身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第3章

闇落ちにはさせない5

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「…ーーはい?」

 
 何?今凄い聞き間違えをしたような…。
 

「異世界の聖女が数百年も前に国を救ったと言う伝説を、おまえの偉業で塗り替えるんだ」


 付け加えられた言葉は、聞き間違いでは無いと念を押しているようだった。


「ーー・ちょ…ちょっとまって。何を言っているの?」

 それでも、何を言っているのか理解が及ばずにただ困惑する。

 どう言うこと??私に、カルロを…


「この国は、取り返しのつかないところまで腐敗している。俺は腐敗した屋台骨を全て有無を言わさず取り除く。
理不尽を経験したことも無い権力者達が誰かに救いを求めるほどに追い詰め、数を減らす。そこに犯罪率が増加している民へ残虐な処罰を法律化して死体の山を築く。
幾ら暗黒龍を討伐出来る唯一の大剣使いと言えども。皆が皇帝の死を望むだろう。
国民は自ら死の痛みを経験し、そして強大で凶悪な共通の敵を前に心を一つに出来るはずだ。
敵を倒した先の平和と平穏を求めるようになる。
そこに1つの救いがあれば、まともな国にしようと、誰もが自ら立ち上がる筈だ」


 


 ────・どうしてだろう。


 普段はこんな話を理解するなんて、てんでダメなのに。


 どうしてこんな時だけ、私はカルロが何を言っているのか分かってしまうのだろう。



 答えは簡単だ。私は、国の狂気それを、この目で実際見たからだ。

 処刑台に立たされるまでに追い詰められるフェリミアを。そして、それを見ていた民衆を。

 でも、何でそんな。 

 一体カルロは何で…嫌だ。


 何を言っているのか、理解をしたくない。




「そんな話…冗談でもやめてよ」

「冗談じゃない。
この国は、長らく戦争も無く平穏だった。だが持て余した緩い平穏により、人々の心は後退した」


 その原因は多くあるだろう。
 暗黒龍の増加で蔓延した瘴気。長らく救世主である異世界の聖女が現れない得体の知れない不安。

 そしていつの間にか捻じ曲がった神殿と王宮の皇国を取り仕切る支柱。

 都度行われる、恵まれた者の処刑を娯楽と化して、集まり歓喜する大衆。

 これら全ての目を覚まさせ、リセットをする最短の方法は、自らが理不尽な痛みを痛烈に実感し、恐怖をいだかせることが1番の薬だと、俺は時間が巻き戻る前に理解した。

 現在世界で唯一大剣を使える皇帝だから誰も俺を殺す勇気もないし、躊躇するだろう。しかし自分達は皇帝に一方的に殺されるかも知れない。

 そんな悪魔の様な皇帝を、テリアが民の前で神力を見せつけ殺してくれたなら…ー

 王宮にいるどんな貴族も、神殿も、民も。皆がおまえを神の加護を得た聖女と認め、従うだろう。






 『ごめんなさい、テリアお姉様』



ーー私は処刑台に群がる民衆を見た。フェリミアの皇宮で受けた扱いも知っている。

 だから、カルロの言いたいことが、分かりたく無いのに…分かってしまう。

 だけど。

「私がカルロ陛下を殺せると思ってるの?」

 何で?昨日まで私のことを好きだと言ってたじゃない。それなのに何故こんなことを言い出すの?
 そもそもカルロは、時を遡る前こんなことをしていないはず。

 なのに、何で突然こんな話になるの?

 
 
「おまえは、俺を恨んでいるだろ」

「…え?」

「そして俺を殺す権利を持っている」

「権利…?」

「ーー…察しているだろう?

時を遡る前、おまえの妹を処刑台に送ると決めたのは、皇帝である俺だ」


 刹那ーー…冷たい風が、2人の間を吹き抜けた。

 カルロの言葉に、テリアは目を見張り、息を呑んで一歩後ずさる。
 
 


「覚えているんだろ?
時を遡る前の出来事を」


 何?今カルロは何を言ってるの。やっぱり私はさっきから、聞き間違えてるの?



「な…にを…ーー」



「おまえは、この計画で全てに復讐を果たすことが出来る」


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