ訪れた。聡一朗は一際強く仰け反ると、白濁を吐き出す。
もう耐えきれなくなったのか、聡一朗の身体が完全に寝台へ沈んだ。
はぁはぁと荒い息を吐く聡一朗の額に、獄主はそっと口付ける。
「ああ、可愛いな」
「だ、だれが、は、は……」
聡一朗の肌蹴た上衣から覗く肌は、薄桃色に染まっている。潤んだ瞳は、焦点が定まらない。
その扇情的な姿に獄主は喉を鳴らした。ペロリと上唇を舐める獄主を見て、聡一朗が悩まし気に眉を寄せる。
獄主が聡一朗の片足を一気に持ち上げる。息を詰める間もなく、片足は獄主の肩に担ぎあげられた。
聡一朗は突然の事に混乱し、あわあわと口を震えさせる。
そしてパンツは先ほど破られたことを、今更思い出した。ということは、今の体勢は、自分の大事なところを全部露わにしているという事だ。
「い、いやだ!!」
「聡一朗、綺麗だ」
窄まりを撫でられ、聡一朗の心臓が跳ね上がった。身を起こそうとするが、下手に動くのは危険と頭で警告音が鳴る。
「聡一朗、私のがここに入るんだ」
「……無理だ!絶対無理!」
(予想はしていたが、やっぱりそこか……!)
何度考えても、絶対無理だと断言できる。あれほど巨大なものを入れたら、死んでしまうに決まっている。
「無理だ!死因が串刺しだなんて……」
「何を言っている」
聡一朗の蜜を絡めとり、窄まりに獄主の指が当てられる。
つぷ、という音と共に、異物が侵入するのを感じる。ぞわわわと肌が総毛立ち、聡一朗は思わず獄主の腕に縋った。
ぎゅうっと腕に縋り、身体は小刻みに震える。耳から首まで、熱により朱に染まっていた。
「うう”うう”うぅ、無理ぃ、無理、だ!!!」
「……そ、聡一朗、お前、無自覚か?可愛すぎる」
指一本入れられただけで、腕に縋られ涙目で訴えられる。
ついにポロポロと涙が零れると、獄主は遂に指を止めた。それほど聡一朗の涙は衝撃的だった。
つぷりと指を抜くと、一瞬ぎゅうと縋る力が強まる。
呆けた顔の聡一朗に、唇を落とす。素直にそれを受ける様に、獄主の腰の中心が疼いた。
指を抜かれて安心したのか、聡一朗は寝台に身を預けてぜいぜいと息を整えている。その姿もひどく扇情的で、獄主を更に煽りたてる。
脱力している聡一朗の足を、獄主は両方まとめて掴む。脚をぴったり閉じさせたまま、聡一朗の胸のあたりまで折り曲げた。
「え?え?」
「安心しろ。入れん」
ぬる、と内腿を割って入る感覚がし、覚えがある感覚に聡一朗はぶるりと震えた。素股の再来だ。
しかし今回は身体を折り曲げられているせいか、擦りあう強さが前回とは違って強烈だった。しかも獄主がそこに手を添え、強く擦られるように動かしている。
獄主の雁首が分かるほどに強く擦られ、聡一朗はがくがくと腰を揺らした。
「あぁ、あ、ふっ……んんんんくっ!」
「声を!我慢するな、と、言うだろう!」
無茶苦茶に腰を打ちつけられ、水音と打擲音が響く。聡一朗が昇りつめて達しても、獄主は動くのを止めない。
「は、は、も、イけない、う、うぅ!あぁ!」
何度も達したせいで、聡一朗の身体にもはや力は無い。ただただ揺すられて、意識も薄れる。
獄主は目の前の痴態に、翻弄させられるまま腰を打ちつける。上気した顔も、頬を濡らす涙も、すべて奪い取りたかった。
「……気が変わった。少し入れるぞ」
「へ?」
