【完結】地獄行きは確定、に加え ~地獄の王に溺愛されています~

墨尽(ぼくじん)

文字の大きさ
上 下
26 / 49
前半戦

25.獄主、めちゃ怒る (上)**

しおりを挟む
「今日と明日、聡一朗は帰らん」

 そう十居の小鬼に言い渡す獄主は、まるで背後に焔を宿しているようだった。
 獄主に抱えられている聡一朗が青ざめた顔をして、テキロに目で助けを求めている。

(ごめん、無理)
 当然テキロには止められない。テキロは遠ざかっていく2人を、ただ見守るしかなかった。


 数時間前の事である_____

 獄主はその日、昼食に聡一朗を誘った。しかし、彼から返ってきた返答はこうだった。

『パーゴラがもうすぐ完成だから、行けない』

 勿論腹が立ったが自分が贈った薔薇だ。大事にされている事に悪い気はしない。

 だが悲しいことに会いたいという想いを、獄主はどうしても消化できなかった。昼食を済ませた後、獄主は自然と十居へ向かっていた。

 聡一朗は十居に続く小道で、パーゴラに薔薇を這わせていた。
 獄主が贈った手袋をきちんとつけて、聡一朗は薔薇を優しくパーゴラに括りつける。自然と頬が緩み、声を掛けようとしたその時だった。

 聡一朗は親し気な笑みを、別の鬼に向けている。獄主にも見覚えのあるその男は、施設担当の鬼だ。
 しばし談笑し笑い合うと、聡一朗はまた薔薇に視線を移す。しかし男の視線は、聡一朗から離れない。

 聡一朗の顔を、指先を、身体を、その男は見ている。それだけで全身が総毛立った。
 その男の視線に、情欲の色が確かに揺らいで見える。

 そして男の手がパーゴラの柱に触れた時、獄主の目にそれが映った。
 獄主が聡一朗に贈った手袋を、その男も身に着けていたのだ。


________

「ご、獄主、どうした……?」

 抱えられながら、何度目かも分からない問いを、聡一朗は獄主へ投げる。しかし返答は無いまま、獄主は歩を進める。
 怒っているのは分かる。が、なぜ怒っているのかは聡一朗には分からない。

 聡一朗は戸惑いながらも、どんどん獄主の居が近付いているのに、恐怖を感じ始めた。
 怒りに身をたぎらせている獄主は、何をするか分からない。
 混乱、警戒、恐怖。脳内に警告音が鳴り響く。何もされていないのに、じっとりと汗が滲んでいった。

「明日まで私は居に籠ると、コウトへ伝えろ」
「御意」

 独り言のように獄主が呟くと、フウトとライトの声が返ってくる。久しぶりに聞いた声だったが、今は懐かしむ余裕もない。

「ご、獄主、怒っている理由を教えてくれ。謝るから……」

 自身の居に着き、獄主は足で扉を開ける。
 侍女たちが驚いた顔を浮かべるも、すぐに状況を察して部屋を出て行った。今はその気の利いた行為が、恐怖にしか感じない。

 獄主は寝室には向かわず、ソファに聡一朗を降ろした。細かな装飾がされたソファは大きく、大人が5人は座れそうだ。

 ソファに降ろされるなり、唇を塞がれ、激しく舐られた。歯の裏をなぞられ、舌に噛みつかれる。

 咎津きゅうしん中毒の時は、まるで脳内が蕩けるような快感が駆け抜けたが、今は違う。
 与えられる刺激と、痛みが、まっすぐに脳に届く。その中にある快感が、じわりじわりと脳内を侵食する。

 下唇を噛まれ、聡一朗が痛みに顔をしかめると、獄主の唇が離れた。
 荒い呼吸を繰り返していると、今度は首筋に歯を立てられる。獄主の歯が容赦なく肌を突き破り、聡一朗は痛みの余り仰け反った。

「いっっ!!!たぁ!」

 皮膚が破れた部分を獄主はべろりと舐め、そこに舌を割り入れてくる。痛みと恐怖から逃れようと、聡一朗は獄主の肩をがむしゃらに押しやった。

「ご、獄主!何か言ってくれ。頼むから……」

 聡一朗の上に伸し掛かる獄主の顔は、怒りに震えている。その表情の中に僅かに浮かぶ寂寥せきりょうの色に、聡一朗の胸が痛んだ。

 こんな顔をさせたのは自分だ。怒りの理由が分からない自分にも、苛立ちがあった。

 だがやっぱり返答はない。
 獄主は自身の肩を押さえていた聡一朗の手を、何も言わないまま荒々しく掴む。

 聡一朗の両手首を合わせて掴むと、片手で難なく拘束する。その力は相当なもので、聡一朗の手首の骨と骨がみしりと音を立て、指先が痺れた。

 空いた方の手で、聡一朗の袴の帯が解かれていく。袴から覗く下着を忌々し気に見ると、それを片手で難なく引きちぎった。
 聡一朗のそれはまだ兆しを見せていない。それが気に入らないのか、獄主が荒々しく揉みしだく。

