【完結】洗脳令嬢は転生者ではない。

Debby

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前編

1

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 王宮の図書館で読書をしているルーナ・シトラス侯爵令嬢の手元に、影が射した。
 ルーナが顔を上げると金髪碧眼、ザ・王子様な風貌のプラム第一王子が不快そうに見下ろしていた。
 その隣にはこの度無事に彼の婚約者の座に収まった、ピーチ・レモネード公爵令嬢が立っていた。綿菓子を思わせるふわふわしたピンクブロンドの髪が可愛らしい、甘いのか酸っぱいのか分からない令嬢だ。
 そもそもルーナはレモネードという飲み物を飲んだことがないのでそれが酸っぱいのかもよく分からないが。

 王太子妃教育スケジュールの中で唯一心休まる時間を邪魔されたルーナは軽く眉根を寄せつぶやいた。 

「出たな、早口言葉コンビ」

「ん、なにか言ったか?」

「すももも ももも もものうち──」

「なんだそれは、何かの呪文か」

「いいえ。こちらの話ですわ」

 (バーカ。魔法の存在しないこの世界で呪文もクソもないでしょうが)

 ルーナは淑女らしからぬ自身の思考に小さく咳払いをするとニコリと笑った。
 ──もちろん作り笑いである。

「先日、私の婚約者が正式にピーチに決まったにも関わらず、何故まだお前が王宮に出入りしているのだ? 」
 ルーナを見下ろしたままプラム第一王子が口を開く。
  
 (は?この鳥頭、あんな盛大にやらかしといて何を言ってるの?国王や宰相達お偉いさんに目茶苦茶怒られてたじゃん。え?この人バカなの?あ、バカだったか)

  ルーナはプラチナブロンドとアメジストの瞳の美しい『深窓の令嬢』といった印象の見た目とはそぐわないことを思考していたが、口をついてでなかったことは褒めて欲しいと思った。

「なんだそのバカにしたような目は!不敬だぞ!!」 

 いや、目は口ほどに物を言う。口からは出なかったが顔に出ていた様である。
 憎々しげにルーナを睨むプラム第一王子のそれも、か弱い令嬢に向けるものではないと思ったが、ルーナは気にせずこの不毛なやり取りを続けることにした。

「二年前から私が『王太子妃』教育のために定期的に登城しておりますことをご存じでしょう。『第一王子殿下』 」

 席に座ったままため息をつく姿に、第一王子が眉間にしわを寄せる。
 ここは図書館とはいえ王宮内。警備の騎士が常駐しているし、司書や使用人も複数人いる。昼間は一般開放されているため貴族の出入りもある。
 しかも先日王立学園の卒業式も終わり、この三人と共に先日王立学園を卒業、また参列した貴族達が、王都を離れる前に王宮の豊富な蔵書を見納めようと──つまりかなり人目があるのだ。
 先程第一王子がルーナに声をかけた時点で警備の騎士が一人図書館を出ていったので、この場を収めてくれる誰かが来ることだろう。
 警備兵ではこの人を取り押さえられないのだから仕方がない。

 しかしその誰かが来る前にルーナは第一王子がように誘導しなければならない。
 さてどうしたものか──。

「これまでは次期王太子妃『候補』として教育を受けていたかも知れんが、この私の婚約者が公爵令嬢であるピーチに決まった今、そなたが王太子妃教育を受ける必要はなかろう」

 レモネード公爵令嬢を抱き寄せながらプラム第一王子がふんっと、鼻息荒くルーナを睨み付けた。

「それともまだ私のことが諦められないというのか?」と。

「きっしょ」

 ((はぁぁぁぁ???きっしょ!マジで気色悪い!!))

(私が殿下を?寝言は寝て言えよ!)

 少し心の声が漏れ出てしまったが、幸い意味は通じなかったようだ。
 ルーナは鳥肌が立つ腕をさすりながら、罵倒したくなるのを必死に耐えた。


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