消滅した悪役令嬢

マロン株式

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第2章

書籍化記念SS 消滅前の親友とリディアの出会い1

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 その日ーーセレイア王国クラリス侯爵の一人娘、アウロワ・クラリス十歳の誕生日が大々的に行われていた。


「クラリス侯爵令嬢様、この度はお誕生日おめでとうございます」


 私は挨拶と共に受け取ったプレゼントを使用人に渡して、次の人からまた祝福の挨拶とプレゼントを受け取るを繰り返していたが、どうにも飽きてきた。

 ここで欠伸をすると後でマナーに厳しいお母様に叱られるのは目に見えていたのだけれど、これ以上はどうにも堪えられそうもない。


 
 十歳の誕生日である今日は、私がかねてより仲良くしていた令嬢のみならず、父や母そして兄の友人その家族までも招いたことで、デビュタント前にしては大規模な誕生日会といえるものだった。

 招待カードを送った者達全員から参加の返事をもらい、皆が素敵なプレゼントを用いてやってくる。

 セレイア王国には現在、女性の王族がいない。だからこの国で最も尊い未婚女性が私だからだ。

 将来はこの国の王太子と結婚するだろうと記憶のない幼い頃から言われてきたから、将来自分が王妃様になるのだろうと言うことも自覚している。

 そうなれば私は正真正銘この国で一番尊い女性である。

 私は誰よりも特別な人間なんだろうと、最近では漠然とわかっていた。

 王太子の婚約者候補を集めた王家主催のお茶会には幼い頃から何度も招かれ、王太子と言葉を交わしたこともある。

 彼は見たこともないくらい、とても綺麗な顔をしていた。

 まるで絵本の中の王子様のようで、この方が私の将来の伴侶なのかと思うと、むずかゆく浮ついて落ち着かない気持ちになったのを覚えている。

 
 それらの事柄自体はとても気分の良い事実だけれど、一方でこうした立場だと堅苦しいマナーや作法が面倒に感じていた今日この頃



 ーーそれでも、その全てが私の世界で当然のことだった。
 









 
 来客へ愛想を振り撒くのを終えて、やっと同年の令嬢達と談笑を楽しむ席へと移動した。

 皆は何やら「知りませんでしたわ、その情報は本当なの?」「だから最近、王家主催のお茶会がないのね」と驚いている様子で、話が盛り上がっているようだった。

 彼女達の話に入れてもらおうと、私は問いかける。


「あら、何の話をしているの?私もまぜてくれないかしら」

 その問いに、レストン伯爵令嬢は快く頷いた後、すぐに話していた内容を教えてくれた。

「王太子殿下の婚約者、2年前決まっていたそうよ」

 思いがけない言葉に思わず目を大きく開いて、何度か瞼をまたたく。



「何かの間違いではないの?お父様からそのような話を聞いたことないわ」


 純粋に、根も葉もない話がこうして広まっているのは良くないと思った。
 私が婚約者だと確定したのであれば、令嬢達の間で噂で広まる前にお父様やお母様から話があったはずなのだから。

「ほら、2年前から王家主催のお茶会が無くなったじゃない?あれはお相手と婚約式まで済ませたからだそうよ。私のお父様がその式に参加したと言ってたから間違いないわよ」

 婚約式ーーその言葉に息をのんだ。これは神の前で将来を誓う儀式であり、ただの婚約よりも法的拘束力の強いものだ。
 それを無効にする為には、婚約した相手が罪を犯す、もしくは死別しない限り婚約の解消や破棄は出来ない。

 勿論私はそんな儀式をした身に覚えは無く、つまりそれは私ではない誰かが婚約者になったことを示している。

 正直、私の内心は穏やかでいられるはずもなかった。

 王太子のことは愛着がわくほど話したことはないけれど、将来伴侶になるだろうと思っていた人が、いつの間にか別の人と婚約したというのだから。

「お相手は誰なの?」

 この国で一番尊い侯爵令嬢を差し置いて、一体誰が婚約者になったというの?


「アルレシス公爵のご令嬢、リディア・アルレシス様だそうよ」

「・・・アルレシス公爵の・・〝ご令嬢〟?」



 アルレシス公爵のことは知っている。
 セレイア王国には王を補佐する宰相が2人いて、1人は私のお父様。そしてもう1人がアルレシス公爵だ。

 けれど、公爵に娘がいることは知らなかった。それも王太子とつり合いが取れる年齢の子供が。

 彼女が下位の貴族ならば、デビュタント前にそうした情報を知らなくても不思議ではないだろう。

 けれど、公爵令嬢にして宰相の娘なら、王太子の婚約者を選ぶ王家のお茶会に招かれていたはずだ。

 王太子へ令嬢達が自己紹介の挨拶をしているのを見ていたけれど、アルレシス公爵令嬢などその中にいなかったはず。


「アルレシス公爵に、王太子殿下と同じ年頃のご令嬢などいらっしゃいましたか?」



 口から出てきたのは率直な疑問だった。

 

「そういえば、公女様がたった一度参加された王家のお茶会は、アウロワ様が風邪を引いて欠席をなさったときでしたわね」


 私の横にいたディンバル子爵令嬢が疑問をすぐに解消してくれた。

 彼女は私の遠縁の親戚であり、母同士の仲が良く赤子のときから姉妹のように育ってきたからか、互いに一方がいない茶会は違和感を感じてよく覚えているのだ。


「・・・なるほどね・・」


 目の前にある菓子を一口含みながら、私は相槌をうった。





ーーじゃあ、私は今まで勘違いをしていたの?

 私はこのとき、会ったこともないアルレシス公爵令嬢という存在が嫌だと感じた。

 公爵という爵位が侯爵よりも上であることも。

 自分の婚約相手だと思っていた人が彼女の婚約相手であったことも。

 確信していた王妃になるという未来が自分のものではなく彼女のものであったこともーー



 リディア・アルレシスがいなければ

 全部私が得た幸運だったのではないかと思うと、心の中がもやもやとした。





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