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前半戦
14.獄主、聡一朗の罪を知る
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「霧谷聡一朗は、爆弾テロ犯です。民間人24人が犠牲になりました。うち3人は年端もいかない少女です。最後は自分も爆発で死んでいますね。場所は日本ではなく、外国の紛争地域です」
コウトの話を聞きながら、獄主は手元の資料を捲る。資料に貼られた写真の聡一朗は無表情で、まるで別人に見えた。
身長と体重は記載されているが、過去の経歴などは資料にはない。どれだけの罪があるか、候補者にはそれしか情報は必要とされていなかった。
「聡一朗様が爆弾テロね……二重人格かなんかですか?」
「それ良い設定だな……」
フウトとライトが話すのを、獄主はぼんやりと聞いている。
獄主は昨日の晩、誰の居にも行っていない。聡一朗と夕食をとった後、自分の居に引っ込んでしまった。
聡一朗の罪に興味が湧いたという事は、何か心境の変化があったのだろう。
「なぜ聡一朗は咎津が無い?私が感じないだけなのか?コウトはどうだ?聡一朗に嫌悪感を抱くか?」
咎津の催淫効果は、獄主や鬼の王族にしか作用しない。
咎人からは常に咎津は放たれている筈なのだ。獄主含む王族の鬼以外の者にとっては、それは居心地の悪い空気で、近寄り難いものとされている。
「いいえ。驚くほど感じませんね」
「我々も。これほど晴れやかな候補者は初めてです」
「……」
ますます分からない、と獄主は首を捻った。24人も人を殺せば、かなりの強い咎津が出ている筈だ。
コウトが資料を閉じて、獄主へと向き直った。
「確かめる方法があります」
「何だ?」
「お食事会を開きましょう。今年は花嫁イベントが重なっていますから、良い機会かと」
獄主があからさまに嫌な顔になるのは、コウトには予想済みだった。
「そんな顔をなさっても、いつかは開かなくてはなりません。ハヴェル様から声が掛かる前に、こちらからお誘いしましょう」
「………あちらの候補者は何人だ?」
「18人です」
盛大に溜息をつく獄主と、眉根を寄せるコウト。それをフウトたちは交互に見遣っている。
「分かった。進めよ」
「御意」
コウトは大イベントを前に、ネクタイを締め直した。
________
「お食事、っ会?」
「そう、大イベント」
十居の縁側で、いつものように聡一朗とテキロは菓子を摘まん……ではいない。
腕立て伏せをする聡一朗の上に、ソイが乗っている。上下する身体から落ちないようにバランスを取り、ソイはきゃあきゃあとはしゃいでいる。
「い、今、何回?」
「26回。あと4回」
うっしゃぁ、と言いながら腕立てをする聡一朗の額には、大量の汗が滲んでいる。
昨日の晩のことだ。聡一朗は帰宅するなり、テキロへ言った。
『明日から身体を鍛える。男の矜持のためだ』
良く分からないが、今に至る。
元から鍛えているのか、普通の人間なら根を上げそうなメニューも、聡一朗はさくさくこなした。
「30。ソイ、降りてOK」
「はぁい、楽しかった」
受け取ったタオルで汗を拭く聡一朗は、荒い息を吐きながら、縁側の資料に目を向ける。
「へぇ、獄主、お兄ちゃんいたのな?で、そのお兄ちゃんも花嫁イベント開催中って事?」
「そうなんだ。たまに時期が同じになることがあって……そんな時は、顔見せみたいに食事会が開かれる。あちらの候補者と、こちらの候補者。全員参加だから、大規模な食事会だよ」
「……そういえば、何でお兄ちゃんが獄主になんなかったの?」
兄弟がいるなら、兄も獄主候補だったのだろう。地獄の長選びは、相当荒れそうな気もする。
「何でって、選ばれなかったから」
「誰に?」
