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30. 嵐を呼ぶ講演会⑬ 『無限刃vs拳神』
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総務省付き特別監察官・柊木真琴。
颯爽としたパンツスーツに身を包んだ体は小柄で、少年のようにも見える中性的な顔立ちは年齢不詳の童顔だが、こう見えて省内でも数少ない“上級国家公務員”の肩書きを持つ女性である。
その顔には常に無邪気そうな笑みを貼り付けているが、彼女の本質がそれとは真逆の“苛烈”そのものであることを、私はすでに自らの身を持って知っていた。
柊木監察官は、私が異能組織に合流する直前に起こった襲撃事件(※総務省と異能組織、双方の合意で表立っては事件化していない)で、思いがけない異能を使った激しい戦闘になり、大苦戦の末に何とか打ち負かしたという、お互いにとって因縁の相手であった。
(あの時───確かに軽くはないダメージを与えたはずだけど、回復する時間は十分にあった、ということね───)
(それにしても───なぜ、柊木監察官がこのタイミングでここに───?)
私の心情を読み取ったわけではないだろうが、柊木監察官は分体の私たちに目を向けて明るく言った。
「やぁやぁ、そこにおられるのは愛しの牧野主任じゃあ、ありませんか!その後、息災でいらっしゃいましたかぁ?
───あ、ボクですかぁ?こちらは大変でしたよぉ、あの時牧野主任に棒で殴られたアバラと顎の骨にヒビは入るは、かち割られそうになった頭もしばらく痛むわで、散々でしたけどねぇ♪
───ま、それもただただ、とんでもなくお強い貴女に負けたこの弱いボクが、間違いなく、全面的に悪いんですけどねぇ♪」
「─────」
柊木監察官の壮大な嫌味に何も言えず私は押し黙ったが、虚を突かれた形で止まっていた堂神が、上空に大量の刀剣を待機させながら代わりに口を開いた。
「どこから湧わいてきたかは知らんが───お前は何者だ?この女たちの関係者か?」
腰に手を当てながら、柊木監察官はゆっくりと堂神の方を向いた。
「ん~~~~~、関係者ぁ?」
彼女は首を捻って不思議そうな顔をした。
「まぁ、そう言われれば関係者とも言えなくはないんだろうけどね。
でもはっきりと立場を明確にさせてもらうと───彼女から見て、敵だよボクは♪」
(───それはそうでしょうね)
私は心の中で独りごちた。
私とこの柊木監察官は、文字通りの『死闘』を演じた間柄である。
あの時は運良く私が勝てたが、もし再戦しても勝てる自信はまったくない。私がそう思うほどに、柊木監察官は童顔の見た目からは想像もつかないほどの強力な力を持った異能者であり、眼前の堂神とはある意味で同種の“化物”なのだった。
その堂神は、彼女をどう感じ取っただろうか?
闖入者である柊木監察官が牧野の敵であるなら、同じく敵である堂神にとっても、共闘の選択肢も含めて自分にとって何らかの利する存在だと思わなくもないはずだが───
「───そうか」
堂神は少しだけ考える素振りをしたが、すぐに口元を緩め、何かを決断した顔で宣言した。
「決めた。
うちの大将からお前みたいな異分子の話は何も聞いてないんでな───排除対象にさせてもらうぞ、気の毒だが早々に退場してもらおうか!」
頭上に待機させている大量の刀剣が、ギラリと光る。無機質な金属の塊たちが、一瞬、まるで飢えた猟犬のように見えたのは私の錯覚か───。
堂神の宣言にも柊木監察官はまったく怯むことなく、むしろ楽しそうに破顔した。
「あは♪気が合うじゃあないか!牧野主任の敵とは名乗ったもののさ───ボクの方もね、実はお前を排除するために此処に来たようなものなんだよ、堂神蓮司くん♪」
「────!」
なぜオレの名を、という表情で堂神が驚く。そのわずかな隙を見逃さず、柊木監察官は機先を制した。
「牧野主任との再戦前に相手をしてあげるよ♪
このボクの───《拳撃》がね♪」
言い終わると同時に柊木監察官の背後から二本の太い腕が出現した!
丸太のような隆々とした筋肉、そしてボロ布をボクシングのバンテージのように拳にまとい、その上からは無骨に光る金属製のベアーナックルのようなもので武装され、腕だけではあるがその姿はまさに古代ギリシャの闘技場から現れた拳闘士そのものだ。
その極太の双腕を従え、柊木監察官が堂神に向かう!
