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チートがない
3 創傷処置
しおりを挟むそもそも人間相手の処置しか見たことないし魔獣相手にこれが可能なのかは分からないのだけど、そもそも前世の動物とは違うし、自然治癒能力が高くて魔力だってあるウルフだからなんとかなるのではと言う不確実な要素しかない。でもこのまま魔獣に囲まれるよりはマシなのではないかと思います。
前世で散々介助してきた処置だけど、私だって医者ではないのだから、命がかかってなければこんな真似しないわ。
さてはじめましょうか。
まず、ナイフを取り出し傷の周囲の毛を剃った。
続いて『洗浄』
私が声に出さず念じると、水の玉が出現し傷を覆う。
結界魔法で自分の手に手袋状に結界を張り、血と土のついた傷を清潔な布でバシャバシャ洗う。
流石に痛いようでポチの体に力が入る。それを見てお兄さんの体にも力が入っている。麻酔なんてないからごめんねと思いながらも、しっかりきれいに洗う。
「二人とも、がんばって」
洗浄はこれくらいで良いかな。水を含んだ傷口を見ると傷に残った水にじわじわと赤い液体がにじみ出している。
乾いた清潔な布で傷を拭き、”消毒”代わりの結界を展開する。
『除菌!』
この世界、どんな細菌やウイルスがいるかわからないから傷口の消毒は徹底的に行う。魔獣にやられたのなら尚更。
さっきの手袋結界もそうだけど、これは手や傷の中央から放射状に菌やウイルスなんかを閉め出しながら広がっていくイメージで結界を展開し、結果無菌を実現するという私オリジナルの魔法なの。声に出して詠唱するのを恥ずかしく思っていたら、無詠唱で出来るようになったわ。
なんなら恥辱がなくなった分コントロールと効果、共に良くなったくらいよ。
ファンタジーの世界できれいにする魔法と言えば『クリーン』だけど、風呂代わりならともかく、傷の処置となるとイマイチきれいになった気がしないのよね。イメージ出来ないのよ。
水は生理食塩水とかも考えたのだけど、水魔法で出す水だから普通にきれいだと思いそのまま。洗浄の後で『除菌!』するのでなんの問題も無い。
あ~、前世で処置の介助をするときも使うものは、洗浄水、創部に水をかける方法、拭くためのガーゼの大きさ、消毒液の種類、局所麻酔の準備の仕方、針の太さ、使う綿球の大きさ、糸の種類・太さ、使うセーレ、縫合後の処置、ガーゼの当て方に至るまで、外科、整形、更に医師によって好みが全然違うもんだから、すっごく大変だったことを思い出したわ。それを医師ごとに覚えて、何も言わなくともすぐに使えるように出しておかないと不機嫌になる先生もいたわね。
前世を懐かしく?思い出しながら処置を進める。
除菌まで終わり、ここまでの処置を呆然と見ていた彼に声をかける。
「で、ここからが本番なのだけど、あなた、お裁縫はできる?」
「え?あ、あぁ、人並みには?」
「じゃぁ、よろしく」
傷口からはまだ血がにじみ出ている。
私は街の工房に特注で作ってもらった針とダンジョン産のシルクスパイダーの糸(もちろん結界で滅菌済みよ)を手袋結界を施したお兄さんの手に渡し、質問する間も与えず場所を指示して縫ってもらった。
え、何故自分で縫わないのかって?私、料理と裁縫は壊滅的にダメなのよ。悪い?
お兄さんはとても上手で手際が良かった。若いのに素晴らしいわね。
無事に縫い終わったところに、念のため化膿止めを塗り込む。その間ポチはピクリとも動かなかった。傷の治療って分かっているのね。頭のいい子だわ。
ポチの頭をなでながら、「これで止血出来たハズよ。子犬とはいえウルフなら自然治癒力も高いし、明日には移動できるでしょう」と伝える。
「あ、ありがとう。俺はプレスト、26だ。冒険者をやってる。君は、何というか・・・スゴいな」
「いえ、凄いのはあなたの方だと思うわ」
どちらかというと、いきなり生き物の足を縫えと言われてすぐに縫えるあなたのほうが凄いと思う。
普通に驚きよ。
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