「神に」
「……うわお」
なにやらスケールのでかい話になってきたと、聡一朗は戸惑いを隠しきれない。
鬼もいるし、天使もいるらしい。じゃあ神もいるだろうかと思っていたら、本当にいるらしい。
「獄主を選ぶのは神です。因みに候補者を選ぶのも神で、時期を選ぶのも神」
「すっごい権力ね、それ」
「そりゃあ、神ですからね」
ソイが水で濡らしたタオルを持ってきて、聡一朗が「出来る子!」と頭を撫でまわしている。それを見ながら、テキロは嘆息した。
過去のお食事会では、お互いの候補者を交換したこともあるらしい。正式な交流の場だ。
候補から外れていると思って、聡一朗は楽しい地獄ライフを送っている。そんな彼に礼儀を教え込まなければならないのは、正直とても面倒だった。
「俺には咎津が無いらしいし、黙ってれば目立つことも無いだろう」
と軽く言っている聡一朗自身も、至極面倒くさそうにしている。
「そういえば俺、ここの候補者とも交流が無いな」
「無い方が良い。相手は屑だから。過去には候補者同士、殺し合いなんかもあったらしいよ」
「俺も屑なんだけどね」
「あんたは違う」
聡一朗は首筋を拭きながら、テキロに眉を下げた。違うと言われたことを訂正するつもりはないが、騙しているようで気持ちは良くない。
「食事会は3日後。多少は礼儀を覚えて貰わないと、俺らが困る。……俺も3日間は、言葉遣いを改めるよ」
「ええ~、寂しい」
「獄主への態度や言葉遣いも、改めましょうね。聡一朗様」
テキロから言われ、聡一朗はげぇと舌を出した。
________
「不快だ」
獄主は声に出して言ってみて再認識した。やはり不快だ。
兄とは交流が乏しいわけではない。たまに酒も飲むし、腹違いの兄弟が多数いる中で、ハヴェルと獄主は母も一緒だ。
それでも我慢ならない。
聡一朗を、兄の目に晒したくない。
「そんなに嫌でしたら、聡一朗様を一居に移したらどうですか?一居の候補者は交換できない決まりでしょう?」
「駄目だ。聡一朗は十居を愛しているんだぞ」
珍しくイライラしている獄主の空気は、鬼たちにとって刃と同等だ。切り裂くように襲ってくる圧を避けるため、コウトは扉の前から動けないでいた。
「聡一朗の咎津を、獄主は感じません。もしハヴェル様も感じないのでしたら、確実に聡一朗様に咎津は無いはずです」
「……咎津のあるなし等、もうどうでも良い。近付けたくない」
デスクに肘を付き、頭を抱えたまま獄主が呟く。
コウトと、姿を見せないまま見守っているフウトとライトは、獄主の姿を目を細めて見ていた。微笑ましい事この上ない。
駄々っ子のような姿も、今までの獄主からは想像もつかないものだった。
「大体兄上は、何人嫁を娶るつもりなんだ。もう何人もいて、子も多い」
「ハヴェル様の奥様は8人です。因みに食事会も参加されますよ」
「神も兄上に何度も候補者選びをさせて、どういうつもりなんだ」
(獄主が、獄母を作らないからですよ……)
繰り返すようだが、選ばれた花嫁が子を産むことによって、初めて獄母となる。獄主がこのまま子を作らなければ、次の獄主は獄主の兄弟やその子供が就任することになるだろう。
獄主以外の兄弟は、子作りにも積極的だ。前獄主の豪快さを引き継いでいるのだろう。
逆に子を作らない獄主に、批判的な態度を取る兄弟も多かった。
「食事会の時の衣装は準備しているか?」
「ワタベに作らせています」
「聡一朗のは、灰色生地で作らせろ。刺繍も入れるな。他の候補者は華美に仕上げよ」
「……御意」
獄主の命令に、コウトの頬が緩んだ。
________
「………フウトさん、ライトさん、まだ帰らないのか?」
「俺らですか?帰りませんよ」
今日の昼過ぎ、突如として十居にやって来たフウトとライトは、揃って漫画を読んでいる。
