孤高の皇帝は唯一欲した

マロン株式

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少女は少年を見ていた

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こうしてその少年と少女は、国境を超えて部族の国、アウステル皇国に到着する。


アウステル皇国の片田舎で、少年は何かを待っているようだった。
災害に見舞われたばかりの田舎村を復興するため、少年は人々に呼びかけた。

初めは陰ながら1人の人間に助言をしていたが、1ヶ月もしないうちに表に顔を出して指揮をしている。

実はアウステルは戦闘民族が領土ごとに存在しており、この片田舎にいる人々も紛う事なき戦闘民族だった。

けれども、少年はそれをあっという間に従えるようになる。

気付けば1年が経とうとしていた頃

ある日使者が訪れた。


その使者は、少年に残酷な事実を告げる。

「父上と…母上が。
レヴィウス、ケトラー、ミルデン…皆処刑された…?

残された子供は…病死だと??」


内容はあまりにも残酷で、耳を塞ぎたくなるものばかり。

少年がこれ程に動揺しているのを、少女は初めて見た。


使者は言った。

「ー…今から貴方は、フロイス皇国 第15代皇帝となられます。」

「はっ…
何が皇帝なものか、皆がわたしを亡き者にせんと血なまこになって探しているのだろう。
これ程に滑稽な話があるか?

ぁあ…ーこうなっては仕方ない。

わたしは此処で誇り高く死のう。

わたしの死体は火葬して、跡形も残すな。

わたしの首を、あの者らに渡すものか。」


少女も使者も、少年の痛々しい姿で、その苦しみを想像出来ない訳がなかった。
強く生きろと、これ以上この世に止めるほど、残酷な事は無いのではないかと思うほどに。

でも、少女は何とか頭を働かせて、少年が生きる理由を探した。生きて欲しかった。

「悔しくないの?」

「??」

「貴方は、悪とされて、彼等は正義だったと歴史に名を残す。
そんなの、悔しくないの?」

少年はこの少女が何を言おうとしているのか分からなかった。

悔しいと言っても、どうにもならないからだ。

「私は悔しい。私は嫌よ。」


少年の心の叫びを代弁する声に、目尻が赤くなる。

「……。」

「貴方は名君になるべきなのよ。
一族の尊厳をこのまま貶めないために。

だから、貴方のみが生かされている。」


少女は使者の方をチラリと見て、援護を促す視線を向けた。使者もまた、傾いた王家に終始仕えようと忠誠を果たしてくれた者。
少年を生かしたい筈だからだ。

意図を汲み取り、使者は口を開いた。

「皇太子…いえ、皇帝陛下

先代皇帝陛下の遺言が御座います。」


「何?」


使者は膝をついて、伏して答える。


「『レイシス、おまえには誰よりも天賦の才がある。
だから、おまえに全てを託す。

他国に侵略されないよう民を守りなさい。

新しい時代の幕開けに、革命はいつか起こり得ただろう。
民を恨んではならない。

守るのだ。
それが皇帝に産まれた者の義務であり、勤めである。
一度滅びた体制を、おまえの思う新しい方法で立て直し一族の誇りも、国の誇りも守ってくれないか。

レイシスにはそれが出来る。』


14代皇帝はそう言い残されました。」


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