上 下
3 / 17

噂の実体 マーガレットside

しおりを挟む

 離縁は、私から王子に話を切り出し、国王陛下と生家である公爵家に話をした。

 王子と私の結婚は、私の生家である公爵家の権力が強かったから故の政略結婚だった。

 王子の生みの母親は、身分の低い方で、王子を生んで直ぐにお亡くなりになってしまった。

 己の身を守る術を知ら無い赤子であり、後ろ盾の居ない王子を心配して国王陛下が私の家に頼み込んでの結婚だった。

 それを、王子はよく分かって居たし、私の事を実の姉の様に慕い、大切にしてくれていた。素直な王子は私の言う事を全て素直に聴いてくれた。

 だからこそ私が王子に、〝女性には誠実に〟と教え育てたせいもあってか、多妻制を受け入れ辛い性格となってしまった。

 要するに、王子は伴侶を生涯1人と定めるべきと言う考えに育った。(陛下の血も濃ゆいのだろうけど)

 それが成人を迎えた王子の大きな悩みであり、今後の障害であると、赤子の時から側にいた私は気付いてしまった。


 私と王子は白い結婚だ。大切な家族ではあるが肉身同然で、互いにそう言う…性交渉をするような対象ではないのだ。

 因みに陛下も恋愛結婚で伴侶は亡くなられた王妃様のみで再婚もしていないので、そんな王子に〝ならば側妃を娶れ〟と強く言えないみたいだ。

(あのままでは、お世継ぎが生まれないし。何より、王子の多妻制に抵抗あると言う価値観を私は諭そうと思えない。)

 愛する人唯1人を伴侶にしたいと言う方を、諭そうとは思えなかった。 
 
 世継ぎは確かに大切だ。だけど、機械の様に効率よく子を設けなさいと、私は王子に言えない。

 心を殺さずに済む道があるなら、その道を用意してあげたい。

 王になったら心を殺さなくてはならない場面も数多待受け、賢王となればなる程、多忙な日々に忙殺される事になる。

 そんな王子の未来が、人生が。日常の中に幸せをも見出せるものあって欲しい。

 大切な肉身同然だからこそ、王ではなく、1人の人としても人生を豊にしてくれる道を歩み進んで欲しい。

 その為に私が協力出来る事は何でもしてあげたい。


(離縁と言う事実から変な勘ぐりをされたものが社交界では広がってしまったけれど。
そんな事は想定内だわ。)
 

 王子はもう、成人を迎え、自分の身は自分で守れる立ち回りと知恵と人脈を身につけ、長年後ろ盾をして来た我が公爵家は私との婚姻が無くとも今後も後ろ盾となり続けるだろうと踏んだ私は、

 私の方から今回の離縁を申し出た。

 離縁後は暫く実家でゆっくりする予定でいた私の考えが甘かったのは言うまでも無いけれど…。



 机に置かれた釣書1つずつに目を通す。歳頃近く、まだ婚約者もいない条件の良い方。

 皆伯爵家以上のお家柄で、再婚相手としたら申し分のない。
 
 申し訳ない程に。

 彼等なら、自らと同じく初婚で好きなご令嬢を娶ってもなんら差し障りがないと言うのに。

(.……。本人達にしたら、順調な人生に降って来た災難かもね。)


「当たり前だけど、公爵家や王家に逆らえない人か、お相手の家門にとって政略的に良いと判断された方々よね…。」

(わかっていたことだけど…。でも地味にこれが1番堪えるわね。自身の瑕疵を実家の力で補い、実家の力で娶って頂く…。)

  現在4枚目に目を通した所で、一息ついた。

 母の用意してくれた釣書の方々は、今言った何方かに該当する方々ばかり。

 でなければ、お相手は初婚だと言うのに、再婚になる私など選びはしないだろう。しかも社交界で暫くは噂のネタにされる事がもれなく付随してくる。

「恋愛結婚が良いなどと、言うつもりはなかったけれど。せっかくだから暫くはそう言った事から離れていたいと言うのは我儘かしら…。…我儘よね…。」


 しがらみやら、利害関係で成り立つ結婚は貴族として生まれたからには当たり前の事だ。

 …そうだとしても、元王子妃であった私が、お相手にかける社交界に置いての負担は少なくないだろう。大注目間違いなしだ。


(…。色々心配してくれているお母様には悪いけれど…。

私自身、長年の婚姻生活の上での再婚なのだから、お相手も同じく再婚か後添いで良いご縁があったら、互いに気兼ねもなくて良いわ。
それなら急ぐ必要もないし、噂の熱りが冷めるまでゆっくり出来る。

釣書の方々は、何とかしてお断りしよう。)


 そう思って最後の釣書に目を通した時、その中にいる人物に手を止めた。



(このお方は、あの時の。辺境伯様?)


