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第3章学園入学

知ってはいけない2 イリンside 修正済

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 私は落ちぶれた伯爵家の一人娘。
 貴族に生まれながらも、質素な暮らしを余儀なくされるほどに貧乏な生活が続いていた。人を雇える余裕は年々減って、お給料の高くなってしまう侍女や執事は雇えない。今の伯爵家に在籍しているメイドは5人だけ。

 せっかく貴族に生まれたのに、これがどれほど惨めなことか。社交界に出てみたらわかる。
 これも、稼ぎの悪い両親のせいだ。もっとちゃんと働いて稼がないから娘である私がこんなに惨めな思いをするのよ。本当に、爵位だけの無能な両親で困っちゃうわ。

 ーーけれど、こんな生活も学園に入学するまでのこと。
 学園入学に入学したその瞬間。
 私は数多のイケメンたちから言い寄られることになる。しかも、ただイケメンなだけじゃない。私への求婚者はこの国の皇太子や有力貴族ばかりなのだ。誰からも羨ましがられて、醜い嫉妬も沢山されるだろう。

 想像しただけで、なんて気分がいいのかしらーー・・。


 そう思っていたのに。
 実際始まった学園生活では、完全に私がモブ化していた。
 攻略対象者達は、入学式で誰一人私に声をかけてこなかった。

 平凡な容姿で成績は中の下という、ヒロインあるある設定のおかげで周囲に同化してしまうほどだ。
 偶然を装ってこちらから接触しようにも、上手くいかなかった。

 それもこれも、悪役令嬢が寄りにもよって私の推しであるルイス様と仲良くしていたからだ。
 意味が分からなかった。
 貴方は今頃、皇太子の婚約者になるはずじゃなかった?しかもかなり溺愛されているらしく、付け入る隙が一ミリもない。

 それが、彼女が転生者であるせいだと知るのは、そう時間がかからなかった。

 第2王子であるウルク殿下がこっそりと私にだけ教えてくれた。悪役令嬢とルイス様の出会いを。
 私が我慢して会いに行かなかったのを良いことに、彼女はトラウマを抱えたルイス様へつけいって、まんまと虜にしたらしい。
 なんてずる賢い奴なの。流石悪役令嬢に転生する人間だわ。人の弱っている心に付け込んで、いけしゃあしゃあと婚約者に収まるなんて。
 それどころか、皇太子にまで好かれていて、3人一緒に下校する姿を何度も見かけた時は、血管が避けるかと思った。

 ーーはぁ?あの悪女、何?両手に花のつもり?ひとのポジションをシレっと奪ってハーレム作ろうとしてんの?そこは私のいる場所なんだけど。



この時、私は何とか懲らしめようと思ったから、同じ転生者として理解のある第2王子と協力して、ルイス様を悪役令嬢から引きはがして守ろうと思っていた。

 それが、ヒロインである私の役割なのだと・・――――思って、いたのに。







  それは、突然降りかかった災難。


 「イリン、荷物はまとめたか?」

 
 貧乏ではあったけれども生まれてこの方、貴族として恥ずかしくない格好をしてきた両親。

 ーなのに、私があるお茶会を催した次の日ー

 平民と言われてもわからないほど、安価なことがわかるダサい衣服を着たお父様が、私へと振り返った。

「やだ、平民になるなんて嫌よ!私は公爵夫人になる予定なのに、学園にも行けないなんて・・っ」

 お父様はしゃがみこんだ私の手を掴んで立たせると、私の頬をうった。
 パン!という小気味よい音が当たりに響き、初めて親にぶたれて茫然としている私を見下ろしながら怒鳴った。

「我儘を言うんじゃない!
 おまえが余計なことに首を突っ込み、知ってはならない王家の事情を知ってしまったせいだろう!

 だから常日頃から、貴族として節度のある振る舞いをしなさいと・・っくそっ!
 もう、こんな所で騒いでも仕方が無い。
 記憶や命があるだけでも設けものなんだ。王家の気が変わらないうちに急いで王都から離れるんだ」




♢♢♢



 

 それは、何の前触れもなく突然のことだった。

 あるお茶会から一晩経って、白いベッドでいつものように朝を迎えた。どれくらい眠っていたのかわからないけれど、学校へ行く時間はとうに過ぎていて、いつも起こしに来るメイドをベルで呼んでみるも誰一人こない。

 部屋の扉を開けてみたら、両親は部屋の前で項垂れていて、私へ一言。

「・・王家からの通達があった。
 白爵位は没収。領地の返還を促され、速やかな退去と移転先の指定があった。最下層の人民が住むところで、仕事場も決められているそうだ」

「え?何?突然・・」

「他の貴族達だって行っている脱税について、我が家にだけ違法調査をかけて根掘り葉掘りあばかれた・・おまえ、もしかして学園で王家の方々に何かしたのか?」






 ー思い当たることなんて、あのお茶会で聞いた話の内容しかなかったー





「おい、ちゃんと事情を説明しなさい。
ここまで強固で迅速な対処だ。我々の命が危ないかも知れないんだぞ」


 私は、知ってはいけないことを知ってしまった。


 ただそれだけで、平民になることを余儀なくされた。
 


――――
――――――


 






 
 
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