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 それからしばらくしたある日、クレアは相談があるとアリスに放課後の中庭に呼び出された。
 放課後、生徒は馬車が到着するまでの間思い思いの場所で過ごす。学習したい者には図書館が、恋人とのひとときを過ごしたい者には温室が人気だ。そのため中庭には滅多に人は来ない。そういう場所でないとアリスはすぐに視線を集めてしまうため、ゆっくり話せないのである。

「お父様に相談したのですが──」
  男爵に相談してみたが、これは好都合とばかりに「もともと高位貴族と縁を結ぶために美しいお前を引き取って教育を施したのだ。その調子で誰か捕まえてこい」と、一蹴され、協力を得られなかったらしい。
 そうだった、アリスはその容姿で引き取られた男爵と愛人との間に生まれた令嬢だった。それが希少なギフト持ちかもしれないのであれば、利用価値はぐっと上がるのだ、クレアは残念に思ったが、現在の問題はそこではない。
 クレアはこれまでの人生のほとんどを平民として過ごしてきたであろうアリスに、他の令嬢の現状を伝える。
「この世界はお話の世界というわけではありません。この王国の貴族は学園にいる間に交流して将来の伴侶を見つけるというのが主流なのです。みなさんこれからの人生があってそれをこの3年間に賭けているのですわ。令息方の視線がこの先もアリスさんに向かうのであれば他の令嬢の婚期が遅れ、アリスさんに他意は無くとも悪意はアリスさんに向かってしまいます。それでなくとも最近のアリスさんの《ギフト》の力は男性に向かって発動されているようですもの 」

 そうなのだ。最近リリーから聞いた噂から察するにアリスの力が男性のみへ向き始めたようなのである。何故なのか不思議に思っていたが、男爵の言葉に影響を受けたのかもしれないとクレアは思った。
 そもそもクレアはアリスのことを“きれいな子”とは思うが、それ以上でもそれ以下とも思わないためよく分からないが、女性に対する《魅力》の効果が弱まっている様なのだ。それは女性からも魅力的に映っていたアリスが、そうではなくなると言うこと。みんな分別のある淑女であるため、直接的な悪意が直接アリスに向く訳ではないだろうが──。
 嫡男嫡女であれば爵位を継ぐが、親が複数爵位を持っていれば次男三男との結婚でも貴族でいられる可能性はある。爵位がない相手との結婚や、独身で通しても、文官や当主の補佐、侍女や女官として食べてはいけるが、これまで貴族として過ごしてきた令嬢たちの将来の職として、貴族の夫人と職業人ではどちらが良いかは一目瞭然である。伯爵家以上の令嬢であれば尚のことだ。  
 でもこうも考えられる。男爵の言葉で《魅力》効果が男性に向いたと言うことは、コントロール可能ということではないだろうか。でも肝心の方法が思いつかない。

「アリス様、申し訳ありません。《ギフト》はまだまだ未知のもの。前例もなく、これといった解決策が思い当たりませんわ。話を聞くくらいしか出来なくて──」
 クレアには何の《ギフト》なのかは分かるが、それ以上のことは分からない。クレアが自身の《ギフト》を“使えそうで全く使えない”と思っている一因がこれである。しかもアリスにとってはクレアのギフトを知らないため、《魅》のギフトがあるかもしれないというのは憶測でしかないのだ。クレアはとても申し訳なく思い、泣きそうになりながら頭を下げる。

「いいえ、いいえクレア様。私は母から引き離されて男爵家に引き取られてから、皆さんの視線を受けることはあっても、お話しすることの出来る人なんていなかったんです。だからクレア様とこうしてお話が出来て、それだけでとても心強くて、とてもうれしいんです。
 だからお礼を言わせてください。話を聞いてくれてありがとうございます」
 そう言ってにっこり笑ったアリスは、《魅力》の《ギフト》なんて関係なく、とても美しかった。
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