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3、紅茂/宴

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女子衆の尽力により、あたかも幾日も前から用意されていたかのような、見事な設えの宴が始まった。

信長様の右手には織田の御家来衆、左手には加治田衆が居並ぶ。
加治田衆はひとりひとり席を立ち、信長様の前に進み出て名を名乗ると、信長様と御家来衆に向けて頭を下げる。

加治田衆の最後方の治郎兵衛の声を襖の外から聞き届けると、取っ手に手を掛け襖を開き、広間の中に膝をにじり入れる。

頭を下げながら、織田の御家来衆の佇まいを探る。無骨で戦一辺倒な武者達の汗の匂いが、ここまで届く。さらの襦袢の香の香りは、直ぐさま打ち消された。



父上が御家来衆の一人に促されて立ち上がった。

「では一献」

言上するや、広間の面々の喉が鳴った。

私は頭を下げながら、自らの打掛をじっと見つめ、つい先ほどの母上とのやりとりを思い出していた。


湯あみを終え居室に戻った私を、母上が待ち構えていた。
枕絵の絵巻を手渡された上で、男女の睦み事の仔細をお話しになった。

「信長様は特にご気性が激しいと聞く。万が一にも御気分を損ねたら、そなたの身に関わるやもしれぬ。何につけても抗わず、ただ身をまかせるように」

普段通りの口調で仰る母上に、助けてたもれと、申し上げたい。
身を固くする私に母上は
「大丈夫じゃ」
と言って、私の手を取り握りしめた。
「これなる打掛は、私の輿入れの折に袖を通したものじゃ。急なことで格別な計らいはできなんだが、それでもなかなかのもの。どうかそなただけは、幸せになってほしい」

母上の目が潤んだ。

「…さ、疾く。お着替えと、化粧じゃ」


母上の打掛を見ていると、何故か、先ほどの姉さまの遺骸の経帷子が思い出された。
生き延びて、母上が輿入れの折にお召しになったという打掛に袖を通せる。それはなんと幸せなことか。
そう自らに言い聞かせるが、やはり悲しさと悔しさで、気は晴れない。
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