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うちの息子には素敵な未来が待ってるらしい
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アベラルドが連れ帰ったお嬢さん──レーア嬢は、下位貴族としては申し分のないマナーと常識を持った、小説の登場人物とは──明るく人好きのする笑顔を除けば──全く異なる印象の美しい令嬢だった。
その容姿を見初めて流行りの小説になぞらえば民意を得られるのではと婚約者のすげ替えを画策したた王太子殿下──いや、元王太子殿下のいわば被害者だった。
公爵令嬢とはいつも相談にのってもらっていたため、懇意にしており、とても仲が良いらしい。
夜会の後、周囲にまともな人材がおらず、穴だらけの策しか練れない王太子殿下は王位につく適正なしと判断され廃太子になったことで公爵令嬢との婚約はお望み通り白紙。王太子殿下を諌めることなく共に愚行を犯した側近の面々もそれぞれ婚約の解消や白紙、相手に有利な条件をつけられての婚約継続などの手続きがとられたらしい。
レーア嬢は元王太子殿下や側近の誘いをなんとか遠回しに(直接的な言葉では立場上いえないので)断ろうとしていたり、公爵令嬢に相談している姿も多々目撃されていたため、咎は無いものとされた。
それでもこのような問題の渦中に身を置いていた男爵令嬢に良い嫁ぎ先などあろうはずもなく、廃太子になったとはいえ王子殿下にこれ以上執着されては男爵夫妻には守り切れないと相談の上で公爵令嬢と共に行儀見習いとしてこの国に留学することとなったらしい。
さて、この説明のどこに第2王子殿下とアベラルドが登場しただろうか。
端折られてはいたが、私はその後の身の振り方も含め公爵令嬢が第2王子殿下に相談し、第2王子殿下とアベラルド発案の元、実は4人で王太子殿下を嵌め、廃太子に追いやったのではないかと思っている。
向かい側に座るランハートとマリー嬢の指が小さくオッケーサインを出したので、その予想は間違いではないのだろう。
──私ってそんなに分かりやすいかしら。
この日を迎えるまで色々な出来事が起こったけど、長男次男ともに無事婚約者が決まったし、これでやっと安心出来るわ。
「そこでご相談があるのですが」
「なんだい、改まって」
安心したのもつかの間、アベラルドの発言に半分諦めたようにウィリアムス様が問い返す。私もあなたと同じ気持ちよ。
「家督はランハートに譲り王都関連の仕事は彼に、私はその補佐になりレーアと共に領地を盛り上げたいと思います」
アベラルドは爵位を継がないつもりなのだろうと感じだしたのはいつ頃だっただろうか。ランハートも早い段階で気付いていたに違いない。
「構わないよ。王都の有象無象は僕と彼女に任せてよ」ランハートの隣でマリー嬢もうなずいている。良い笑顔だわ。
「相談の上での発言だろうが、君もそれで構わないのかい?」
ウィリアムス様はアベラルドの隣に座るレーア嬢の顔を見る。
「はい。王都で伯爵夫人など田舎育ちの男爵令嬢である私には荷が重いのです。
それに差し出がましいようですが伯爵領の産物など調べさせて頂きましたわ。私、元々商品開発などに興味がありましたの。色々案があり、今も試したくてウズウズしておりますわ」
ランハートとマリー嬢と違い、純粋に未来を見つめたその期待溢れんばかりの笑顔に、アベラルドが惹かれた理由が分かった気がした。確かに貴族らしからぬこのお嬢さんには王都より領地の方が合っているだろう。
「なんとなく、こうなる予感がしていたよ」
ウィリアムス様がそう呟きため息をついた。
研究所に入職しての研究者の未来、第2王子殿下の側近として王城で働く未来、辺境や公爵家に婿入りし当主となる未来、伯爵家当主としての未来、誰もが憧れるそれを蹴っての男爵令嬢との未来──次は二人で商会でも立ち上げそうね。
それとも全く想像のつかない何かが起こるのかしら。
アベラルドが10才の時に言い放った言葉を思い出す。
「僕の未来には無限の可能性が広っているんだ」
その時は言葉と共にとんでもないものを放ったアホな息子だったけど、
