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3、大阪の柄杓
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「おい、子分」
「へい、親分」
「大阪で、金の柄杓を盗ってこい」
「柄杓?なんでそんなもんいるんです?」
「船幽霊の退治だ」
「船幽霊?」
「最近、瀬戸内海でちょくちょく出るらしい。退治したら礼は弾むって言いやがるんでな」
「それと柄杓が、どう関係するんです?」
「船幽霊はなあ、柄杓で水を汲んで、相手の船を沈めようとしやがる。底が抜けた柄杓を渡せば逃げていくっつう話だが、俺はそんな腰抜けじゃねえ。金の柄杓を持っていって、船幽霊をおびき出すっていう算段よ」
「ははあ。で、金の柄杓なんてあるんですか」
「おめえは何も知らねえなあ。大阪取引所のお偉いさんの部屋に、飾ってあるんだ」
「取引所って、株やら、なんやらの?」
「ああ、そうだ。昔、大阪の堂島に米市場があってな。昔はコメが銭みたいなもんだったからよう、そこでコメの取引をした。それが今の取引所のはじまりだ。ところが、当時の商人たちは、取引時間が終わっても白熱しちまって、なかなか帰ろうとしねえ。見かねた米市場の奉公人が、柄杓で水をまき散らして、さあ、帰った、帰った、って帰らせたって話よ」
「そりゃあ、年季ものだ。けど、それなら金じゃなく普通の柄杓じゃありやせんか」
「それがよ、不思議なことに、木の柄杓がいつのまにか光り出して、金ピカになったっていう噂でよ。まあ、日本経済を潤した賜物かもしれねえな」
「どうも、まゆつばものっぽいなあ」
「うるせえ、とにかく行きゃいいんだ」
「へいへい」
「親分、取ってきましたよ、金の柄杓」
「おお、でかした。なんだこりゃ、やけに軽いな、金メッキか。まあいい、さっそく今夜、海に出るぞ。子分、お前、舟を漕げ」
「あっしも行くんですか?いや、あっしは泳げねえんで。遠慮しときます」
「つべこべ言うない。俺だって泳げねえ。土左衛門になるなら道連れだ。そういや、海に出るならこれを持ってけって言ってたな。おい子分、この段ボール持って、とっとと舟に乗るぞ」
(ザザア・・・、ザザア・・・、)
「親分、なんだか気味が悪いですぜ。さっきから、冷たーい風が吹いてますし」
「へっ、肝っ玉の小さい奴め。ほら、もっと沖に出るぞ。俺は柄杓を持つから、お前はとっととオールを動かせ」
「ところで親分、何で海に来てまでほっかむりに風呂敷なんですか」
「土左衛門になった時に、身元が割れた方がいいだろうがよ」
「縁起でもねえ。あっ、親分、来ましたぜ!向こうから音がする!」
「金の柄杓を見て、やってきやがったな。しかし、ずいぶん音がうるせえな。今どきの幽霊はモーターボートに乗るのか」
「あっ、親分、揺れます揺れます、モーターボートの波に押されて、あっしらの舟が」
「あぶねえ!おい、その段ボール開けてみろ。何か助けになるかもしれねえ」
「へい・・・親分!これはフロートです」
「フロート?こんなときにそんなもん飲んだら、こぼれてびっちゃびちゃに」
「違いますよ、浮き輪です、浮き輪!今どきはフロートって言うんです」
「あっ、揺れる揺れる、急げ、早く息入れろ、ひっくり返るぞ」
「フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、」
「あーっ、水が入ってきた!」
「フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、」
「柄杓で水を掻き出してやれ・・・きりがねえなあ」
「親分、できやした、早くこれに乗って!!」
(フロートに飛び乗ると同時に、舟がひっくり返る)
「親分、危機一髪でしたね・・・」
「それはそうと、なんだ、この浮き輪は?でっかいアコヤガイか」
「ええ、こりゃ若いギャルがホテルのナイトプールでパシャパシャするやつです」
(パシャ)
「眩しいっ!なんだ、今の音は?」
「モーターボートからですかね?ところで親分、船幽霊の退治なんて、誰に頼まれたんです?」
「知り合いの週刊誌の記者だよ。・・・ん?モーターボートに乗ってるあいつが、そうだ」
「見出しは〝令和の大泥棒、ほっかむり姿でナイトプールパシャパシャ〟に決まりですね。大泥棒が記者にオタカラあげてどうすんですか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※大阪取引所に金の柄杓はありません。