「う、やめ……く……」

 局所を直接刺激され、疼きに腰が跳ねる。
 だが手首の痛みが強烈で、上手く快感を拾う事が出来ない。聡一朗が頭を振って悶えていると、急にそこが温かいもので包まれた。

「っひっ!っは……」

 何事かと聡一朗は下半身に目をやると、獄主が自分のモノを口に入れている光景が飛び込んできた。
 銀糸をさらりと流しながら、聡一朗のものを咥え込む姿は、直視できないほど妖艶だ。

 強烈な快感だった。背徳感と快感が鬩ぎ合って、神経が焼き切れそうに張りつめる。

「うそ、だ、ろ……ん、ふっ!ぃ、んんん!」

 喘ぎ声は、漏らしたくない。きっとフウトとライトは側にいる。

 唇を噛むと、あの時の記憶がフラッシュバックしてきた。口の中に鉄さびの味が充満し、生理的な涙が頬を伝う。
 
 舌先で鈴口を穿られると、ビリビリと快感が突き抜けた。逃げようと腰を引くと、戒めるように吸い上げられる。

「ンんっつ!んんんん!!で、でる!でるから、はなし、い、ああァアああ!!」

 頭が真っ白になり、耳がキーンと音をたてた。自分の息遣いさえ遠くに感じられ、脱力する身体は自分のものとは思えない。

 聡一朗の残滓まで舐め取った獄主が、ごくりと喉を鳴らす音が響く。

 聡一朗が、緩く潤んだ瞳を開けると、そこには情欲に身を焦がした獄主が見下ろしていた。
 恐ろしかった。自分が彼を駆り立てている。自分が性欲の対象なのだと、聡一朗は今更ながら気付かされ、肌が粟立った。

 聡一朗は、気付けばカタカタと小刻みに震えていた。震えを止められず戸惑っていると、手首を握る獄主の手が緩む。
 せき止められていた血流がどっと指先へと押し寄せ、ビリビリとした痛みに聡一朗は顔を歪めた。

 獄主が慌てたように手を離し、聡一朗の震える手を見下ろしている。両手首が赤く腫れあがり、獄主が掴んだ痕がくっきりと残っている。

「そう、いちろう……」
「……だ、大丈夫、大丈夫」

 戸惑う獄主の髪を、安心させるように撫でる。手首がずきりと痛んだが、構うことは無い。

「ごめんな、獄主。俺には、あんたがなんで怒っているのか、分からないんだ」
「……私は………」
「……うん?」

 獄主が再び黙り込み、聡一朗は首を捻る。震えはいつの間にか止まっていたので、身を起こして獄主の顔を包み込んだ。
 獄主の顔からは怒りが消え、戸惑いと寂寥が浮かんでいる。聡一朗は眉を下げた。

「ごめんな。そんな顔をさせるつもりは無かった。俺は変に鈍感なところがあるから、面倒だろうけど、伝えてほしい」
「………手袋を……施設の担当に渡したな?」
「む?」

 聡一朗の脳裏に、いつかの光景が甦った。執務室で獄主に言われた「いいつけ」だ。

『今後、お前の持ち物を、私以外に与えるのは止めよ___』


 慌てて獄主を見ると、責めるような瞳に見据えられる。その瞳に聡一朗はビクリと肩を揺らした。

「あ……で、でもあれは、未使用品だぞ?」
「関係ない。しかも私からの贈り物なのだぞ?」

 聡一朗の手の中の獄主が、恨めし気に目を細める。「ごめん」と謝ってみたものの、獄主の表情は変わらない。

「私は言った筈だ。いいつけを守らなかったら、仕置きだと」
「い、言ったっけ?」

 「言った」と言いながら口付けられ、そのまま抱き上げられる。

「んんん?んンむ?」

 キスされたまま移動し、扉を蹴って開ける音が聞こえた。次に身体を降ろされた所は、寝台だ。
 見下ろす獄主は、拗ねる子供の様な顔をしている。

「本当は、最後まで犯して、聡一朗の全てを奪い尽くすつもりでいた。……しかし気が変わった」
「っ!さらっと物騒な事を……!」

 ぎしり、と獄主が寝台に膝を付き、聡一朗に顔を近付ける。後ずさりする聡一朗の腰を、獄主はすかさず掴んだ。

「聡一朗は分かっていない。自分がどれだけ、鬼を惹きつけているかを」
「な、なにを……」

 獄主は聡一朗の上衣に手をかけた。
 前紐を解くと、抗う様に聡一朗の手が伸びる。しかしその手はびくりと止まり、聡一朗が顔を顰めた。
 手首が殊の外痛んだのだ。

 獄主は心配そうに眉を寄せるも、すぐに責めるような視線に変わった。

「仕置きを止めるつもりはない」

しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

処理中です...