【完結】年下王子のお嫁様 

マロン株式

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お嫁様は(元?)運命の人と出会いを果たす2

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 私が驚いて固まっている間に、辺境伯は私の背景にある窓の外の光景を見て何かを悟ってくれたようだった。

 何食わぬ顔で、話題をふってくれた。

「マーガレット妃殿下、実はここの庭園は広いんです。自慢は薔薇園ですが、薔薇園の反対側にある花も綺麗ですよ。

そちらの方は薔薇園よりも人気がなくて、ゆっくり花を愛でられます。」

「え…?と、辺境伯様は、此処の庭園に詳しいのですか?」

「あ…誤解しないでください!別に人気のない場所に誘いこもうとか、怪しいあれではありませんよ!
あの、妃殿下もたまにはお一人でのんびり出来たらと…。」

  汗を飛ばしながら、しまったと言う顔で頬を赤くして頭をかく姿に、思わず笑ってしまいそうになった。

「怪しいなどと思ってませんよ。宰相は信用した人しか庭園に行く権利を与えない方ですから。
 辺境伯様も今から庭園に行くところだったのですか?」

「そうなんです。実は、友人の娘を探していて…。」
「ご友人の?まぁ、逸れてしまったのですか?
私もご一緒に探しましょうか?」

「ぁあ、いや…もう居場所はわかったので…。」
「?…あ…」

 分かりやすく困ったような面持ちになったのを見てピンときてしまった。王子の横にいた令嬢だ。

「あの…もし、良かったら。探していた御令嬢の名前を教えてくださいませんか?」
 

 これは小説の進行状況の確認。
 知っていたら心の準備が出来る。小説で王子が心を決めたシーンなら、近々私に話をしてくる。
 前もって知っていれば、余計な感傷などは見せず、笑顔で小説のマーガレットのように振る舞えるよう覚悟をしておける。



「モントリア伯爵の令嬢なんですが、どうもさっき様子がおかしかった気がしたもので…。」

 モントリア伯爵令嬢。間違いない、やはり彼女はユリシア・モントリア。
 この恋愛小説のヒロイン。





「!妃殿下、どうしました!?」

 「あ…」

 ホロホロと瞳から溢れる滴に、今度は自分が泣いているのだとちゃんとわかった。
 辺境伯が、かなり慌てている様子がわかる。
 凄く困っている。ちゃんと止めないと、止めないとって思うのに余計とまらない。

 何故?
 私はただ、子離れされていく感傷に浸っているだけなのに。
 その筈なのに。

 
 昨日も、一昨日も、欠かす事なく毎日囁かれてきた声が、指先が、温もりが。
 思い出すとこんなに苦しい。





「ー…妃殿下は、本気で殿下に恋をしているのですね。」

 辺境伯がポツリと呟いて、切な気に眉を寄せた。

「え?」

「別のご令嬢と一緒にいるところを見て、そのようにお辛そうにされる程、殿下を恋い慕っているのですね。」

   私が、殿下に恋を…?
 マーガレット人畜無害の障害物である私が?

「…そんな筈はありません。私がそんな…王子が幼い時に母を亡くされていたので、母のように、姉のように可愛がってきたものですから。

 殿下の成長が垣間見えて、その…寂しくて泣いているのですわ。」

「ー・。妃殿下、貴方様は本当に美しい方です。

前に、わたしが貴方様を目にした時。 
貴方様は殿下を無償の愛情で庇護しているかのような眼差しをしていました。
まるで見返りを求めず、ただ目の前にある小さな命を、大きな重圧から守ろうとしている幻想的な姿に、心が震えました。」


 社交界ではなく、別の何処かで見かけたと言うような口振り。

 ハンカチを両手で握りしめながらキョトンとした顔をしているマーガレットに、辺境伯は眉尻を下げて人懐っこい笑みを浮かべた。

「…ー。」

「妃殿下、わたしはそんな貴方様が、貴方様自身の幸せを見つけて微笑む姿が見たいのです。
だからもし、に居るのなら、失う前にご自身の心のままに求めてください。」


〝それが許される立場にいるのなら〟

 その言葉の重みが、わからない訳がなかった。私はまだ、王子の妃。王子に恋をしたとして何の咎があるだろう。王子に愛を囁いても問題のない立場。

 だけど離縁してしまえば、それは、たちまち秘めていなくてはならない想いになる。

(…ー。)



   この方は、ずっと人知れず、マーガレットを見守っていたのだわ。

 
 辺境伯様はマーガレットを遠くから見守ってきたからこそ、分かっているのだわ誰よりも。
 だから、私にそう声をかけてくれた。

(小説では、マーガレットの再婚相手としか出てこないから知らなかったけれど、…そう。とても、心優しい方だったのね…。)



「辺境伯様、本当に……ありがとうございます。」



 涙はいつの間にか勢いがおさまってきて、マーガレットは小さく笑みを浮かべ、辺境伯にお礼を伝えた。



 それを見て頬を朱めた辺境伯は、小さく咳をして躊躇いがちに言葉を紡ごうと口を開いた。





「ー・もし「マーガレット。」



   辺境伯の言葉を遮って、叫んでいる訳ではないのに凛と響く声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには王子が立っていて、つかつかとこちらに歩いてくる。

「王子…。」

 (あれ?さっき庭園に…)

 視線を先程令嬢と王子が座っていた場所にやると、そこには誰もいない。
 あれからそんなに時間は経っていないのに、あそこから、此処まで瞬間移動でもしてきたのだろうか?

 というかヒロインとの逢瀬は?

「泣いているの?マーガレット。」

 近くまできて、マーガレットの頬に手を添えた王子は、そう問いかけた。

「あ、これは…。」
 
 …王子の手、あつい。よく見たら涼しげな顔をしているけど首筋に汗をかいている。
 まさか此処まで走ってきたのだろうか。

 ヒロインは何処?これは一体どういう状況なのかしら…。
 
「どういう事か説明してくれる?
ミストロイア辺境伯。」

 聞いた事のない、鋭い声色で辺境伯に問う王子に、マーガレットの直感がまずいと語った。


「違うのです!

誤解です王子、辺境伯様は友人のご息女を迎えに行く為通りかかっただけで、泣いていた私を慰めて…ンゥッ」



 急に、続く言葉を王子の口に塞がれ、マーガレットは目を見開いた。

 王子はそのまま逃れられないようマーガレットの頭に手をまわして、開いた口の隙間から舌を絡めてくる。

 (人前なのにー…っ)

 抵抗して胸板を何度か叩くと、王子は顔を離し、貼り付けた笑みを浮かべながら横目で辺境伯を見た。



「ミストロイア辺境伯、貴殿が慰めるべき令嬢なら、号泣しながら向こうへ駆けて行ったよ?」

「!……っ。あ、は、はい。」

 唖然と様子を見ていた辺境伯は、王子の言葉にはっとして、お辞儀をすると庭園の方へと去っていく。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
作者からのお知らせ。
当初の予定より物語続いたので番外編の表記はずします。不定期にはなるでしょうが書きますので引き続きお楽しみください。
 
 

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