<柄杓(ひしゃく)>
水や汁物を掬うための道具。柄がついた器状をしている。(Wikipediaより)
<船幽霊>
ひしゃくで水を汲みいれて船を沈没させるなどと信じられた幽霊。水難事故で他界した人の成れの果てといい、人間を自分たちの仲間に引き入れようとしているという[1]。その害を防ぐためには、握り飯を海に投げ入れたり、底の抜けたひしゃくを用意したりするなどの方法が伝えられている。(Wikipediaより)
<堂島米会所>
江戸時代の1730年9月24日、摂津国西成郡の大坂堂島に開設された米の取引所。当時大坂は全国の年貢米が集まるところで、米会所では米の所有権を示す米切手が売買されていた。ここでは、正米取引と帳合米取引が行われていたが、前者は現物取引、後者は先物取引である。敷銀という証拠金を積むだけで、差金決済による先物取引が可能であり、現代の基本的な先物市場の仕組みを備えた、世界初の整備された先物取引市場であった。(Wikipediaより抜粋)
<眉唾(まゆつば)>
(眉に唾を付ければ狐などに化かされないという言い伝えから)だまされないよう用心すること。<眉唾物>真偽の確かでないもの。信用できないもの。(共にgoo辞書より)
<土左衛門(どざえもん)>
水に浮いた水死体のことを「土左衛門(どざえもん)」と呼ぶのは江戸時代からの伝統である。水死体はいったん水底に沈み腐敗が始まるとガスを発生し、組織が水を吸ってぶよぶよになり、体が膨れ上がって真っ白に見えることがある。この様が、享保年間に色白で典型的なあんこ型体形(締まりのない肥満体)で有名だった大相撲力士、成瀬川土左衛門にそっくりだったことからこの名がついたという 。力士の四股名には伝統名として繰り返し襲名されるものが多いが、「土左衛門」はこの成瀬川の後は一度も襲名されることがなかった。昔から海運業、海洋土木、水産業、造船業等海にまつわる業界では、土左衛門を発見し陸に上げて供養することは縁起が良いこととされている。(Wikipediaより抜粋)
<アコヤガイ>
ウグイスガイ目ウグイスガイ科に分類される二枚貝の一種。真珠養殖に利用される「真珠母貝」の一つで、天然でも殻内に真珠を持つことがある。クロチョウガイやマベとともに「真珠貝」としてよく知られている。(Wikipediaより)
「へい、親分」
「大阪で、金の柄杓を盗ってこい」
「柄杓?なんでそんなもんいるんです?」
「船幽霊の退治だ」
「船幽霊?」
「最近、瀬戸内海でちょくちょく出るらしい。退治したら礼は弾むって言いやがるんでな」
「それと柄杓が、どう関係するんです?」
「船幽霊はなあ、柄杓で水を汲んで、相手の船を沈めようとしやがる。底が抜けた柄杓を渡せば逃げていくっつう話だが、俺はそんな腰抜けじゃねえ。金の柄杓を持っていって、船幽霊をおびき出すっていう算段よ」
「ははあ。で、金の柄杓なんてあるんですか」
「おめえは何も知らねえなあ。大阪取引所のお偉いさんの部屋に、飾ってあるんだ」
「取引所って、株やら、なんやらの?」
「ああ、そうだ。昔、大阪の堂島に米市場があってな。昔はコメが銭みたいなもんだったからよう、そこでコメの取引をした。それが今の取引所のはじまりだ。ところが、当時の商人たちは、取引時間が終わっても白熱しちまって、なかなか帰ろうとしねえ。見かねた米市場の奉公人が、柄杓で水をまき散らして、さあ、帰った、帰った、って帰らせたって話よ」
「そりゃあ、年季ものだ。けど、それなら金じゃなく普通の柄杓じゃありやせんか」
「それがよ、不思議なことに、木の柄杓がいつのまにか光り出して、金ピカになったっていう噂でよ。まあ、日本経済を潤した賜物かもしれねえな」
「どうも、まゆつばものっぽいなあ」
「うるせえ、とにかく行きゃいいんだ」
「へいへい」
「親分、取ってきましたよ、金の柄杓」
「おお、でかした。なんだこりゃ、やけに軽いな、金メッキか。まあいい、さっそく今夜、海に出るぞ。子分、お前、舟を漕げ」
「あっしも行くんですか?いや、あっしは泳げねえんで。遠慮しときます」
「つべこべ言うない。俺だって泳げねえ。土左衛門になるなら道連れだ。そういや、海に出るならこれを持ってけって言ってたな。おい子分、この段ボール持って、とっとと舟に乗るぞ」
(ザザア・・・、ザザア・・・、)
「親分、なんだか気味が悪いですぜ。さっきから、冷たーい風が吹いてますし」
「へっ、肝っ玉の小さい奴め。ほら、もっと沖に出るぞ。俺は柄杓を持つから、お前はとっととオールを動かせ」