畳の部屋にクッションを敷いて寝転がる姿をみると、最初からここに住んでいたかのような溶け込み方だ。
「獄主の護衛は?大丈夫なのか?」
「獄主の命で、聡一朗様の護衛をしばらく受け持ちます。獄主はお強いので、俺らがいなくても大丈夫です」
フウトが言い、再び漫画に視線を戻す。
人間界で一世を風靡した「鬼殺しの剣」という漫画だ。鬼が読むものではない様な気がするが、ライトは時々目を潤ませながら読んでいる。
「面白いですか?それ」
「面白いですよ。これ読んでると、俺らの主がパワハラ鬼じゃなくて良かったと思います」
聡一朗が吹き出すと、フウトが微笑んだ。
ライトとは違い、フウトは細い痩躯で背も高い。表情も乏しいと思っていたが、笑いかけられて印象ががらりと変わった。笑う顔は、かなり人懐こい。
「1巻ありますか?俺も読んでみたい」
「あれ?人間界で読んでないんですか?」
「うん。存在は知ってるけど、流行った時、俺外国にいたから……」
よいしょと畳に腰を降ろし、聡一朗は1巻を手に取った。その様子を、フウトもライトも見つめている。
(爆弾テロ犯で、最後は外国で死亡、か)
目の前の男は、とてもそうは見えない。
パラリと頁を捲る指は、長くて細い。日本人にしては彫りが深いが、濃い顔では無い。垂れ目が穏やかな印象を与えるが、眉はキリリと上がっている。
アンバランスなパーツが組み合わさって、絶妙な魅力を湛えている。そんな顔だ。
「あ、これ、俺無理かも……1巻でこれ?ああ、無理だ……」
聡一朗は半分も読まないうちに本を閉じた。潤んだ目尻を袖で乱暴に拭って、積み上がった漫画の山にそっと返す。
「これが駄目だったら、今日日の日本の漫画、殆ど読めませんよ」
「え?そうなのか?」
「友情、努力、勝利だけじゃ、物足りなくなったんですかね」
フウトの言葉に、聡一朗は寂寥感を顔に滲ませた。
開け放たれた縁側の扉に目を遣ると、いたたまれないといった声色で呟く。
「漫画の世界ぐらい、辛くない世界にして欲しいよな」
コウトの話を聞きながら、獄主は手元の資料を捲る。資料に貼られた写真の聡一朗は無表情で、まるで別人に見えた。
身長と体重は記載されているが、過去の経歴などは資料にはない。どれだけの罪があるか、候補者にはそれしか情報は必要とされていなかった。
「聡一朗様が爆弾テロね……二重人格かなんかですか?」
「それ良い設定だな……」
フウトとライトが話すのを、獄主はぼんやりと聞いている。
獄主は昨日の晩、誰の居にも行っていない。聡一朗と夕食をとった後、自分の居に引っ込んでしまった。
聡一朗の罪に興味が湧いたという事は、何か心境の変化があったのだろう。
「なぜ聡一朗は咎津が無い?私が感じないだけなのか?コウトはどうだ?聡一朗に嫌悪感を抱くか?」
咎津の催淫効果は、獄主や鬼の王族にしか作用しない。
咎人からは常に咎津は放たれている筈なのだ。獄主含む王族の鬼以外の者にとっては、それは居心地の悪い空気で、近寄り難いものとされている。
「いいえ。驚くほど感じませんね」
「我々も。これほど晴れやかな候補者は初めてです」
「……」
ますます分からない、と獄主は首を捻った。24人も人を殺せば、かなりの強い咎津が出ている筈だ。
コウトが資料を閉じて、獄主へと向き直った。
「確かめる方法があります」
「何だ?」
「お食事会を開きましょう。今年は花嫁イベントが重なっていますから、良い機会かと」
獄主があからさまに嫌な顔になるのは、コウトには予想済みだった。
「そんな顔をなさっても、いつかは開かなくてはなりません。ハヴェル様から声が掛かる前に、こちらからお誘いしましょう」
「………あちらの候補者は何人だ?」
「18人です」
盛大に溜息をつく獄主と、眉根を寄せるコウト。それをフウトたちは交互に見遣っている。
「分かった。進めよ」
「御意」