獄主は自身の屹立を内腿から引き抜くと、聡一朗の窄まりに押し当てた。先端だけを少し沈める。聡一朗は圧迫感に見悶えた。
「あ、あぁ!!や、め……!」
「これ以上入れん」
先だけ沈めた状態で、獄主は自身の陰茎を上下に擦る。
獄主が切なげな声で聡一朗を呼ぶと、中に熱いものが注がれるのを感じた。大量のそれは、聡一朗の中に流れ込み、渦を巻いて暴れまわった。
「あ、あ、あ……」
全てが塗り替えられるような感覚に、目の前がチカチカと点滅する。入りきれなかった精液が、ゴポリと垂れて行く感覚に身震いする。
獄主が聡一朗の内腿に唇を落とし、妖艶に舐め上げる。
「夜はまだ長い。練習だな。聡一朗」
その言葉に絶望する間もなく、獄主が聡一朗に覆いかぶさる。聡一朗にとっての、試練の夜が始まった。
________
「手首は、かろうじて折れていませんが……腫れが引くまでなるべく動かさない方が良いでしょうね」
「分かった」
トウゴは寝台の脇で説明を聞く獄主を見た。
藍色の着流しを身に着け、洗いたての髪が輝いている。髪より輝いているのが、その表情だ。
清々しいといった言葉がぴったりの、棘のない表情をしている。
……寝ている聡一朗とは大違いだ。
トウゴは聡一朗を見遣った。相変わらず、申し訳ない程の憔悴っぷりだ。
何度も噛みしめたであろう唇は、血の痕が固まって少し腫れていた。
身体を診るのは獄主に止められたので見ていないが、指先すらも動かないまま眠っている。
これで最後までしていないと聞いた時は、聡一朗を二度見した程だ。
「脈を診たところ大分疲弊しているようですので、お大事になさって下さい」
「無論だ」
鞄を持ち立ち去ろうとした所で、従者の声が掛かった。トウゴに耳打ちされた伝達は、獄主にとって朗報か、それとも……。
トウゴが戸惑っていると、それまでずっと聡一朗の顔を見ていた獄主が顔を上げた。
「どうした。トウゴ」
「獄主様、今日の昼にリュシオル様がお越しになられると……」
獄主は、聡一朗を見た。
かの者が来るとなると、要件は粗方想像がつく。
獄主は聡一朗の鼻梁に口付けると、重い腰を上げた。
これでは後ろ手をつくことも出来ない。しかたなく肘をつけると、獄主が覆いかぶさるように身体を乗り出して来た。
上衣の合わせからスルスルと獄主の手が入ってくる。衣がずれて肩が露わになりそうな所で、聡一朗は思わず声を上げた。
「ぬ、脱ぐのか!?」
「なに?」
「脱がなきゃ、駄目、か?」
その初心な反応に、獄主は虚を突かれて目を見開いた。聡一朗の胸元に手を置いたまま、ぴたりと制止してしまう。
見れば聡一朗は胸元まで真っ赤に染まり、視線も泳いでいる。
「脱ぐのが嫌なのか?それとも、交合するのが嫌なのか?」
「こ、交合?」
「性交渉の事だ」
「っつ!い、嫌、という、わけでは、というか、しなきゃ駄目、なんだろ……?」
しどろもどろ、とはこういう状態の事を言うのだろう。獄主は目の前で狼狽える男を見た。
何とも好ましい、可愛い、抱き潰したい。そんな感情に支配される。
「聡一朗、お前、抱かれたことはあるのか?」
「へぁ?……!?馬鹿!あるわきゃねぇだろ!」
「では、抱いたことは?」
「……多少は」
多少はある、という回答が面白くない。獄主が少々不機嫌になると、聡一朗が「もちろん女性をだぞ」と訂正してくる。
(ペースが乱されるな……)
今までの候補者は性に奔放で、こんな反応をされるのは初めてだった。