「ところで親分、何で海に来てまでほっかむりに風呂敷なんですか」
「土左衛門になった時に、身元が割れた方がいいだろうがよ」
「縁起でもねえ。あっ、親分、来ましたぜ!向こうから音がする!」
「金の柄杓を見て、やってきやがったな。しかし、ずいぶん音がうるせえな。今どきの幽霊はモーターボートに乗るのか」
「あっ、親分、揺れます揺れます、モーターボートの波に押されて、あっしらの舟が」
「あぶねえ!おい、その段ボール開けてみろ。何か助けになるかもしれねえ」
「へい・・・親分!これはフロートです」
「フロート?こんなときにそんなもん飲んだら、こぼれてびっちゃびちゃに」
「違いますよ、浮き輪です、浮き輪!今どきはフロートって言うんです」
「あっ、揺れる揺れる、急げ、早く息入れろ、ひっくり返るぞ」
「フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、」
「あーっ、水が入ってきた!」
「フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、フーッ、」
「柄杓で水を掻き出してやれ・・・きりがねえなあ」
「親分、できやした、早くこれに乗って!!」
(フロートに飛び乗ると同時に、舟がひっくり返る)
「親分、危機一髪でしたね・・・」
「それはそうと、なんだ、この浮き輪は?でっかいアコヤガイか」
「ええ、こりゃ若いギャルがホテルのナイトプールでパシャパシャするやつです」
(パシャ)
「眩しいっ!なんだ、今の音は?」
「モーターボートからですかね?ところで親分、船幽霊の退治なんて、誰に頼まれたんです?」
「知り合いの週刊誌の記者だよ。・・・ん?モーターボートに乗ってるあいつが、そうだ」
「見出しは〝令和の大泥棒、ほっかむり姿でナイトプールパシャパシャ〟に決まりですね。大泥棒が記者にオタカラあげてどうすんですか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
※大阪取引所に金の柄杓はありません。
<柄杓(ひしゃく)>
水や汁物を掬うための道具。柄がついた器状をしている。(Wikipediaより)
<船幽霊>
ひしゃくで水を汲みいれて船を沈没させるなどと信じられた幽霊。水難事故で他界した人の成れの果てといい、人間を自分たちの仲間に引き入れようとしているという[1]。その害を防ぐためには、握り飯を海に投げ入れたり、底の抜けたひしゃくを用意したりするなどの方法が伝えられている。(Wikipediaより)
<堂島米会所>
江戸時代の1730年9月24日、摂津国西成郡の大坂堂島に開設された米の取引所。当時大坂は全国の年貢米が集まるところで、米会所では米の所有権を示す米切手が売買されていた。ここでは、正米取引と帳合米取引が行われていたが、前者は現物取引、後者は先物取引である。敷銀という証拠金を積むだけで、差金決済による先物取引が可能であり、現代の基本的な先物市場の仕組みを備えた、世界初の整備された先物取引市場であった。(Wikipediaより抜粋)
<眉唾(まゆつば)>
(眉に唾を付ければ狐などに化かされないという言い伝えから)だまされないよう用心すること。<眉唾物>真偽の確かでないもの。信用できないもの。(共にgoo辞書より)
<土左衛門(どざえもん)>
水に浮いた水死体のことを「土左衛門(どざえもん)」と呼ぶのは江戸時代からの伝統である。水死体はいったん水底に沈み腐敗が始まるとガスを発生し、組織が水を吸ってぶよぶよになり、体が膨れ上がって真っ白に見えることがある。この様が、享保年間に色白で典型的なあんこ型体形(締まりのない肥満体)で有名だった大相撲力士、成瀬川土左衛門にそっくりだったことからこの名がついたという 。力士の四股名には伝統名として繰り返し襲名されるものが多いが、「土左衛門」はこの成瀬川の後は一度も襲名されることがなかった。昔から海運業、海洋土木、水産業、造船業等海にまつわる業界では、土左衛門を発見し陸に上げて供養することは縁起が良いこととされている。(Wikipediaより抜粋)
<アコヤガイ>
ウグイスガイ目ウグイスガイ科に分類される二枚貝の一種。真珠養殖に利用される「真珠母貝」の一つで、天然でも殻内に真珠を持つことがある。クロチョウガイやマベとともに「真珠貝」としてよく知られている。(Wikipediaより)
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