コウトは大イベントを前に、ネクタイを締め直した。
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「お食事、っ会?」
「そう、大イベント」
十居の縁側で、いつものように聡一朗とテキロは菓子を摘まん……ではいない。
腕立て伏せをする聡一朗の上に、ソイが乗っている。上下する身体から落ちないようにバランスを取り、ソイはきゃあきゃあとはしゃいでいる。
「い、今、何回?」
「26回。あと4回」
うっしゃぁ、と言いながら腕立てをする聡一朗の額には、大量の汗が滲んでいる。
昨日の晩のことだ。聡一朗は帰宅するなり、テキロへ言った。
『明日から身体を鍛える。男の矜持のためだ』
良く分からないが、今に至る。
元から鍛えているのか、普通の人間なら根を上げそうなメニューも、聡一朗はさくさくこなした。
「30。ソイ、降りてOK」
「はぁい、楽しかった」
受け取ったタオルで汗を拭く聡一朗は、荒い息を吐きながら、縁側の資料に目を向ける。
「へぇ、獄主、お兄ちゃんいたのな?で、そのお兄ちゃんも花嫁イベント開催中って事?」
「そうなんだ。たまに時期が同じになることがあって……そんな時は、顔見せみたいに食事会が開かれる。あちらの候補者と、こちらの候補者。全員参加だから、大規模な食事会だよ」
「……そういえば、何でお兄ちゃんが獄主になんなかったの?」
兄弟がいるなら、兄も獄主候補だったのだろう。地獄の長選びは、相当荒れそうな気もする。
「何でって、選ばれなかったから」
「誰に?」
「神に」
「……うわお」
なにやらスケールのでかい話になってきたと、聡一朗は戸惑いを隠しきれない。
鬼もいるし、天使もいるらしい。じゃあ神もいるだろうかと思っていたら、本当にいるらしい。
「獄主を選ぶのは神です。因みに候補者を選ぶのも神で、時期を選ぶのも神」
「すっごい権力ね、それ」
「そりゃあ、神ですからね」
ソイが水で濡らしたタオルを持ってきて、聡一朗が「出来る子!」と頭を撫でまわしている。それを見ながら、テキロは嘆息した。
過去のお食事会では、お互いの候補者を交換したこともあるらしい。正式な交流の場だ。
候補から外れていると思って、聡一朗は楽しい地獄ライフを送っている。そんな彼に礼儀を教え込まなければならないのは、正直とても面倒だった。
「俺には咎津が無いらしいし、黙ってれば目立つことも無いだろう」
と軽く言っている聡一朗自身も、至極面倒くさそうにしている。
「そういえば俺、ここの候補者とも交流が無いな」
「無い方が良い。相手は屑だから。過去には候補者同士、殺し合いなんかもあったらしいよ」
「俺も屑なんだけどね」
「あんたは違う」
聡一朗は首筋を拭きながら、テキロに眉を下げた。違うと言われたことを訂正するつもりはないが、騙しているようで気持ちは良くない。
「食事会は3日後。多少は礼儀を覚えて貰わないと、俺らが困る。……俺も3日間は、言葉遣いを改めるよ」
「ええ~、寂しい」
「獄主への態度や言葉遣いも、改めましょうね。聡一朗様」
テキロから言われ、聡一朗はげぇと舌を出した。
________
「不快だ」
獄主は声に出して言ってみて再認識した。やはり不快だ。
兄とは交流が乏しいわけではない。たまに酒も飲むし、腹違いの兄弟が多数いる中で、ハヴェルと獄主は母も一緒だ。
それでも我慢ならない。
聡一朗を、兄の目に晒したくない。
「そんなに嫌でしたら、聡一朗様を一居に移したらどうですか?一居の候補者は交換できない決まりでしょう?」
「駄目だ。聡一朗は十居を愛しているんだぞ」
珍しくイライラしている獄主の空気は、鬼たちにとって刃と同等だ。切り裂くように襲ってくる圧を避けるため、コウトは扉の前から動けないでいた。
