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社交界に元カノ出現 辺境伯side
しおりを挟む社交会場のシャンデリアが煌びやかに輝く中、会場の端で懐かしい人に声をかけられた。
「お久しぶりですわね。」
わたしにそう話しかけて来たブロンド髪を束ねたその女性は、かつてお付き合いをしていた人だ。
最後彼女に〝優しいだけでは、駄目なのよ。〟と言われて以来の再会だった。
「お久しぶりです。アーバン伯爵夫人。」
「あらあら、昔お付き合いをしていた女性に随分素っ気ないのね。」
「ご了承ください。貴婦人に節度ある態度は大事ですから。」
「あらそう。そう言う所、変わらないのねぇ…。」
アーバン夫人は、懐かしむ様に己の左頬に片手を当て、うっとりした表情をしている。
「わたしに何か御用だったのでは?」
「御用と言うより。
長年の想いを叶えられるチャンスに対するご感想をお伺いしたくてね。」
突然紡がれた彼女の言葉に、思わず固まってしまった。
アーバン夫人は揶揄うように〝全て知っているのに何を今更。〟そう言わんばかりに紅を艶めかせた唇の端を上げて、手で口を覆い「ふふっ。」と笑った。
「……いつから…?」
「お別れした時に言ったでしょ?〝優しいだけでは、駄目なのよ〟って。
女はね、愛するのでは無くて、自分を1番愛してくれる人を最後に求めるものなのよ。」
(あれは、違った意味で捉えていたが…。)
だけど、気付いていたのならば合点がいった。
わたしは長年の秘めた想いを成就させる気は無くて、むしろ諦める為に足掻いていた。
そんな中でアーバン夫人と出会った。
彼女は名家の生まれであったけれど、
当時爵位の継ぐ予定では無かったわたしでも良いと、お付き合いを申し込まれた。※当時アーバン夫人も勿論未婚
〝爵位が無くとも構わない。共に生きて行きたい。〟と言ってくれた女性であった。
別れを切り出す彼女の方が泣きそうな顔をしていて、去って行く彼女を追いかけもしなかった。
最後の言葉はどうにも腑に落ちない所はあったが…。
「…ー・それは、すまない事をした。」
「あら、私は今凄く幸せなのよ?だから気にしないで頂戴。
それよりも、どうなの?チャンスはものに出来そうかしら?」
「どうかな……。」
「あら。貴方は今や王家の信頼も厚い辺境伯様でしょう?
何か、障害でもあるのかしら?」
「ー・そう言う訳では無いが。
…いや、そうとも言えるのか。超えなくてはいけないハードルが高いんだ。」
「あらあら。先日手柄も上げたでしょ。
陛下に〝褒美として離縁予定の王子妃を賜りたい〟くらい言えないのかしら。」
「……。言った。」
「え?」
「言ったが、ダメだった。」
「あら本当に言ったの…(冗談のつもりだったのに。)
でもじゃあ、何故ダメだったの?
ミストロイヤ辺境伯よ?公爵位に継ぐ称号であり広大な領地、王家の信頼も厚いでしょう。
それで手柄を上げているのに何故ダメなのかしら…。」
「…陛下は、公爵家の同意は当然だが、妃殿下のお気持ちを1番大事にされている。まずは妃殿下に選んで頂かなければ話にならない。」
「……。」
「だが、辺境伯家は妃殿下のご生家である公爵家とは特段懇意にしていた訳でも無い。
妃殿下と会話も1度したきりだ。
公爵家が探してきた条件の良い縁談話も既に幾つかあるとか。」
「…それは、確かに。ハードルが高いわねぇ。まぁそれだけ魅力はあられる方だものね。
ご本人が自覚されているかはともかく。
此処に、長年初恋拗らせている男がいるくらいには。」
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