「なんだァ、それは───!?ちぃッ!!!」
初めて《拳撃》を目にした堂神は一瞬面食らったが、元々上空に待機させていた刀剣群ですぐに迎撃に出た!
ゴォッ!という音をたて、凄まじい勢いで向かってくる数十本にも及ぶ刀剣を、柊木監察官も《拳撃》で迎え撃つ!
「ソラァッ!!!」
柊木監察官の雄叫びとともに、彼女の《拳撃パンチアウト》が刀剣の雨を文字通り、その拳で薙ぎ払った!
数本の刀剣が、《拳撃》による横殴り気味の一撃に折れ曲がって床にバラバラと散らばる。しかしすぐに第二陣、第三陣の群れが殺到し、《拳撃》ごと柊木監察官を押し潰さんと、刀剣が雨霰のように降り注いだ!
柊木監察官は足を止め、大きく息を吸い込んで《拳撃》の動きを加速させる!
「ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラ、ソラァァァッ!!!」
「むぅっ!?」
思わず堂神が唸る。
無理もない。
柊木監察官の操る《拳撃》は、殺到する数え切れないほどの刀剣を剛腕の連打でその全てを叩き落としているのだが、打ち漏らしはただの一本もなく、しかも弾く角度すら計算に入れているのか、胸の前で堂々と腕を組んだ本体には ❝かすり傷❞ 一つ負わせることもない。
「ふん、やるな!しかし、これならどうだ?」
オーケストラを指揮する指揮者のように、堂神は腕をキビキビと振るって刀剣を統率し、柊木監察官への攻撃に厚みをつける。
ほぼ正面方向一辺倒だった刀剣の突撃に、今度は左右・背後の死角までを網羅した全方面攻撃に切り替えたのだ!
「これでも捌ききれるか?」
堂神が勝ち誇るように笑うのと同時に、柊木監察官も不敵に嗤う。
「はっ♪このボクを見くびってもらっちゃあ、困るね!
ソラァッ!!!」
柊木監察官の雄叫びと共に、背中に従えた剛腕が高速で回転を始めた!
その勢いのまま、全方面から迫る刀剣を叩き落としにかかる!
「ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラ、ソラァァッッッ!!!」
(何という……!)
私たち・は魅入られたように、柊木監察官が《拳撃》で蝗の大群のごとき刀剣たちを超高速で叩き落とす光景を眺めていた。
破天荒な言動・性格とは裏腹に、彼女の異能の動作は機械のように精密そのもので、回転しながら超高速で拳打を繰り出しつつ、ただの一本も自らの本体に寄せつけない。床には叩き落とされ、へし曲がったり半ば砕かれた刀剣が機関銃の排出された薬莢のように散らばり続けるが、時間の経過とともにそれも消滅を繰り返す。
刀剣が豪雨のように激しく降り注ぐ中、《拳撃》でそれを捌きながら柊木監察官は涼しい顔で言った。
「ん~~~♪どうした、どうした~???
この程度じゃあ、ボクにしたら小雨みたいなもんだぞぉ?それとも───ひょとしてさ、これが裏社会で《凶刃》と恐れられる男の全力なのかぃ?」
柊木監察官の挑発に、堂神の動きが止まった。一時的に、刀剣の大群も時が止まったかのように宙でその動きをピタリと止める。
こんな張り詰めた状況の中で、柊木監察官はニンマリと破顔した。
「おッ♪ついに怒ったのかぃ?
───いいぜ、そろそろ全力で向かって来なよ♪こっちはそれをさらに上回ってあげるからさぁッ♪」
柊木監察官は《拳撃》の片方の腕を使い、人差し指で ❝おいでおいで❞ のポーズをする。
傍目には見え見えの挑発だが───堂神はどう受け止めただろうか?
その答えは、すぐに出た。
額に血管を浮かべ、ギラついた瞳には明確な怒気と殺意が浮かんでいた。
「調子に、乗るなァァッッ!」
堂神は創出させていた刀剣たちを全て消し、新たに違うモノを頭上に浮かべた!
(あれは───!?)
それは、私が見たこともない巨大な剣だった。
西洋の両手剣とは明らかに異なり、反りのある独特な刀身は厚みがある上に、先端に向かうほど鋭利な形状をしている。私の位置からは距離があるのではっきりとは視認できないが、刀身には文字ともデザインとも判別できない未知の紋様が描かれているように見える。
さすがの柊木監察官も軽口をやめ、異形の剣の出現に目を見張った。
「───おいおい、こいつはさすがに聞いてないよぉ!?