「まだだよ、母上。僕達の未来にはまだまだ無限の可能性が広がっているよ」
そう言って笑う彼につられ、これから訪れる未来を思って私も笑った。
その容姿を見初めて流行りの小説になぞらえば民意を得られるのではと婚約者のすげ替えを画策したた王太子殿下──いや、元王太子殿下のいわば被害者だった。
公爵令嬢とはいつも相談にのってもらっていたため、懇意にしており、とても仲が良いらしい。
夜会の後、周囲にまともな人材がおらず、穴だらけの策しか練れない王太子殿下は王位につく適正なしと判断され廃太子になったことで公爵令嬢との婚約はお望み通り白紙。王太子殿下を諌めることなく共に愚行を犯した側近の面々もそれぞれ婚約の解消や白紙、相手に有利な条件をつけられての婚約継続などの手続きがとられたらしい。
レーア嬢は元王太子殿下や側近の誘いをなんとか遠回しに(直接的な言葉では立場上いえないので)断ろうとしていたり、公爵令嬢に相談している姿も多々目撃されていたため、咎は無いものとされた。
それでもこのような問題の渦中に身を置いていた男爵令嬢に良い嫁ぎ先などあろうはずもなく、廃太子になったとはいえ王子殿下にこれ以上執着されては男爵夫妻には守り切れないと相談の上で公爵令嬢と共に行儀見習いとしてこの国に留学することとなったらしい。
さて、この説明のどこに第2王子殿下とアベラルドが登場しただろうか。
端折られてはいたが、私はその後の身の振り方も含め公爵令嬢が第2王子殿下に相談し、第2王子殿下とアベラルド発案の元、実は4人で王太子殿下を嵌め、廃太子に追いやったのではないかと思っている。
向かい側に座るランハートとマリー嬢の指が小さくオッケーサインを出したので、その予想は間違いではないのだろう。
──私ってそんなに分かりやすいかしら。
この日を迎えるまで色々な出来事が起こったけど、長男次男ともに無事婚約者が決まったし、これでやっと安心出来るわ。
「そこでご相談があるのですが」
「なんだい、改まって」
安心したのもつかの間、アベラルドの発言に半分諦めたようにウィリアムス様が問い返す。私もあなたと同じ気持ちよ。
「家督はランハートに譲り王都関連の仕事は彼に、私はその補佐になりレーアと共に領地を盛り上げたいと思います」
アベラルドは爵位を継がないつもりなのだろうと感じだしたのはいつ頃だっただろうか。ランハートも早い段階で気付いていたに違いない。
「構わないよ。王都の有象無象は僕と彼女に任せてよ」ランハートの隣でマリー嬢もうなずいている。良い笑顔だわ。
「相談の上での発言だろうが、君もそれで構わないのかい?」
ウィリアムス様はアベラルドの隣に座るレーア嬢の顔を見る。
「はい。王都で伯爵夫人など田舎育ちの男爵令嬢である私には荷が重いのです。
それに差し出がましいようですが伯爵領の産物など調べさせて頂きましたわ。私、元々商品開発などに興味がありましたの。色々案があり、今も試したくてウズウズしておりますわ」
ランハートとマリー嬢と違い、純粋に未来を見つめたその期待溢れんばかりの笑顔に、アベラルドが惹かれた理由が分かった気がした。確かに貴族らしからぬこのお嬢さんには王都より領地の方が合っているだろう。
「なんとなく、こうなる予感がしていたよ」
ウィリアムス様がそう呟きため息をついた。
研究所に入職しての研究者の未来、第2王子殿下の側近として王城で働く未来、辺境や公爵家に婿入りし当主となる未来、伯爵家当主としての未来、誰もが憧れるそれを蹴っての男爵令嬢との未来──次は二人で商会でも立ち上げそうね。
それとも全く想像のつかない何かが起こるのかしら。
アベラルドが10才の時に言い放った言葉を思い出す。
「僕の未来には無限の可能性が広っているんだ」
その時は言葉と共にとんでもないものを放ったアホな息子だったけど、
「まだだよ、母上。僕達の未来にはまだまだ無限の可能性が広がっているよ」
そう言って笑う彼につられ、これから訪れる未来を思って私も笑った。
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