斎藤道三になれなかった男~さて、どこまでが史実で、どこまでが嘘か?~

黒坂 わかな

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第5章

転んでも、ただでは起きぬぞ元商人

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あまりに突然の知らせに、塩屋は唖然とした。

「なんと…敵は何者じゃ!」

「それが、加賀の…一向宗徒のようでして」

「なにい?なにゆえ、一向宗が帰雲城を攻める」

「わかりませぬ…。ただ、正論寺を取り戻したと、いたく喜んでいた様子」

塩屋は首を傾げた。加賀の一向宗徒に攻められる覚えなどない。

―正論寺…?そうじゃ、住職の後を継ぐはずであった次男が、加賀に逃げておったのじゃ…!

しかし、内ケ島は正論寺と争うていたはず…

塩屋は白川郷に、宇左衛門の弟である井右衛門をすぐに遣わした。


井右衛門の話によると、加賀に逃げていた住職の次男は、白川郷に戻りたいがために、

同じ一向宗の本願寺に仲介を頼んだのだという。

本願寺が間に入り、内ケ島の娘と次男が婚姻を結ぶことで、和睦がなった。

さらに、内ケ島は塩屋のことを「神仏を貶め、住職を死に追いやり、領地を奪った極悪人である」

と本願寺に説明し、一向宗徒の力を借りて成敗したい、と申し出た。


内ケ島にいた塩屋の軍勢は、半分近くが命を落とした。

落ち延びたものはこの猿倉城に向かっている最中だという。

「内ケ島め…!命を助けてやった恩を忘れおって…!加賀に金をかっさらわれるとは…」

塩屋は歯噛みした。

しかし、一向宗徒の恐ろしさを塩屋はよく知っていた。

一向宗徒は、大量の鉄砲を所有しているのである。

やむなく塩屋は内ケ島領を奪い返すのを諦め、越中の領土拡大に力を注ぐことに決めた。

だが、そこでも一向宗徒が立ちはだかった。

新たな城を攻める度に、今度は越中の一向一揆の勢力が立ちはだかってくる。

これには塩屋も頭を痛めた。


塩屋は、正論寺の床下に埋めた、蚕の糞のことを思い出した。

塩屋は井右衛門を呼び出した。

「井右衛門よ、此度大切な役目をぬしに与えたい。まだ白川郷がわが地であった頃、お主の兄、宇左衛門が、正論寺
の床下に穴を掘り、そこに、ある代物を埋めたのじゃ。その代物が糞のままか、それとも宝に変わっているか、わしもわからぬ。が、どうしても手に入れねばならぬ。行ってくれるか」

糞か宝か、と言われ、井右衛門は糞のために命を落とすなど適わぬ、と思ったが、

いや、兄さの埋めたものなら、きっと宝になっとるに違いない、と思い直した。

「へえ、必ずそのお宝を、持ち帰りますちゃ」


このとき塩屋は、上杉の配下になろう、と決めていた。

理由は3つある。

一つ目は、一向一揆勢力に対抗するため、

二つ目は、手に入れた領土を自分の領土であると認めてもらうため、

そして三つ目は、鉄砲を手に入れるためである。

このころ鉄砲は、名もない武将や商人が簡単に手に入れられる代物ではなかった。

井右衛門が取り戻しに行った代物が、糞か宝か試すためには、鉄砲が必要であった。


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