それってさ、もしかして伝説級の───いや、それ以上の神具だったりするんじゃないのぉ?」
今度は堂神が笑う番だった。
「ほほぅ、なかなかお目が高いな。
御明答だよ、こいつの名は ❝アンサラー❞。正直言ってお前ごときに使うには勿体ないほどの代物だが、さっさっと決着をつけるにはもってこいの逸品モノだ」
(アンサラー?───まさか!?)
堂神が口にした武具の名前から、私の脳裏に一つの記憶が思い当たる。もしそれが正しければ、今出現したこの武具は確かにとんでもない代物になるが───。
柊木監察官もそれに気づいたかは不明だが、彼女は不敵な表情に戻って口を開いた。
「───それはそれは、わざわざ光栄だね♪
でも、そう侮ってくれないでおくれよ?ひょっとして、御自慢のそいつでもこのボクの《拳撃》には通用しないかもしれないぜ?」
堂神が大笑する。
「はーーーーーはっはっはっはっ!!!
面白い冗談だな、マジで片腹痛いぜ!───お前、芸人になれる才能があるんじゃないか?」
「そうかぃ?
キミの方こそ、道化の才能があるんじゃないかい?大口をたたいておいて、最後にはこのボクに叩きのめされるんだからね♪」
「ふん、口だけは達者だな。だがこれ以上は付き合いきれんぜ、そろそろ終わりにしてやる」
「そいつに関しては同感だね♪───さぁ、とっとっと来な♪」
返事の代わりに堂神は右腕を鋭く振り下ろし、大剣を柊木監察官に向けて射出させた!
柊木監察官は自信に満ちた顔だが───成り行き上、この二人の化物たちの激闘を見守るしかない私の方には、不安が膨らみつつあった。
❝アンサラー❞
記憶が確かなら───それは神の時代に登場する武器の別名で、その真名は ❝フラガラッハ❞ という名の神造の魔剣だったはずではないか?
その特性は────、
どんな頑強な鎧をも切り裂き、鞘から自ら飛び出して敵を打ち倒してくるという無双級のものだったはず。
その『神代の魔剣』と『古代の拳闘士の拳』とが、今まさに激突の時を迎えようとしていた。
颯爽としたパンツスーツに身を包んだ体は小柄で、少年のようにも見える中性的な顔立ちは年齢不詳の童顔だが、こう見えて省内でも数少ない“上級国家公務員”の肩書きを持つ女性である。
その顔には常に無邪気そうな笑みを貼り付けているが、彼女の本質がそれとは真逆の“苛烈”そのものであることを、私はすでに自らの身を持って知っていた。
柊木監察官は、私が異能組織に合流する直前に起こった襲撃事件(※総務省と異能組織、双方の合意で表立っては事件化していない)で、思いがけない異能を使った激しい戦闘になり、大苦戦の末に何とか打ち負かしたという、お互いにとって因縁の相手であった。
(あの時───確かに軽くはないダメージを与えたはずだけど、回復する時間は十分にあった、ということね───)
(それにしても───なぜ、柊木監察官がこのタイミングでここに───?)
私の心情を読み取ったわけではないだろうが、柊木監察官は分体の私たちに目を向けて明るく言った。
「やぁやぁ、そこにおられるのは愛しの牧野主任じゃあ、ありませんか!その後、息災でいらっしゃいましたかぁ?
───あ、ボクですかぁ?こちらは大変でしたよぉ、あの時牧野主任に棒で殴られたアバラと顎の骨にヒビは入るは、かち割られそうになった頭もしばらく痛むわで、散々でしたけどねぇ♪
───ま、それもただただ、とんでもなくお強い貴女に負けたこの弱いボクが、間違いなく、全面的に悪いんですけどねぇ♪」
「─────」
柊木監察官の壮大な嫌味に何も言えず私は押し黙ったが、虚を突かれた形で止まっていた堂神が、上空に大量の刀剣を待機させながら代わりに口を開いた。
「どこから湧わいてきたかは知らんが───お前は何者だ?この女たちの関係者か?」
腰に手を当てながら、柊木監察官はゆっくりと堂神の方を向いた。
「ん~~~~~、関係者ぁ?」
彼女は首を捻って不思議そうな顔をした。
「まぁ、そう言われれば関係者とも言えなくはないんだろうけどね。
でもはっきりと立場を明確にさせてもらうと───彼女から見て、敵だよボクは♪」
(───それはそうでしょうね)
私は心の中で独りごちた。
私とこの柊木監察官は、文字通りの『死闘』を演じた間柄である。
あの時は運良く私が勝てたが、もし再戦しても勝てる自信はまったくない。私がそう思うほどに、柊木監察官は童顔の見た目からは想像もつかないほどの強力な力を持った異能者であり、眼前の堂神とはある意味で同種の“化物”なのだった。
その堂神は、彼女をどう感じ取っただろうか?