男性の候補者で所謂初モノも少なくなかったが、拒否反応を示されることはない。
心底惚れた相手が、初めてに対して怯えている。
本音は抱き潰してしまいたい。だが、優しく徐々に進めるのも良い。
獄主は両者で鬩ぎ合っていた。
聡一朗の胸に当てた手をゆっくり動かすと、小さな尖りに行きついた。
吸いつきそうな肌にある小さな突起は、少し湿り気がある。胸を擦る指がそれに引っかかると、聡一朗の肩が跳ねた。
一気に真っ赤になる様子が、堪らなくそそる。
「ここは、触られた事があるか?」
「そ、そんなとこ、男には関係……」
「そんなことはない」
尖りを指で潰し、円を描くように刺激する。指で優しく摘まむと、聡一朗が顔を背けた。
声を我慢しているのか、真っ赤な顔で唇を噛みしめている。
「聡一朗、噛むな。息をしろ。痛いか?」
「ん、ン、い、痛い……ような、っあ!く……そ!」
「色気が無いな」
聡一朗はシーツを掴んでは離すを繰り返している。快感を逃すためにシーツを掴むが、手首の痛みを思い出して手を離す、その繰り返しのようだ。
「ま、待った!もう、そこは、いじるな……!っつくぅ、ふっ」
「待たん」
獄主はそう言い放つと、もう片方の尖りを口に含んだ。突然の刺激に、聡一朗は声を上げて仰け反った。
「っああぁ!なん、で!!」
もう肘をついているのも辛いようで、上半身は寝台に沈みかけている。だが沈んだら最後、攻め抜かれるのが分かっているのか、聡一朗は必死に耐えている。
「聡一朗、脱がんでも事は成せる。良かったな」
「ち、ちが、あ、あ、ぁ!う、そだ、こんな……」
「こんなに感じてしまうのが、恥ずかしいか?好ましいだろ」
そう言いながら、獄主は聡一朗の下生えに手を伸ばした。屹立したものを掴むと、聡一朗がひゅっと息を詰める。
「ここもこんなにして、可愛いな、お前は」
「っっ……!?……ぅ!」
ゆるゆると上下に扱くと、聡一朗がいやいやと首を振る。
「ご、獄主、もう、無理だ……ぁ!」
「もっと声を出せ。中毒の時はもっとよがってた筈だ」
「あ、あんときは、ちが、……っぐ!」
にゅちにゅちと水音が耳に届くと、聡一朗は羞恥に身を悶えさせる。
先端を穿って激しく上下に動かすと、二度目の絶頂はすぐ訪れた。聡一朗は一際強く仰け反ると、白濁を吐き出す。
もう耐えきれなくなったのか、聡一朗の身体が完全に寝台へ沈んだ。
はぁはぁと荒い息を吐く聡一朗の額に、獄主はそっと口付ける。
「ああ、可愛いな」
「だ、だれが、は、は……」
聡一朗の肌蹴た上衣から覗く肌は、薄桃色に染まっている。潤んだ瞳は、焦点が定まらない。
その扇情的な姿に獄主は喉を鳴らした。ペロリと上唇を舐める獄主を見て、聡一朗が悩まし気に眉を寄せる。
獄主が聡一朗の片足を一気に持ち上げる。息を詰める間もなく、片足は獄主の肩に担ぎあげられた。
聡一朗は突然の事に混乱し、あわあわと口を震えさせる。
そしてパンツは先ほど破られたことを、今更思い出した。ということは、今の体勢は、自分の大事なところを全部露わにしているという事だ。
「い、いやだ!!」
「聡一朗、綺麗だ」
窄まりを撫でられ、聡一朗の心臓が跳ね上がった。身を起こそうとするが、下手に動くのは危険と頭で警告音が鳴る。
「聡一朗、私のがここに入るんだ」
「……無理だ!絶対無理!」
(予想はしていたが、やっぱりそこか……!)
