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これは手に負えない案件です
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「君とは婚約破棄だっ」
彼は、男性とベンチに隣り合わせで座り、クッキーを食べようとしている自身の婚約者に向かって叫んだ。
★
年の離れた姉からお願いがあると嫁ぎ先に呼び出され、何事かと思ったら『近頃息子の様子がおかしい』と言うものだった。『年の近いあなたが相談にのってあげてくれない?』と。
私18、甥っ子16。しかも叔母。
その原因いかんによっては一番いやがられる年の差ですよ、お姉さま。
そのお願いを聞くだけ聞いた帰り道、件の甥っ子が家の者にも何も告げず、従者も連れず、コソコソと出掛けているのをみかけてしまった。侍女の顔を見るけどすまし顔、仕方ないので帰るために待機していた馬車にもうしばらく待って貰うように告げて、面倒臭いけど侍女と共に甥っ子の跡をつけた。令嬢のすることではない。
馬車に乗られたら追うこともできないのでそこで諦めようと、心の中で馬車に乗ってくれますようにと祈りながら追うが、残念ながら全行程徒歩だった。
周囲を気にすることもなく、邸の近くにある公園の中をずんずんと入っていく。その表情は見えないけれど、怒っているような、泣いているような、そんな感じ。
すこし奥まった木陰にベンチが一つ、そして二つの影、甥っ子は迷いなくそこに向かっていく。
面倒くさいことが起こりそうな気がする──。
「俺というものがありながら、他の男とそんな、そんな、、、、君とは婚約破棄だっ」
甥っ子は男性とベンチに隣り合わせで座り、クッキーを食べさせようとしている自身の婚約者に向かって泣きながら叫んだ。
うん、どちらかというと彼女の方が積極的に見える。
はい、これは婚約者どころか好きな人もいない私には、手に負えない案件です。
不味いところを見てしまったと踵をかえそうとしたところ、浮気相手?の男性とバッチリ目が合ってしまった。
★
よく知る顔だった。
彼の人となりは知っているので、恐らく誤解だろうとは思うけれど、状況が状況。
彼が目で訴える『──助けてくれ』と。
私は首を横に振りながら心で答える『──恋愛系の問題は私には荷が重いです。話せばわかる子なんで、自分達で何とかしてください』と。
僕は目で訴える『──僕は彼女とそのような関係ではありません』と。
首を横に振る彼女の表情が語っている『──いえいえ、その距離感、手元のクッキー、完全にクロでしょう』と。
そして私(彼女)は背を向け、侍女とそっと去って──
★
「ち、違う!従妹なんだ。婚約者の誕生日にクッキーを焼いてプレゼントしたいと試作したので味をみてくれと。彼女の兄に見つかって揶揄われるのが嫌だからと頼まれて何度か、、、彼女の兄から見つからないために隠れて毒味をする必要があって、、、弱みを握られていて断れなかったんだっ」
突然ベンチから立ち上がり、彼が叫ぶ。不穏な単語があった気がするけど、違うって何が?
「──僕が好きなのは君なんだっ」
彼、その隣に彼女、彼の前方に甥っ子、その後方に私(と侍女)。
「え゛。」
甥っ子が自分を指差し、青ざめる。
「え、そうなの?!」私も青ざめる。
「いや、違うでしょう」冷静な侍女が思わずつっこむ。
その声を聞きいた甥っ子がゆっくり振り向き、私を視界に入れる。あまりの衝撃に涙も引っ込んだらしい。
何故かほっとした表情からの、「お、おまっ!なんでここにいるんだっ!」激おこモード。
「──っていうかお従兄様っ。毒味ってなんですの?毒味って」あら、こっちも激おこ。
「弱みを握る云々は否定しないのですね」侍女が静かに呟いた。
★
彼の暴露で無事に誤解はとけ、甥っ子とその婚約者は事なきを得た。
今回、隠れて毒味?をしているところを偶然見た甥っ子の友人が、よかれと思って教えてくれたらしい。彼女にベタ惚れの甥っ子は、信じなかった。
なのに今日は休日なのでデートに誘ったところ、先約があると断わられた為あの話は本当かと思い、この場を押さえに来たらしい。──誕生日は来週だもんね、毒味レベルなら彼女も焦るよね。
それでここのところ甥っ子の様子がおかしかったのね。なんにせよ、これでめでたしめでたしね。
クッキーはサプライズではなくなったけど、甥っ子の友人は悪くない、多分。
「それにしても、彼は失恋になるのかしら?」
「そんなだから婚約者の一人も出来ないのですよ、お嬢様」
彼の恋の行方が気になって独りごちたら、侍女にそんなことを言われてしまった。解せぬ。
そろそろお暇しようかしらと思っていたら、例え毒味だろうと彼女の手作りクッキーをこれ以上他の男に渡してなるものかと死守している甥っ子に詰め寄られた。
「で、なんでここにいるのか白状してもらおうか、叔母さん」
叔母さんって呼ばないでって言ってるのに~。跡をつけた上に、勘違いして泣いているところと告白されたところを見られたからか、怒りで顔が真っ赤だ。怒ってるよ、とっても怒ってるよ。
やはり悩みの理由いかんによっては一番いやがられる年の差なのですよ、お姉さま(><。)。
★
「弱みが使えなくなったかと残念に思っていましたが、どうやら全然伝わってないようですわよ。お従兄様」
甥っ子の婚約者が彼に何かをささやいているのが見えた。
恋の勝利宣言ってヤツかしらかしら。
