上 下
2 / 3

未来が閉ざされた日

しおりを挟む
 陽介が13歳のとき、普通の公立中学校に通う、駆けっこがすきな少年だった。
 ヴヴヴ……
「裕也からラインだ…… 」
 自転車で通っていた陽介は、ペダルを漕ぎながらつい、スマホをポケットから取り出そうとした。
 その時、
 キキィー!!!
「うわっ!! 」
 路地から鼻面を出してきた車にぶつかり、車道へ投げ出された!
 ドカッ!!
 幸いにも、ちょうど車の切れ目だったので轢かれずに済んだ。
 だが、
 頭をアスファルトに強打して、意識を失った……

「ん…… ここは…… 」
 気が付くと、大学病院の集中治療室にいた……
 心電図と、脳波計が脇にある。
 ピッ、ピッ、ピッ……
 それが自分の心臓の鼓動を表していると、段々わかってきた……
「ああ、そうか。俺は車にぶつかって…… 」
 ガラス越しに、看護士さんと、医者の先生がこちらを見ていた。
 慌ただしく、看護士さんが指示を出しているようだ。
 心臓が動いている。このことが、こんなに大事なことだったのだと、実感できた。
「生きている…… よかった。早くここから出たいな…… 何だか息苦しい」
 その日のうちに、総合病院へ転院して一般病棟に入院した。
「陽介…… よかった。心配したのよ」
 母聡子は、陽介の手を取ってずっと擦っていた……
 中学校の担任や、友人数人が訪ねてきてくれた。
 入院生活は退屈そのものだった。
 1週間ほど経ったが、左半身は動かないままだった。
「脳に損傷を受けた後遺症で、左半身の麻痺は残るでしょう」
 医者の先生に告知を受けた。
 信じられない気分だった。
 なんだか他人のことを言っているように聞こえた。
「あんなこと言って…… 医者だって、預言者じゃあるまいし、ケガや病気のことを全部分かってるわけじゃないだろうに…… 」
 陽介は自然に左半身も、元通りになる気がしていた。
 しかし、
 医者はこういう時、残酷なほど正確に身体のことを把握している。脳のCTに写った出血痕が、運動野を傷害した後がはっきり写っている。
 転院先がすぐに空いたので、本格的なリハビリ施設がある病院へ転院になった。
 そして、肢体不自由の認定を受け、障害者手帳も取得した。
 公立中学校に在籍したまま、特別支援学校の支援を受けることになった。
 早速宿題が病室に持ち込まれた。
「陽介。考えてみたんだけど、ここでのリハビリを受けても完全には回復しないから、専門的な指導を受けられる、特別支援学校のお世話になった方がいいと思ったのよ」
「ああ。母さんがそう言うなら、それでいいと思うよ。俺はとにかく元の身体を取り戻すから」
 陽介はいつも前向きに、自分が元のように走れるようになるものだと、固く信じていた。
 左腕、左手の指先まで麻痺があるので、まずは筋力を取り戻すトレーニングが行われる。
 元々運動が好きなので、ハンドグリップを持ち込んで、いつも握っていた。
「指先と左上腕、肩の筋力は、大分戻ってきたね」
 理学療法士さんも、驚くほどの速さでリハビリが進んだ。
 だが、左足の麻痺は深刻だった。
 平行棒を使って歩行訓練が行われた。
「もう一回やらせてください」
 陽介はできるまで何度も繰り返す。
「絶対走れるようになりたいんです! 」
 こうして、リハビリ病院での3か月間が過ぎ、退院した。
 特別支援学校へ通い始めた陽介は、週2回理学療法士さんの機能訓練を受けることができた。
 後は手すりを頼りに、歩行訓練を自力で続けた。
 こうして1年が過ぎたころ、何とか杖をついて自力で歩けるまでになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

on your marks ~届けたかった思いとバトン~

華音 楓
青春
主人公圭太は中学三年の最後の陸上大会男子400mリレーでバトンパスを失敗してしまう。それがトラウマとなり、高校は帰宅部を選択。幼馴染の涼音から再三にわたって復帰を打診されるも断り続ける。ある日同級生の泉がランニング中の圭太の元を訪ねる。泉こそ圭太がバトンをつなげなかった相手だった。負い目を感じている圭太に泉は有る思いを伝える。涼音が好きだと。圭太、涼音、泉の恋の行方は……。そして圭太の決断は……

夏の出来事

ケンナンバワン
青春
幼馴染の三人が夏休みに美由のおばあさんの家に行き観光をする。花火を見た帰りにバケトンと呼ばれるトンネルを通る。その時車内灯が点滅して美由が驚く。その時は何事もなく過ぎるが夏休みが終わり二学期が始まっても美由が来ない。美由は自宅に帰ってから金縛りにあうようになっていた。その原因と名をす方法を探して三人は奔走する。

秋空雨恋

粟生深泥
青春
憧れの陸上部の先輩は、よく雨に降られる少し変わった人だった。

桑原家のツインズ!高校デビュー☆

みのる
青春
桑原家の『ツインズ』が、高校生になりました!誰しにも訪れた、あの青春時代…(懐)

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

刈り上げの春

S.H.L
青春
カットモデルに誘われた高校入学直前の15歳の雪絵の物語

田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良
青春
とある県の平凡な県立高校「東総倉高等学校」に通う、名前以外は平凡な少年が、個性的な人間たちに翻弄され、振り回され続ける学園コメディ! 彼は、ごくごく平凡な男子高校生である。…名前を除けば。 田中天狼と書いてタナカシリウス、それが彼の名前。 この奇妙な名前のせいで、今までの人生に余計な気苦労が耐えなかった彼は、せめて、高校生になったら、平凡で平和な日常を送りたいとするのだが、高校入学後の初動に失敗。 ぼっちとなってしまった彼に話しかけてきたのは、春夏秋冬水と名乗る、一人の少女だった。 そして彼らは、二年生の矢的杏途龍、そして撫子という変人……もとい、独特な先輩達に、珍しい名を持つ者たちが集まる「奇名部」という部活への起ち上げを誘われるのだった……。 ・表紙画像は、紅蓮のたまり醤油様から頂きました! ・小説家になろうにて投稿したものと同じです。

処理中です...