闖入者である柊木監察官が牧野の敵であるなら、同じく敵である堂神にとっても、共闘の選択肢も含めて自分にとって何らかの利する存在だと思わなくもないはずだが───
「───そうか」
堂神は少しだけ考える素振りをしたが、すぐに口元を緩め、何かを決断した顔で宣言した。
「決めた。
うちの大将からお前みたいな異分子の話は何も聞いてないんでな───排除対象にさせてもらうぞ、気の毒だが早々に退場してもらおうか!」
頭上に待機させている大量の刀剣が、ギラリと光る。無機質な金属の塊たちが、一瞬、まるで飢えた猟犬のように見えたのは私の錯覚か───。
堂神の宣言にも柊木監察官はまったく怯むことなく、むしろ楽しそうに破顔した。
「あは♪気が合うじゃあないか!牧野主任の敵とは名乗ったもののさ───ボクの方もね、実はお前を排除するために此処に来たようなものなんだよ、堂神蓮司くん♪」
「────!」
なぜオレの名を、という表情で堂神が驚く。そのわずかな隙を見逃さず、柊木監察官は機先を制した。
「牧野主任との再戦前に相手をしてあげるよ♪
このボクの───《拳撃》がね♪」
言い終わると同時に柊木監察官の背後から二本の太い腕が出現した!
丸太のような隆々とした筋肉、そしてボロ布をボクシングのバンテージのように拳にまとい、その上からは無骨に光る金属製のベアーナックルのようなもので武装され、腕だけではあるがその姿はまさに古代ギリシャの闘技場から現れた拳闘士そのものだ。
その極太の双腕を従え、柊木監察官が堂神に向かう!
「なんだァ、それは───!?ちぃッ!!!」
初めて《拳撃》を目にした堂神は一瞬面食らったが、元々上空に待機させていた刀剣群ですぐに迎撃に出た!
ゴォッ!という音をたて、凄まじい勢いで向かってくる数十本にも及ぶ刀剣を、柊木監察官も《拳撃》で迎え撃つ!
「ソラァッ!!!」
柊木監察官の雄叫びとともに、彼女の《拳撃パンチアウト》が刀剣の雨を文字通り、その拳で薙ぎ払った!
数本の刀剣が、《拳撃》による横殴り気味の一撃に折れ曲がって床にバラバラと散らばる。しかしすぐに第二陣、第三陣の群れが殺到し、《拳撃》ごと柊木監察官を押し潰さんと、刀剣が雨霰のように降り注いだ!
柊木監察官は足を止め、大きく息を吸い込んで《拳撃》の動きを加速させる!
「ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラ、ソラァァァッ!!!」
「むぅっ!?」
思わず堂神が唸る。
無理もない。
柊木監察官の操る《拳撃》は、殺到する数え切れないほどの刀剣を剛腕の連打でその全てを叩き落としているのだが、打ち漏らしはただの一本もなく、しかも弾く角度すら計算に入れているのか、胸の前で堂々と腕を組んだ本体には ❝かすり傷❞ 一つ負わせることもない。
「ふん、やるな!しかし、これならどうだ?」
オーケストラを指揮する指揮者のように、堂神は腕をキビキビと振るって刀剣を統率し、柊木監察官への攻撃に厚みをつける。
ほぼ正面方向一辺倒だった刀剣の突撃に、今度は左右・背後の死角までを網羅した全方面攻撃に切り替えたのだ!
「これでも捌ききれるか?」
堂神が勝ち誇るように笑うのと同時に、柊木監察官も不敵に嗤う。
「はっ♪このボクを見くびってもらっちゃあ、困るね!
ソラァッ!!!」
柊木監察官の雄叫びと共に、背中に従えた剛腕が高速で回転を始めた!
その勢いのまま、全方面から迫る刀剣を叩き落としにかかる!
「ソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラソラ、ソラァァッッッ!!!」
(何という……!)
