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第3章
闇落ちにはさせない4
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あっという間に、夜になった。
今日は下弦の月でほんのりとした僅かな月明かりが、優しく大地を照らしていた。
私はカルロと約束をしていたとおり、仕事を終えるのを部屋で待っていた。
何故かユラが今夜はこの服を着てくださいと、着せて来た肩出しの白いワンピースを着用し、肌や髪も綺麗に見えるようにと念入りに手入れされた。
ワンピースは、胸元からくびれにかけて美しくラインが出るようになっているが、裾はヒラヒラと広がっているので、存外身動きが取りやすい。
テリアはバルコニーの手摺りに座って、空を見上げていた。
「居るなら、室内の灯りをつけろよ」
後ろから声をかけられて、振り返ると、風に揺られているカーテンの向こう側に、カルロが立っていた。
「お疲れ様。灯りは消していた方が星が綺麗に見えるから」
そう言うと、カルロは蝋に日を灯そうとしていた手を止めた。
「そうか」
一言だけ呟いて、上着を脱ぎ、タイを外している姿を見て、テリアは思わず顔をパッと空に戻すと、後ろからは思いの外早くバルコニーへと出てくる物音がする。
「おまえ、またそんな所に乗ってーー…」
着替えないのだろうかと疑問に思い、もう一度後ろを向くと、顔が見えるまで近寄って来ていたカルロと目が会った。
言葉を途切れさせて、口を薄く開けたまま、食い入る様に見てくるので、〝どうしたんだろう?〟と首を傾げるも、反応が無いまま固まってしまっている。
テリアは手摺から降りて近寄り、カルロの腕を引っ張った。
「そんなところに立ってないで、早くこっちに来なよ」
「…ぁ、あぁ」
「ほら、空を見てよ。今日は半月だけれど星の輝きが一等美しく見える日なの。
綺麗でしょう?」
空を指差している、テリアの横顔から視線を逸らさないまま、カルロは同意の言葉を述べた。
「───・ぁあ、本当に。こんな日に限って一等綺麗に見えるな」
「?何かあったの?」
テリアの問いかけには答えず、カルロは胸ポケットへ手を入れてから、拳を目の前に突き出した。
「これ、おまえに返しておくよ」
テリアはその拳の下に、両手で皿をつくって差し出すと、開かれた掌からアリスティナ姫からテリアが貰ったネックレスが落ちて来た。
「ありがとう、でも…どうして今?」
「これ以上持っていると、返すタイミングを突然失いそうだと思ったからな」
「?」
そよそよと髪を揺らす風が2人の間に心地よく優しく国吹き抜ける。
隣に居るカルロは、テリアから視線を逸らすように、空を仰いだ。
「これから、俺が皇帝として成そうとしていることを、おまえにも説明をしておく」
「私も、何か手伝えるってこと?」
「ぁあ───・手伝いと言うよりも…」
言いかけて、口をつぐんだカルロは、意を決した様にテリアへと向き直った。
その瞳は真剣そのもので、高潔な光を宿している。それは、意図せずテリアの胸の鼓動を高鳴らせた。
「俺はこの国に血の雨を降らせ、残酷無慈悲な皇帝となる。
おまえは、残虐の限りを尽くしたカルロ・デ•クワムントへ天誅を下し、その力を国民に知らしめろ」
今日は下弦の月でほんのりとした僅かな月明かりが、優しく大地を照らしていた。
私はカルロと約束をしていたとおり、仕事を終えるのを部屋で待っていた。
何故かユラが今夜はこの服を着てくださいと、着せて来た肩出しの白いワンピースを着用し、肌や髪も綺麗に見えるようにと念入りに手入れされた。
ワンピースは、胸元からくびれにかけて美しくラインが出るようになっているが、裾はヒラヒラと広がっているので、存外身動きが取りやすい。
テリアはバルコニーの手摺りに座って、空を見上げていた。
「居るなら、室内の灯りをつけろよ」
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そう言うと、カルロは蝋に日を灯そうとしていた手を止めた。
「そうか」
一言だけ呟いて、上着を脱ぎ、タイを外している姿を見て、テリアは思わず顔をパッと空に戻すと、後ろからは思いの外早くバルコニーへと出てくる物音がする。
「おまえ、またそんな所に乗ってーー…」
着替えないのだろうかと疑問に思い、もう一度後ろを向くと、顔が見えるまで近寄って来ていたカルロと目が会った。
言葉を途切れさせて、口を薄く開けたまま、食い入る様に見てくるので、〝どうしたんだろう?〟と首を傾げるも、反応が無いまま固まってしまっている。
テリアは手摺から降りて近寄り、カルロの腕を引っ張った。
「そんなところに立ってないで、早くこっちに来なよ」
「…ぁ、あぁ」
「ほら、空を見てよ。今日は半月だけれど星の輝きが一等美しく見える日なの。
綺麗でしょう?」
空を指差している、テリアの横顔から視線を逸らさないまま、カルロは同意の言葉を述べた。
「───・ぁあ、本当に。こんな日に限って一等綺麗に見えるな」
「?何かあったの?」
テリアの問いかけには答えず、カルロは胸ポケットへ手を入れてから、拳を目の前に突き出した。
「これ、おまえに返しておくよ」
テリアはその拳の下に、両手で皿をつくって差し出すと、開かれた掌からアリスティナ姫からテリアが貰ったネックレスが落ちて来た。
「ありがとう、でも…どうして今?」
「これ以上持っていると、返すタイミングを突然失いそうだと思ったからな」
「?」
そよそよと髪を揺らす風が2人の間に心地よく優しく国吹き抜ける。
隣に居るカルロは、テリアから視線を逸らすように、空を仰いだ。
「これから、俺が皇帝として成そうとしていることを、おまえにも説明をしておく」
「私も、何か手伝えるってこと?」
「ぁあ───・手伝いと言うよりも…」
言いかけて、口をつぐんだカルロは、意を決した様にテリアへと向き直った。
その瞳は真剣そのもので、高潔な光を宿している。それは、意図せずテリアの胸の鼓動を高鳴らせた。
「俺はこの国に血の雨を降らせ、残酷無慈悲な皇帝となる。
おまえは、残虐の限りを尽くしたカルロ・デ•クワムントへ天誅を下し、その力を国民に知らしめろ」
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