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第3章学園入学
ライザside
しおりを挟む「第2王子が幽閉になった?」
学園の一角に設けられた王家専用の憩いの場。
ここの使用権を持つ者は、皇帝の子供だけであり、今この学園に在籍している皇帝の子は2人だけと認識されている。
殆ど使用される機会のない場所だというのに、何時来ても塵一つない環境が整えられている。日当たりが程よく、目に優しい景色や小鳥のBGMつきだ。
更には、来訪者が眠れるように仮眠をとるスペースまで用意されている。
この空間が出来たのには一応ちゃんとした理由があるそうで、何も、王家の子を甘やかすためだけに作られたわけではない。
その昔(そこまで昔でもない)ある恋愛小説が流行ったそうだ。その内容は身分の低い平民が王立学園に通うことになり、そこで偶然にも中庭でうっかりうたた寝していた王家男子と接触し、恋に落ちるというラブストーリーが空前絶後の大ヒットをしたそうだ。
その余波は、実在している王家男子へと降り注ぐことになり、偶然を装った出会いを企むヒロインもどき達から、付け狙われて精神を病んでしまったり怪我をする王子が出始めたのだとか。
これにより、各所への配慮と帝国の大事な跡取りの身の安全を憂慮した学園側が、勝手に設置した場所であり、小説のブームが過ぎた後では実質的には最早存在意義のない場所だとライザは思っている。
そんな場所へわざわざ呼ばれたライザは、ベルンから聞いた話にお茶を吹き出しかけた。
サイコパス王子が、ひっそりと幽閉処分になったというのだ。
「・・あの人。
とうとう、(この世界でも)何かしでかしたんですか?」
「やらかしたなんてもんじゃないわよ。
わかっているだけで実母である第2妃とその侍女、同腹の第3王子を殺しているのよ?」
「・・・・・・・・・・・」
言葉もないとはこのことだ。
何時も本当に私の予想よりもヤバいことをして、何もなかったように笑みを浮かべ、生活を営んでいた第2王子の姿を思い出してライザはブルリと身震いをした。
「・・なんでそんな話を王族であるルイスではなくて、私に?
こういうのって、機密事項なんじゃないですか?
だって、暫くしたら幽閉は解かれますよね?」
ーーそう。
転生してから直ぐに、断罪回避のため私はこの世界の法を調べた。
その時、如何に王位継承権保持者に有利な法律となっているのかを知っている。それは王位継承権第2位のウルク殿下とて例外ではない。
因みに第2王子の他に、皇帝の実子はベルンだけだ。というのも、何人かは存在していたのだけれど、偶発的な事故や病で全員死去しているからだ。
ーー・・・・いや待てよ。まさか、その死すらサイコの手引き故という可能性が。そんなまさか。だとしても、この事実を知っているのはまずいんじゃないの?
ちらりとベルンに目配せをすると、優雅な動作でカップをおいて、長い睫毛をふせ、憂いを浮かべながらゆっくり、そしてしっかりと頷いた。
「お察しのとおり、これは知ってはいけない事実よ。
でも大丈夫。貴女へこの話をする許可をルイス様に今朝取り付けてきたから」
大丈夫じゃない。
今すぐ記憶喪失になってしまいたい。
これ以上にない王家のセンセーショナルな話を聞かせたんだ。
とても面倒なことを頼まれるのが目に見えている。
「私の意志が一切反映されていないのは何故ですか?」
「貴女も、皇国の臣民ならば、皇家に誠心誠意仕えなさい」
「仕えているではないですか。
私が普段から殿下の無駄な買い物に何十時間費やしていると思っているんですか?
時は金なりなんですよ。お金稼ぎに充てる時間を、殿下に使ってるんですよ。
臣民を酷使しすぎだと皇帝陛下に訴えますよ?」
「まぁ、落ち着きなさい。
ただでとは言わないわ」
「嫌です。
私は仕事を選ぶ人間です。
お金のためとはいえ、今回ばかりは幾ら積まれたとしても引き受けられません」
「そう・・。困ったわね。
皇国の恥辱を知るものに、領地や爵位を与えているわけにはいかないのよね・・ほら、信用のある身分に置いておけないのよ・・ぐすん。
貴女との縁が、ここまでなんて・・-」
ーーこ、こいつ。
悲痛な表情を浮かべながら、ヤバい脅しをかけてきたんだけど。
困っているのは私なんですけど?
このときライザは、悲劇のヒロインを演じ始め、口を覆いながらもすすり泣く皇太子に一瞬で殺意が沸いていた。
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