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8偽ヒロイン爆誕

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「あなた、むやみやたらに令息に声をかけるのは良いことではないわ」
学園に入学して三ヶ月程経ったある日のこと、ピンク色の髪が可愛らしいアイラ・エクレール男爵令嬢は同じクラスの女子生徒何人かにそう言って声を掛けられた。
「でもあたし、親から学園で嫁入り先を探してくるよう言われていて──」
それを聞いた女子生徒は顔を見合わせた。
普通、そう言われていても口に出すことはないし、婚約者のいるいないにかかわらず手当たり次第に声をかけるものでもない。
「普通、気になる殿方を絞ってから”攻略”するものではなくて?」
何でこんなことを教えないといけないのかと思いながらも、親切心から一人の令嬢がそう伝えたところ──

「ヒロイン、キター!!!」

アイラ・エクレール男爵令嬢は、『攻略』という言葉をトリガーに突然前世の記憶を思い出したのだった。

(ハイ、『ひろいん』4回目頂きマシタ~)

突然の叫びに唖然とする令嬢達の横を、聞き慣れた単語に辟易しながらミルク・ガレット子爵令嬢が通りすぎていった。

「ヒロインにありがちなピンクの髪と瞳。可愛い顔立ち。第一王子は卒業しているけれど第二王子とその婚約者悪役令嬢は在学中。何のお話かはわからないけれど、あたしはヒロインだったのね。道理でかわいいと思っていたわ。
に過ごしていれば王子様と出会って悪役令嬢達に虐められて、王子様と結婚できるはずね」

その日から第二王子殿下にやたら近づこうとしては周りの生徒にさりげなく阻止される男爵令嬢の姿が目撃されることになった。
下手に関わって巻き込まれてはかなわない。もう周りの令嬢はアイラ・エクレール男爵令嬢に忠告することを諦めたのだった。


★★★


その日の放課後、私とシャルロットの余暇が重なったため2人して読書室へ向かった。
ミルクさんは大体図書室の奥で一般生徒が好まない本を読んでいるので、約束がなくともそこで確保することが出来る。
一通り勉強を終え、お茶会の準備を調える。
私達だって、自分達が飲む分くらいは淹れることができるのよ。
そうして三人が着席したタイミングでシャルロットが言った。
「最近第二王子殿下の周りが賑やかな様ですわね」
「ピンク色の髪の男爵令嬢でしょう?確か一年生のアイラ・エクレールさんでしたかしら。弟が頭を抱えていましたわ」
ことあるごとにフリュイ殿下に話しかけようとするらしく、阻止するのが大変だと。
「あぁ、グラン侯爵令息は殿下の側近でしたわね」
まぁ殿下に危害を加えようとするわけでもないし、学園内では建前上身分は関係なく平等となっているので、話し掛けようとする程度ではきつく言えないらしい。
「あぁ、ピンクの髪と言えば」
思い出したようにミルクさんが面白い情報をもたらしてくれた。
「その方、先日ご友人らしき人達と話している時に『ひろいん、きたー』と訳のわからないことを叫んで周りを困惑させていましたよ。お二人のお仲間ですか?」

私とシャルロットは顔を見合わせる。
「転生者ね──でもその様子ではこの物語は知らないみたい」
「フリュイ殿下を攻略出来るかしら。あまり他人に興味の無い方だから、あの方の琴線に触れるなにかがあれば、チャンスはあるかもしれないけれど」
私はいきなり訪れたフリュイ殿下の恋のチャンスに、ちょっとウキウキする。
「だけどショコラ。その方は物語を知らないのに殿下攻略に動いているということでしょう?何で自分をヒロインと思ったのかしら」
家名はともかく名前がお菓子で無い彼女はモブ以外のなんでもない。
この物語を知らなくてもお菓子の名前に詳しければ察することが出来たかもしれないけれど。
「髪がピンク色だからでしょうね。ヒロインモノの定番よ」
でも、そんな単純な思考の彼女なら、
「私に何か仕掛けてくるかもしれないわね」

それもまた定番だもの。

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