【完結】消滅した悪役令嬢

マロン株式

文字の大きさ
24 / 67
第2章

黒鳥

しおりを挟む
  侍女に案内されるままに部屋へ戻ったリディアは、ドアを開ける前に侍女に「ここまでで大丈夫です」と告げ、お礼を言う。

 部屋の中に入ると部屋の隅に備え付けられていたポールハンガーに、脱いだローブと取り外した仮面をつるして、一息つき、辺りをぐるりと見渡してモルトの姿を探した。

 バンリと一緒に居なかったので、てっきり部屋に1人で戻っているとものだと考えていたが、そこにモルトの姿は無い。
 
(まさか、好奇心で王宮内を彷徨い歩いてる訳じゃないわよね?)

 ・・可能性は高い。今まで魔塔にしか居たことが無いモルトにとっては、王宮は好奇心がそそられるものばかりだ。机の引き出しを開くと、元々この部屋に備え付けられていた地図を取り出した。
 これは客人が観光がてら入ることが可能な場所が記されている。

(王宮内で、モルトが一番興味を示しそうなところは・・)

 指でなぞりながら、各宮殿の特徴へ目を通していると、〝コツン、コツン〟と、窓をノックしているような音がして、視線を斜め横にあるガラス窓へとやる。

 カーテンはタッセルに纏められており、日当たりの良い部屋なので日の光がガラス窓から差し込んでおり、特に人影は見当たら無い。けれど、未だに〝コツン、コツン〟と音をさせ、その度窓が小さく振動していた。

 恐る恐る窓に近寄ると、窓の外に小さな鳥がいて、何度も旋回しては窓をコツコツと叩いていた。


「あの黒色の鳥ーー室長がたまに魔法で作る黒鳥こくちょう?」

 魔塔の室長が魔法で作った鳥だ。魔力の塊が鳥の姿をしているだけなので生きている訳では無いらしいが、意志はあるのだとか。

 リディアには理解の及ばない分野ではあるけれど、人が生き物を作れるのか否かを考えた時に、偶然つくり出せたものらしい。室長が黒鳥こくちょうを呼び出すと、モルトがいたく喜ぶので、たまに手を付けられないほどモルトの好奇心が我慢できない時、黒鳥こくちょうに御守りをさせている節がある。

 (この部屋に、入りたがってるのかな?)

 窓を開け放つと、黒鳥こくちょうはスイっと部屋に入って来て、今度はリディアの顔周りをクルクルと回ると、部屋のドアが勝手に開いて廊下へと飛んでいく。

(・・窓は開けられないけど、ドアは自分で開けられるのね・・)

黒鳥こくちょうへの謎は益々深まるばかりである。


「何だろう、私について来いってことかな・・」

(もしかして、モルトの居る場所に連れて行ってくれるのかな)

♢♢♢


 
 思ったより、元居た部屋から離れてしまった。
 それどころか、別の宮殿の中にまで入って行く。

 仮面をつけて無いので、黒鳥こくちょうを追い掛けるか躊躇したけれど、その度に戻って来てはリディアの周りを回るので、ここまでついて来てしまった。

(誰にも遭遇しませんように)

 そう心の中で祈る。
 幸い、歩いてきた廊下には人が居なかったし、鳥を見失わないように慌ててローブだけ持ってきたけれど、ここまで誰ともすれ違わなかったのが奇跡だ。
 
 どうやら、トラビア王の居る本城には沢山の使用人がいるようだが、リディアの滞在している宮殿には基本的に清掃する人や、警備の人しか居ないようだ。それも最小限の人数しか配置していないようだった。

 
(ここ、何処だろう)

 とある部屋の戸が薄っすらと開いており、黒鳥こくちょうはその中へするりと入ってゆくので、リディアは思わず「えっ・・」と声がでた。

 入って良い部屋なのか分からないので、躊躇していると、戸の上にある金の板に、〝勝利の間〟と刻まれていた。

 こうした名前が付いた部屋は客人様が楽しめるよう、絵画等が飾られていると聞いたことを思い出し、中を確認しながら、ゆっくりと開ける。

 カーテンが閉め切られているせいで、薄っすらとだけ日の光が入り込んでいる。そのせいか、ややうす暗い。

 沢山の骨とう品、彫刻・絵画等均整のとれた品々が、静的で理知的な構成の美しさを損なわずに並べられているのが見える。

 この中にモルトがいるのかと、近に聳え立っている彫刻の後ろなどを、身を低くして確認していると、不意に声をかけられた。




「ここが、何の部屋か分かるか?」




 聞き覚えるのある声に、リディアはばっと立ち上がり、辺りを見渡す。

(今の声ーー室長?)

 キョロキョロと視線を彷徨わせながら、部屋の奥へと歩みを進めた。
 大きな骨とう品が並ぶ先に、大きな絵画の前にいる人影が、壁を背もたれにして寄りかかている。

 どう見ても高級な品々ばかりだと言うのに、その人影はタバコに火をつけて口にくわえ始めた瞬間、リディアをここへ連れてきた黒鳥こくちょうがカーテンをサァ・・と開けて、部屋の中に日が差す。








「・・・何でこんな所にいるんですか、室長」













***************************************************************
《作者からコメント》
消滅した悪役令嬢は、ひぐらしのなく頃にの「You」と言う曲をイメージして作ってたりします。
作成する時はいつも聞いてます。
良い曲なので、是非皆さまも聞いてみてください。
しおりを挟む
感想 535

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。