 今手元にした釣書には、先日庭園で話しかけてくれた男性の姿があった。

 彼は辺境伯であり国防の要。広大な領地を所有しており、若くして王からの信頼も厚い。代々実績も重ねて来たミストロイヤ辺境伯の権限は君侯と同等。場合によっては我公爵家に並ぶ影響力。

 人当たりも良く、優しいと聞く。

(幾ら条件が良いと言っても。何故、彼の様な方が……。
ぁあ。でも。
先日の様子から考えると想像出来てしまうわ。皆の見る中、王にお願いされたら私に恥をかかすまいと嫌とは言わなそうよね。


……でも、もしかしたら。)



『離縁成立後、わたしの元へ。来てもらえませんか?』


 もしかしたら…。


ーーーーーーー
ーーーーーーーーーー

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。

水鏡あかり
恋愛
 姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。  真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。  しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。 主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。

弟王子に狙われました

砂月美乃
恋愛
社交界の薔薇、結婚したい女性ナンバーワンのマリレーヌは、今日も求婚をお断りしたばかり。そんな彼女に声をかけたのは、かつて一緒に遊んだ第三王子のクリス。四つ年下で未だ成人前、大好きだけど弟にしか思えない。 ところがクリスは予想外にグイグイ迫ってきて……!? 「ヒミツの恋愛遊戯」シリーズその③、クリス編です。シリーズのキャラクターも登場しますが、本作だけでもお読みいただけます。ムーンライトノベルズさんで完結済です。

放ってほしい王女と甘やかしたい僕の破棄騒動

恋愛
【本編完結】全然靡かない王女様には婚約者がいるという。その名を聞いて驚いた。 「それ僕だけど」 「え、嘘……あ、こ、婚約破棄します!」 「そんな!」 ずっと好きだったのに、この仕打ち。 山間の小国の第三王女ラウラは有翼人種。ラウラには幼少期から決められた婚約者がいた。顔も見た事がない、名前も知らない麓の辺境伯。ある日、自分の事を好きだと言う目の前に現れた年若い青年は、その知りもしないはずの婚約者で、かつて自分が自身の翼と、王家にしか現れない特異能力を失うきっかけになった人物だった。 何度断っても諦めない青年ダーレと意地っ張りな王女ラウラの、ドタバタあり、ただ甘やかされるだけもあり、たまにシリアスありのごった煮な恋愛もの。 視点がランダムで展開します。タイトル終わりにダーレ→(D)、ラウラ→(L)で視点表記します。 前作クールキャラは演じられない!と同じ世界線。なのでゆるいです。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。 ※R15は保険です。

【R-18】嫁ぎ相手は氷の鬼畜王子と聞いていたのですが……?【完結】

千紘コウ
恋愛
公爵令嬢のブランシュはその性格の悪さから“冷血令嬢”と呼ばれている。そんなブランシュに縁談が届く。相手は“氷の鬼畜王子”との二つ名がある隣国の王太子フェリクス。 ──S気の強い公爵令嬢が隣国のMっぽい鬼畜王子(疑惑)に嫁いでアレコレするけど勝てる気がしない話。 【注】女性主導でヒーローに乳○責めや自○強制、手○キする描写が2〜3話に集中しているので苦手な方はご自衛ください。挿入シーンは一瞬。 ※4話以降ギャグコメディ調強め ※他サイトにも掲載(こちらに掲載の分は少しだけ加筆修正等しています)、全8話(後日談含む)

大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!? 「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!! 『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。 ・R18描写のある話には※を付けています。 ・別サイトにも掲載しています。

婚前レスの王子に真実の姿をさらけ出す薬を飲ませたら――オオカミだったんですか?

梅乃なごみ
恋愛
犬国の第二王子・グレッグとの結婚目前。 猫国の姫・メアリーは進展しない関係に不安を抱えていた。 ――妃に相応しくないのであれば、せめてはっきりと婚約破棄を告げて欲しい。 手に入れた『真の姿をさらけ出す薬』をこっそり王子に飲ませ、本音を聞こうとしたところ…… まさか王子がオオカミだったなんて――。 ※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。 他サイトからの転載です。

オオカミの旦那様、もう一度抱いていただけませんか

梅乃なごみ
恋愛
犬族(オオカミ)の第二王子・グレッグと結婚し3年。 猫族のメアリーは可愛い息子を出産した際に獣人から《ヒト》となった。 耳と尻尾以外がなくなって以来、夫はメアリーに触れず、結婚前と同様キス止まりに。 募った想いを胸にひとりでシていたメアリーの元に現れたのは、遠征中で帰ってくるはずのない夫で……!? 《婚前レスの王子に真実の姿をさらけ出す薬を飲ませたら――オオカミだったんですか?》の番外編です。 この話単体でも読めます。 ひたすららぶらぶいちゃいちゃえっちする話。9割えっちしてます。 全8話の完結投稿です。

【完結】失恋した者同士で傷を舐め合っていただけの筈だったのに…

ハリエニシダ・レン
恋愛
同じ日に失恋した彼と慰めあった。一人じゃ耐えられなかったから。その場限りのことだと思っていたのに、関係は続いてーー ※第一話だけふわふわしてます。 後半は溺愛ラブコメ。 ◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎ ホット入りしたのが嬉しかったので、オマケに狭山くんの話を追加しました。

処理中です...