ダブルワークの執事

森葉 ゆしき

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第2話

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「ただいま」
・・・ガチャン。
今日も長い仕事が終わった。
部屋に着いたのは夜10時半。もうすぐにでも寝たい。

「おかえりなさいませ」

彼が出迎えてくれた。

「今日は特にお疲れのようですね、ごはんとお風呂どちら先にしますか?」

「先に風呂入ってきます」

今は8月。夜と言えど蒸し暑さが残る。部屋まで歩くだけでも汗が滲んでしまった。

今日は少し贅沢で入浴剤を入れ、ワイヤレススピーカーでお気に入りの音楽をかける。

「はああぁ。」

とても間抜けな声が出てしまった。彼には聞こえていないだろうか。
しかし、仕事で頑張った疲れを落とすリラックスタイムだから少しは許してほしい。
この部屋の浴槽は決して大きいわけではないけれど、身長が160もない私が入るには問題ない大きさだ。

チャプチャプと手で波紋を立てながらボーっとする。
やばい。寝てしまいそう。しかしここで寝てしまっては大事件になってしまう。
しかし出ようにも体が完全にリラックス状態になってしまった。

・・・・5分程格闘してようやくあがる決心がついた。

髪を乾かして寝巻の状態で脱衣所を出る。
そうするとキッチンからリビングのテレビを見ている彼が見えた。
・・・なにか既視感があると思ったらそうだ。母親だ。

「上がられましたか。すぐにごはんとスープを注ぎますね」

リビングのテーブルには既にメインが置かれていた。

今日は冷しゃぶのようだ。

「さっぱりメニューで、すだちポン酢で用意してみました。
 豚肉とトマト、オクラには疲労回復の効果もあるらしいですよ。」

今日は特に疲れて帰ってくると読んでいたのだろうか。

「ごはんは少なめにしますか?」

「少なめでおねがいします」

すだちポン酢の酸味のあるすっきりとした香りで、少しだけ食欲が出てきた。

「「いただきます」」

すだちポン酢をしっかり回しかけて豚肉を頬張る。
柔らかく仕上げられた肉の甘みとすだちポン酢の酸味がよく合う。
とてもおいしく、これならすべて食べられそうだ。
付け合わせの野菜やスープを飲みながら箸を進めていく。


【~~~ということで今日は○○さんおすすめのマッサージ店トップ5でした!それではまた次回!~~~】

テレビでは人気俳優が通っているマッサージ店の特集をしていたようだ。

「さっきのテレビに出ていた3位のお店、この近所のようですね」

彼が言う。

「そうなんですか?」

「はい。私の仕事の取引先近くにあるお店です。看板が特徴的なので覚えていました」

マッサージ店と聞いておしゃれな筆記体で書かれた看板を想像していたら全然違った。
そこには、男らしく盛大に筆で書かれたような文字の看板が映っていた。

「・・・確かにこれはなんというか、すごいですね」

確かにこれは特徴的だ。しかし4年近く住んでる私は知らなかった。
既に私より、この辺りの地理をよく知っているようだ。

「けれど看板の印象とは裏腹に、中はとても清潔感のある落ち着いた雰囲気でしたよ。
 女性のお客さんが少ないと店長は笑って喋ってましたけど、この看板はハードル高いですよね」

そういって彼は少し笑っている。

「確かにこれだけ見たら、マッサージ店とは思わないですからね」

「・・・ゆきさんはマッサージって出来るんですか?」

ふと思った。

「肩たたきくらいですかね。あとは運動後のマッサージとかはたまに」

なんでもできる人間だと思っていたので意外だった。

「ごはんの後に肩たたきでもしましょうか?」

「いえ、大丈夫です。
 さすがにこの時間にお店は空いてないので、出来るならお願いしてもいいかもって思っただけです」

家に帰ればマッサージ師がいる。どんな富豪なのかと思った。
けれど、よく考えれば家に執事がいることも十分に富豪みたいな生活をしている。

「では今度さっきのお店に行ってみて勉強がてら体験してきますね」

「無理にそこまでしなくてもいいですよ?」

彼ならおそらくガチで勉強しそうである。

「いえ、純粋に体験してみたいとおもっただけです。
 さっきのお店は夫婦でされてて、どちらもとても上手で特に肩の疲れとかスッキリするらしいですよ」

「なるほど」

最近デスクワークばかりで体が固まりまくっていたので良いかもしれない。

「土日もやっているんですかね」

「水曜、祝日休みみたいですね。
 なんでしたら次のお休みに行かれてみてはいかがですか?」

さすがの情報収集能力である。
けれど、確かに最近の休日は寝て過ごすだけだったので気分転換に良いかもしれない。

「確かにそうですね。たまには少しはおでがけしてみましょうか」

「良い気分転換になると思いますよ。
 ちなみに場所はこちらになります」

そういって彼はスマホの地図アプリを見せてくる。

「・・・ちなみに駅の場所はどこになりますか?」

「駅はここですね」

彼はすぐに指さす。なぜ分かるのだろうか。
彼に色々説明してもらうけれど、さっぱり頭に入ってこない。

「・・・もしかしてリサさまは、その・・・方向音痴ですか?」

「・・・そうです。」

それも割と重度のである。
・・・顔が赤くなって下を向いてしまう。

せっかく少し興味がわいたのだけれど、この道のりは険しいようだ。

「・・・でしたら私と一緒に行きませんか?」

想像していなかった。
確かにそれなら彼が道がわかるので問題ない。けれど

「その、いいんですか?」

彼の予定を埋めてしまっては申し訳ない。

「先程も言いました通り、個人的に興味がありましたから」

そういえばそう言っていった。さっき言っていたのに。

「それならいいんですけど」

「リサさまが行きたい時に言っていもらえば、予約を取っておきますので」

「ありがとうございます。
 ・・・ではその時にはまたおねがいしますね」

それなら次の休日に行ってみようか。

・・・

・・・・・

・・・・・・・よく考えれば、初めて彼と二人きりで出かけるのでは?
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