今度会ったら慰めてあげようかな。
彼は、男性とベンチに隣り合わせで座り、クッキーを食べようとしている自身の婚約者に向かって叫んだ。
★
年の離れた姉からお願いがあると嫁ぎ先に呼び出され、何事かと思ったら『近頃息子の様子がおかしい』と言うものだった。『年の近いあなたが相談にのってあげてくれない?』と。
私18、甥っ子16。しかも叔母。
その原因いかんによっては一番いやがられる年の差ですよ、お姉さま。
そのお願いを聞くだけ聞いた帰り道、件の甥っ子が家の者にも何も告げず、従者も連れず、コソコソと出掛けているのをみかけてしまった。侍女の顔を見るけどすまし顔、仕方ないので帰るために待機していた馬車にもうしばらく待って貰うように告げて、面倒臭いけど侍女と共に甥っ子の跡をつけた。令嬢のすることではない。
馬車に乗られたら追うこともできないのでそこで諦めようと、心の中で馬車に乗ってくれますようにと祈りながら追うが、残念ながら全行程徒歩だった。
周囲を気にすることもなく、邸の近くにある公園の中をずんずんと入っていく。その表情は見えないけれど、怒っているような、泣いているような、そんな感じ。
すこし奥まった木陰にベンチが一つ、そして二つの影、甥っ子は迷いなくそこに向かっていく。
面倒くさいことが起こりそうな気がする──。
「俺というものがありながら、他の男とそんな、そんな、、、、君とは婚約破棄だっ」
甥っ子は男性とベンチに隣り合わせで座り、クッキーを食べさせようとしている自身の婚約者に向かって泣きながら叫んだ。
うん、どちらかというと彼女の方が積極的に見える。
はい、これは婚約者どころか好きな人もいない私には、手に負えない案件です。
不味いところを見てしまったと踵をかえそうとしたところ、浮気相手?の男性とバッチリ目が合ってしまった。
★
よく知る顔だった。
彼の人となりは知っているので、恐らく誤解だろうとは思うけれど、状況が状況。
彼が目で訴える『──助けてくれ』と。
私は首を横に振りながら心で答える『──恋愛系の問題は私には荷が重いです。話せばわかる子なんで、自分達で何とかしてください』と。
僕は目で訴える『──僕は彼女とそのような関係ではありません』と。
首を横に振る彼女の表情が語っている『──いえいえ、その距離感、手元のクッキー、完全にクロでしょう』と。
そして私(彼女)は背を向け、侍女とそっと去って──
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「ち、違う!従妹なんだ。婚約者の誕生日にクッキーを焼いてプレゼントしたいと試作したので味をみてくれと。彼女の兄に見つかって揶揄われるのが嫌だからと頼まれて何度か、、、彼女の兄から見つからないために隠れて毒味をする必要があって、、、弱みを握られていて断れなかったんだっ」
突然ベンチから立ち上がり、彼が叫ぶ。不穏な単語があった気がするけど、違うって何が?
「──僕が好きなのは君なんだっ」
彼、その隣に彼女、彼の前方に甥っ子、その後方に私(と侍女)。
「え゛。」
甥っ子が自分を指差し、青ざめる。
「え、そうなの?!」私も青ざめる。
「いや、違うでしょう」冷静な侍女が思わずつっこむ。
その声を聞きいた甥っ子がゆっくり振り向き、私を視界に入れる。あまりの衝撃に涙も引っ込んだらしい。
何故かほっとした表情からの、「お、おまっ!なんでここにいるんだっ!」激おこモード。
「──っていうかお従兄様っ。毒味ってなんですの?毒味って」あら、こっちも激おこ。
「弱みを握る云々は否定しないのですね」侍女が静かに呟いた。
★
彼の暴露で無事に誤解はとけ、甥っ子とその婚約者は事なきを得た。
今回、隠れて毒味?をしているところを偶然見た甥っ子の友人が、よかれと思って教えてくれたらしい。彼女にベタ惚れの甥っ子は、信じなかった。
なのに今日は休日なのでデートに誘ったところ、先約があると断わられた為あの話は本当かと思い、この場を押さえに来たらしい。──誕生日は来週だもんね、毒味レベルなら彼女も焦るよね。
それでここのところ甥っ子の様子がおかしかったのね。なんにせよ、これでめでたしめでたしね。
クッキーはサプライズではなくなったけど、甥っ子の友人は悪くない、多分。
「それにしても、彼は失恋になるのかしら?」
「そんなだから婚約者の一人も出来ないのですよ、お嬢様」
彼の恋の行方が気になって独りごちたら、侍女にそんなことを言われてしまった。解せぬ。
そろそろお暇しようかしらと思っていたら、例え毒味だろうと彼女の手作りクッキーをこれ以上他の男に渡してなるものかと死守している甥っ子に詰め寄られた。
「で、なんでここにいるのか白状してもらおうか、叔母さん」
叔母さんって呼ばないでって言ってるのに~。跡をつけた上に、勘違いして泣いているところと告白されたところを見られたからか、怒りで顔が真っ赤だ。怒ってるよ、とっても怒ってるよ。
やはり悩みの理由いかんによっては一番いやがられる年の差なのですよ、お姉さま(><。)。
★
「弱みが使えなくなったかと残念に思っていましたが、どうやら全然伝わってないようですわよ。お従兄様」
甥っ子の婚約者が彼に何かをささやいているのが見えた。
恋の勝利宣言ってヤツかしらかしら。
今度会ったら慰めてあげようかな。
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