「聡一朗の咎津を、獄主は感じません。もしハヴェル様も感じないのでしたら、確実に聡一朗様に咎津は無いはずです」
「……咎津のあるなし等、もうどうでも良い。近付けたくない」
デスクに肘を付き、頭を抱えたまま獄主が呟く。
コウトと、姿を見せないまま見守っているフウトとライトは、獄主の姿を目を細めて見ていた。微笑ましい事この上ない。
駄々っ子のような姿も、今までの獄主からは想像もつかないものだった。
「大体兄上は、何人嫁を娶るつもりなんだ。もう何人もいて、子も多い」
「ハヴェル様の奥様は8人です。因みに食事会も参加されますよ」
「神も兄上に何度も候補者選びをさせて、どういうつもりなんだ」
(獄主が、獄母を作らないからですよ……)
繰り返すようだが、選ばれた花嫁が子を産むことによって、初めて獄母となる。獄主がこのまま子を作らなければ、次の獄主は獄主の兄弟やその子供が就任することになるだろう。
獄主以外の兄弟は、子作りにも積極的だ。前獄主の豪快さを引き継いでいるのだろう。
逆に子を作らない獄主に、批判的な態度を取る兄弟も多かった。
「食事会の時の衣装は準備しているか?」
「ワタベに作らせています」
「聡一朗のは、灰色生地で作らせろ。刺繍も入れるな。他の候補者は華美に仕上げよ」
「……御意」
獄主の命令に、コウトの頬が緩んだ。
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「………フウトさん、ライトさん、まだ帰らないのか?」
「俺らですか?帰りませんよ」
今日の昼過ぎ、突如として十居にやって来たフウトとライトは、揃って漫画を読んでいる。
畳の部屋にクッションを敷いて寝転がる姿をみると、最初からここに住んでいたかのような溶け込み方だ。
「獄主の護衛は?大丈夫なのか?」
「獄主の命で、聡一朗様の護衛をしばらく受け持ちます。獄主はお強いので、俺らがいなくても大丈夫です」
フウトが言い、再び漫画に視線を戻す。
人間界で一世を風靡した「鬼殺しの剣」という漫画だ。鬼が読むものではない様な気がするが、ライトは時々目を潤ませながら読んでいる。
「面白いですか?それ」
「面白いですよ。これ読んでると、俺らの主がパワハラ鬼じゃなくて良かったと思います」
聡一朗が吹き出すと、フウトが微笑んだ。
ライトとは違い、フウトは細い痩躯で背も高い。表情も乏しいと思っていたが、笑いかけられて印象ががらりと変わった。笑う顔は、かなり人懐こい。
「1巻ありますか?俺も読んでみたい」
「あれ?人間界で読んでないんですか?」
「うん。存在は知ってるけど、流行った時、俺外国にいたから……」
よいしょと畳に腰を降ろし、聡一朗は1巻を手に取った。その様子を、フウトもライトも見つめている。
(爆弾テロ犯で、最後は外国で死亡、か)
目の前の男は、とてもそうは見えない。
パラリと頁を捲る指は、長くて細い。日本人にしては彫りが深いが、濃い顔では無い。垂れ目が穏やかな印象を与えるが、眉はキリリと上がっている。
アンバランスなパーツが組み合わさって、絶妙な魅力を湛えている。そんな顔だ。
「あ、これ、俺無理かも……1巻でこれ?ああ、無理だ……」
聡一朗は半分も読まないうちに本を閉じた。潤んだ目尻を袖で乱暴に拭って、積み上がった漫画の山にそっと返す。
「これが駄目だったら、今日日の日本の漫画、殆ど読めませんよ」
「え?そうなのか?」
「友情、努力、勝利だけじゃ、物足りなくなったんですかね」
フウトの言葉に、聡一朗は寂寥感を顔に滲ませた。
開け放たれた縁側の扉に目を遣ると、いたたまれないといった声色で呟く。
「漫画の世界ぐらい、辛くない世界にして欲しいよな」
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