私たち・は魅入られたように、柊木監察官が《拳撃》で蝗の大群のごとき刀剣たちを超高速で叩き落とす光景を眺めていた。
破天荒な言動・性格とは裏腹に、彼女の異能の動作は機械のように精密そのもので、回転しながら超高速で拳打を繰り出しつつ、ただの一本も自らの本体に寄せつけない。床には叩き落とされ、へし曲がったり半ば砕かれた刀剣が機関銃の排出された薬莢のように散らばり続けるが、時間の経過とともにそれも消滅を繰り返す。
刀剣が豪雨のように激しく降り注ぐ中、《拳撃》でそれを捌きながら柊木監察官は涼しい顔で言った。
「ん~~~♪どうした、どうした~???
この程度じゃあ、ボクにしたら小雨みたいなもんだぞぉ?それとも───ひょとしてさ、これが裏社会で《凶刃》と恐れられる男の全力なのかぃ?」
柊木監察官の挑発に、堂神の動きが止まった。一時的に、刀剣の大群も時が止まったかのように宙でその動きをピタリと止める。
こんな張り詰めた状況の中で、柊木監察官はニンマリと破顔した。
「おッ♪ついに怒ったのかぃ?
───いいぜ、そろそろ全力で向かって来なよ♪こっちはそれをさらに上回ってあげるからさぁッ♪」
柊木監察官は《拳撃》の片方の腕を使い、人差し指で ❝おいでおいで❞ のポーズをする。
傍目には見え見えの挑発だが───堂神はどう受け止めただろうか?
その答えは、すぐに出た。
額に血管を浮かべ、ギラついた瞳には明確な怒気と殺意が浮かんでいた。
「調子に、乗るなァァッッ!」
堂神は創出させていた刀剣たちを全て消し、新たに違うモノを頭上に浮かべた!
(あれは───!?)
それは、私が見たこともない巨大な剣だった。
西洋の両手剣とは明らかに異なり、反りのある独特な刀身は厚みがある上に、先端に向かうほど鋭利な形状をしている。私の位置からは距離があるのではっきりとは視認できないが、刀身には文字ともデザインとも判別できない未知の紋様が描かれているように見える。
さすがの柊木監察官も軽口をやめ、異形の剣の出現に目を見張った。
「───おいおい、こいつはさすがに聞いてないよぉ!?
それってさ、もしかして伝説級の───いや、それ以上の神具だったりするんじゃないのぉ?」
今度は堂神が笑う番だった。
「ほほぅ、なかなかお目が高いな。
御明答だよ、こいつの名は ❝アンサラー❞。正直言ってお前ごときに使うには勿体ないほどの代物だが、さっさっと決着をつけるにはもってこいの逸品モノだ」
(アンサラー?───まさか!?)
堂神が口にした武具の名前から、私の脳裏に一つの記憶が思い当たる。もしそれが正しければ、今出現したこの武具は確かにとんでもない代物になるが───。
柊木監察官もそれに気づいたかは不明だが、彼女は不敵な表情に戻って口を開いた。
「───それはそれは、わざわざ光栄だね♪
でも、そう侮ってくれないでおくれよ?ひょっとして、御自慢のそいつでもこのボクの《拳撃》には通用しないかもしれないぜ?」
堂神が大笑する。
「はーーーーーはっはっはっはっ!!!
面白い冗談だな、マジで片腹痛いぜ!───お前、芸人になれる才能があるんじゃないか?」
「そうかぃ?
キミの方こそ、道化の才能があるんじゃないかい?大口をたたいておいて、最後にはこのボクに叩きのめされるんだからね♪」
「ふん、口だけは達者だな。だがこれ以上は付き合いきれんぜ、そろそろ終わりにしてやる」
「そいつに関しては同感だね♪───さぁ、とっとっと来な♪」
返事の代わりに堂神は右腕を鋭く振り下ろし、大剣を柊木監察官に向けて射出させた!
柊木監察官は自信に満ちた顔だが───成り行き上、この二人の化物たちの激闘を見守るしかない私の方には、不安が膨らみつつあった。
❝アンサラー❞
記憶が確かなら───それは神の時代に登場する武器の別名で、その真名は ❝フラガラッハ❞ という名の神造の魔剣だったはずではないか?
その特性は────、
どんな頑強な鎧をも切り裂き、鞘から自ら飛び出して敵を打ち倒してくるという無双級のものだったはず。
その『神代の魔剣』と『古代の拳闘士の拳』とが、今まさに激突の時を迎えようとしていた。
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