何度考えても、絶対無理だと断言できる。あれほど巨大なものを入れたら、死んでしまうに決まっている。
「無理だ!死因が串刺しだなんて……」
「何を言っている」
聡一朗の蜜を絡めとり、窄まりに獄主の指が当てられる。
つぷ、という音と共に、異物が侵入するのを感じる。ぞわわわと肌が総毛立ち、聡一朗は思わず獄主の腕に縋った。
ぎゅうっと腕に縋り、身体は小刻みに震える。耳から首まで、熱により朱に染まっていた。
「うう”うう”うぅ、無理ぃ、無理、だ!!!」
「……そ、聡一朗、お前、無自覚か?可愛すぎる」
指一本入れられただけで、腕に縋られ涙目で訴えられる。
ついにポロポロと涙が零れると、獄主は遂に指を止めた。それほど聡一朗の涙は衝撃的だった。
つぷりと指を抜くと、一瞬ぎゅうと縋る力が強まる。
呆けた顔の聡一朗に、唇を落とす。素直にそれを受ける様に、獄主の腰の中心が疼いた。
指を抜かれて安心したのか、聡一朗は寝台に身を預けてぜいぜいと息を整えている。その姿もひどく扇情的で、獄主を更に煽りたてる。
脱力している聡一朗の足を、獄主は両方まとめて掴む。脚をぴったり閉じさせたまま、聡一朗の胸のあたりまで折り曲げた。
「え?え?」
「安心しろ。入れん」
ぬる、と内腿を割って入る感覚がし、覚えがある感覚に聡一朗はぶるりと震えた。素股の再来だ。
しかし今回は身体を折り曲げられているせいか、擦りあう強さが前回とは違って強烈だった。しかも獄主がそこに手を添え、強く擦られるように動かしている。
獄主の雁首が分かるほどに強く擦られ、聡一朗はがくがくと腰を揺らした。
「あぁ、あ、ふっ……んんんんくっ!」
「声を!我慢するな、と、言うだろう!」
無茶苦茶に腰を打ちつけられ、水音と打擲音が響く。聡一朗が昇りつめて達しても、獄主は動くのを止めない。
「は、は、も、イけない、う、うぅ!あぁ!」
何度も達したせいで、聡一朗の身体にもはや力は無い。ただただ揺すられて、意識も薄れる。
獄主は目の前の痴態に、翻弄させられるまま腰を打ちつける。上気した顔も、頬を濡らす涙も、すべて奪い取りたかった。
「……気が変わった。少し入れるぞ」
「へ?」
獄主は自身の屹立を内腿から引き抜くと、聡一朗の窄まりに押し当てた。先端だけを少し沈める。聡一朗は圧迫感に見悶えた。
「あ、あぁ!!や、め……!」
「これ以上入れん」
先だけ沈めた状態で、獄主は自身の陰茎を上下に擦る。
獄主が切なげな声で聡一朗を呼ぶと、中に熱いものが注がれるのを感じた。大量のそれは、聡一朗の中に流れ込み、渦を巻いて暴れまわった。
「あ、あ、あ……」
全てが塗り替えられるような感覚に、目の前がチカチカと点滅する。入りきれなかった精液が、ゴポリと垂れて行く感覚に身震いする。
獄主が聡一朗の内腿に唇を落とし、妖艶に舐め上げる。
「夜はまだ長い。練習だな。聡一朗」
その言葉に絶望する間もなく、獄主が聡一朗に覆いかぶさる。聡一朗にとっての、試練の夜が始まった。
________
「手首は、かろうじて折れていませんが……腫れが引くまでなるべく動かさない方が良いでしょうね」
「分かった」
トウゴは寝台の脇で説明を聞く獄主を見た。
藍色の着流しを身に着け、洗いたての髪が輝いている。髪より輝いているのが、その表情だ。
清々しいといった言葉がぴったりの、棘のない表情をしている。
……寝ている聡一朗とは大違いだ。
トウゴは聡一朗を見遣った。相変わらず、申し訳ない程の憔悴っぷりだ。
何度も噛みしめたであろう唇は、血の痕が固まって少し腫れていた。
身体を診るのは獄主に止められたので見ていないが、指先すらも動かないまま眠っている。
これで最後までしていないと聞いた時は、聡一朗を二度見した程だ。
「脈を診たところ大分疲弊しているようですので、お大事になさって下さい」
「無論だ」
鞄を持ち立ち去ろうとした所で、従者の声が掛かった。トウゴに耳打ちされた伝達は、獄主にとって朗報か、それとも……。
トウゴが戸惑っていると、それまでずっと聡一朗の顔を見ていた獄主が顔を上げた。
「どうした。トウゴ」
「獄主様、今日の昼にリュシオル様がお越しになられると……」
獄主は、聡一朗を見た。
かの者が来るとなると、要件は粗方想像がつく。
獄主は聡一朗の鼻梁に口付けると、重い腰を上げた。
149
お気に入りに追加
2,806
あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる