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前半戦

9.獄主、友人はこんな事まで!? *

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 目の前の魚の餡かけがぼやけて、聡一朗は頭を振った。

「……大丈夫か?聡一朗」
「ん、ああ、平気だ……」

 気分は悪くないのだが、妙に眠くて怠い。折角誘ってもらった昼食も喉に通らず、おまけに遠のく意識を保つのに必死だった。

「聡一朗、無理をするな。疲れが出ているのだろう。私の使っている仮眠室がある。そこで休むといい」
「んん、ああ、すまない。そうしよう……かな」

 せっかくの食事が台無しだが、どうにもこうにも抗えそうにない。フラフラと立ち上がると、獄主も立ち上がった。

「部屋まで手を貸す」
「いや、大丈夫。獄主は飯を食えよ……」
「私はいい。直ぐそこだ」

 獄主に腕を引っ張られ、聡一朗は仕方なく歩き出した。とはいえ罪悪感は身を突く。

 昼食に誘ってもらいながら、食べれない上に眠いだなんて、失礼すぎる所業だ。
 とはいえ、支えてくれている獄主の手が温かい上に心地よく、そのまま連行されるように歩を進めた。

 食事をしていた部屋の直ぐ近くに執務室はあり、仮眠室はその隣にあった。
 部屋の中にはベッドや一人掛けソファ、テーブルなど、仮眠室というよりホテルの一室と言った方が良い様な作りだ。

 ベッドに腰かけると、聡一朗は大きく溜息をついた。膝に手を置いて、頭を垂れる。
「ほんっと、ごめんな。……今度、埋め合わせさせてくれ」
「……構わん」

 静かに答える獄主に向けて、聡一朗は眉を下げて笑みを作った。ごめんな、という気持ちを表した表情のつもりだった。

 だが獄主の顔が、何かに耐えているかのように張りつめるのを見て、聡一朗は首を傾げる。
 すると、また獄主の顔が変わる。悪いことを思いついた、少年のような瞳だ。

「聡一朗、この間のやり直しをさせてくれ」
「この間……?」

 ベッドサイドに歩み寄り、聡一朗の目の前に立った獄主は、聡一朗の顎を持ち上げた。
 
(この間って、あれのことか!?)
 と思った時には遅かった。

 目の前にはアホ程整った獄主の顔が迫っており、その美しさに息を詰めている間に唇を重ねられる。

 この間のキスとは違い、いきなり舌を捻じ込んで来ることは無い。聡一朗の唇をまるで食べるように甘噛みし、音をたてて何度も吸い上げる。

「ん、んン……!待っ……んむ、ン」

 唇が音を立てて離れるのも一瞬で、直ぐまた別の角度から吸いつかれる。

 唇と唇を擦り合わされ、唾液で滑る感覚にゾクゾクと身が震えると、また甘く噛みつかれ激しく吸い上げられた。
 顎しか固定されていないのに、身一つ動かせない。

 自身の身体を支える腕が、がくがく震えているのが、聡一朗には堪らなく恥ずかしかった。
 チュプ、という音を立てて唇が離れる。鼻と鼻が触れ合うかのような距離で、獄主が妖艶な笑みを浮かべていた。

(なんちゅう顔すんねん、こいつ……!)

 反射的に目を逸らしたのは、見続けていてはいけないと思ったからだ。
 聡一朗は顔を逸らすと『気を確かに!聡一朗!』と自分を鼓舞し続けた。

「……今のは、どうだった?聡一朗」
「……良いと思います。はい」
「……何だその言葉遣いは」
「い、いや、候補者相手なら、イチコロなのでは、と思って。こないだのも、後から考えたら満点だったのかも」

 言ってる意味が分からない。といった顔を浮かべる獄主を、聡一朗は嘆息しながら見遣った。
「……獄主、トイレどこだ?」

 聡一朗の問いに、ますます眉根を深くしながら、獄主はトイレの場所を見遣る。
 部屋の一室に小さなドアがある。なるほどトイレ付きなのか。と思いながら聡一朗は立ち上がった。

「待て、聡一朗。言っている意味が分からない」

 聡一朗が着ているのは、風呂上がりに用意されていた甚平のような服だ。その裾を掴んで、獄主がまるで子供の様に下から見上げてくる。
 聡一朗は大きく息を吐き切りながら、頭を掻き回した。

「っだから……あんたのキスはエロいんだよ!ったく、抜いてくるからトイレ貸せ!」
「…………」
「い、今黙り込むなって!恥ずかしいだろ!候補者落とすキスって意味なら満点って意味!……っだから……手ぇ離してくれません?」
「……聡一朗は、私のキスで感じた、という事か?」
「っっ!!」
 
 聡一朗は愕然としながら目の前の獄主を見た。耳が焼け落ちるんじゃないかと思うほど、熱い。

 感じたのか、なんて言われると、そりゃ感じたのだろうが、あんなキスされて感じない人間がいたらお会いしたいものだ。
 お会いして教えを請いたい。

「ふ、不可抗力だっ!地獄の長には勝てないって事だよ!トイレ行かせろ!」
「……駄目だ」
「な!?んん!?」

 視界がグリンと変わったと思えば、目に移ったのは天井だった。

 知らない天井、何て呑気に思っている場合ではない。ベッドに押し倒されて、上にそれはそれは綺麗な笑みを浮かべた獄主が跨っているのだから。

「……えぇ??」
「聡一朗、私の責任だ。私が処理しよう」

 何をいっているんだこの人。
 情報が処理できず固まっていると、獄主が聡一朗のズボンに手を掛けた。

「んんん!?何やって!馬鹿!結構です!処理は結構です!」
「……聡一朗、心配いらない」
「ぃいいいやいやいや心配とかじゃなくってね?獄主?」

 ズボンを引き下ろそうとする獄主の手首を掴むも、まったくもってビクともしない。

 焦って獄主を見上げると、相変わらず怪しい笑みを湛えている。
 しかし聡一朗と目が合うと、眉を下げて憂いを帯びた表情に変化させた。

「聡一朗……。鬼はな、友人同士で慰め合うのは普通の事なんだ。……聡一朗は、私の友人だろう?……友人と思っていたのは、私だけだったのか?」
「ゆ、友人?ああ、そりゃ……アンタが良いなら、友人だ」
「ならば問題あるまい。ここは地獄だ。郷に入れば郷に従えと言うだろう」
「し、しかし、そう言う問題じゃ…!っひっ!……撫で、るな……!」

 下着の上からするりと撫でられ、間接的な刺激に身が震える。
「ふふ、硬いな、聡一朗。大丈夫だ……直ぐ楽にしてやる」
「っつ!待て……」
「何でだ?聡一朗。友人であるのに、触られたくないのか?私が嫌いなのか?」

 獄主の顔に浮かぶのは、捨てられそうになってる子犬の様な顔だ。だがそんな顔を浮かべながら、獄主の手は無慈悲にも聡一朗のパンツまで引き下ろした。

 獄主の白磁の様な手が、屹立をふわりと握り込む。先ほどとは違う直接的な感覚に、聡一朗はゾワゾワと肌を粟立たせた。

 獄主の手が上下に動き始め、聡一朗は身を悶えさせた。女性とは違う大きな手で握り込まれると、恐怖にも似た快感が背中を駆けあがっていく。

「っつ!う……!」
「ああ、温かい。聡一朗、こんなにも硬い……」
「んん……しゃべん、な!ぁあ……くそ……っ!」

 上下に攻め立てられ、先端を指でグリグリと穿られる。堪らず腰が跳ねると、獄主からふふと声が漏れた。
 先走りがトロトロ零れ、獄主の手を汚す。ぐちゃぐちゃと響く水音が、聡一朗の羞恥を呷った。

「聡一朗、トロトロだ。気持ちいいのか?」
「ちがっ……!あぁ……馬、鹿……言うな……!」
 あられもない嬌声が信じられなくて、聡一朗は唇を噛みしめた。するとそれを戒めるように、獄主が手の動きを激しくする。

「んんん!ああ、も……は、は、う……!」
「声を我慢するな、聡一朗」

 先端を強く穿られて、堪らない快感が身体に突き抜けた。腰が跳ねるのを見た獄主が、更に手を激しくする。

「イって良い。イけ、聡一朗」
「んんん!だめ……あぁ、手、はなせっ……も……!っくう!っ……!」

 ビクビクと腰を揺らしているのを、自分でも認識しながら制御出来ない。頭が真っ白になって、荒れる吐息が遠くに感じる。

 手も足も、自分の物だとは思えないくらい重い。だらりと四肢を投げ出していると、獄主が頬を緩ませながら聡一朗を見下ろす。

「上手にイケたな。聡一朗」

(何言ってんだ。何してくれてんだ)

 言いたいことは山ほどあったが、息をするので精一杯だった。苦し紛れに睨み付けると、また獄主の表情が変化する。

 ペロリと口元を舐め、口元は弧を描く。獲物を狩る野獣の目だ。

「もう一度だ。聡一朗」
「……は?」

 未だ聡一朗のそれを握りしめたままの獄主の手が、それを絞り上げるように握った。心臓が止まりそうになりながら、誠一郎は肺一杯に空気を吸い込んだ。

「馬鹿!!何!……なにやってんだ!意味わからん!何もかもが分からん!」
「分からんも何も、もう一度だ」
「あほか!俺もうイった……!っつ、ああ、手、離せ!!」

 先ほど放った精で、聡一朗のそれは濡れそぼっている。まだ萎えているそれを揉み込めば、淫らな音がグチュグチュと響いた。
 達したばかりのそれは、敏感だ。触られる度に痛痒いような感覚に襲われる。

 今度ばかりは逃げ出さねばと、聡一朗はがむしゃらに重い手足をバタバタと暴れさせた。
 その抵抗すら愉しいかの様に、獄主はふふと声を立てて笑う。

 獄主は暴れる手首をまとめて一括りにすると、聡一朗の頭上に縫いつけた。
 片方の手を聡一朗の顔の横に置いて、上から聡一朗を見下ろしている。

 その視線に、聡一朗は首元がゾクリと震えるのを感じた。支配される。支配しようとしている。
 これが地獄の王様か、と聡一朗は目を見開きながら思った。

 また唇を合わせられ、聡一朗は身体を震わせる。

 先ほどのキスとは違う、乱暴なキスだった。口内を舌でなぞられ、舌を吸われる。上顎を擦られると、突き抜けるような快感が貫いた。

「勃ってきたぞ。良い子だ、聡一朗」
「は、は、言う、な……っつ!ああ!うぅ……!」

 逃げられない快感に、身を捩る。
 拘束された手がフルフル震え、脚はシーツを蹴った。
 行き過ぎた快感に涙が零れると、獄主がそれを優しく指の腹で拭う。

「辛いか?聡一朗。私に身を任せろ」

 辛くさせてんのは誰だ!?頭の片隅でそんな想いが浮かぶも、与えられる快感に身体を悶えさせるしかない。

 2度目の射精は、強烈だった。
 強制的に引き抜かれているような感覚に、身を打ち震えさせ、あられもなく嬌声を上げる。

 身体を反らせて放った後、まるで吊り糸が切れたように身体から力が失せていった。獄主が何か囁いていたようだが、聡一朗の耳は何も拾う事が出来ない。

 忘れていた睡魔が牙を剥いて再来したのを感じ、聡一朗は素直に従う事にした
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