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第3章
闇堕ちにはさせない3
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カルロside
テリアは、扉が閉まる音がしてから、歩み寄ってきた。チラリと俺の右手へと視線をやりつつも、こちらへと近寄ってくる。
徐に手を伸ばしてきたかと思えば、右手に巻いた包帯の上からそっと手を重ねてきた。
「ーー私ね、最近こう言うことも出来る様になったんだよ」
そう言って、指先から暖かな熱と、淡い光がつたって俺の右手を纏わりつく。
「凄いでしょ?」
口元に小さな弧を浮かべて、テリアの身体は縁をかたどる様に、淡い光を纏っていた
ーーやっぱりおまえは、そうだったんだな。
いつからなのか、俺は知らない。この様子から察するに本人は、皇妃に課される聖女教育の賜物と思っているのだろう。
だがー…前世の皇妃が神器のネックレスに触れた時の姿と重なる。
ーーこいつが、ただの聖なる力だと思っているそれは、間違いなく神の加護を受けた力。〝神力〟だ。しかも、これほど自由に操作するまでに至っている。
俺は黙って、右手の包帯をとり傷が癒えたことを確認しているテリアの姿を、じっと見ていた。
ーー俺はいつも、おまえから目を離すことが出来ない。
俺は、こいつが皇宮に来た時から…その姿を見た瞬間から、落ち着かなくて、気にせずにはいられなかった。
それが何故なのか、自分のことなのに訳がわからなくて苛立った。
義母である前皇妃が用意した婚約者。その思惑通りに、悪意を持ってあてがわれた女に執着してしまう自分に、苛立っていた。
本当におかしな話だった。
ずっと、俺の中で謎だった。
何故こんな感情が生まれる?腹が立って仕方がない。
顔は確かに好みではあった。だけどこいつがどんな人間なのか、微塵もわからないと言うのに…、皇宮に来る前の評判すら悪く、好印象を抱ける要素など、どこにもないのにーー…。
だがー…そんな疑問の全てが、わかってしまった。
俺はあの処刑場で
おまえに一目惚れしていた。
こいつが皇宮に訪れてきた時、俺は警戒していたし絶対に信用しない、情など沸かないと言う自信があった。
だけど、どんなに心を強く持とうともそれは無駄なことだった。
あの時点ではもう、既にこいつに惚れた後だったんだ。
「聞いたよ、壁を素手で殴ったんでしょ?」
「ぁあ」
「痛く無いの?」
「…痛く無いな」
ーー多少ズキズキと疼いたが、こんなものは痛みのうちに入らない。
「ふぅん…。まぁ、今は取り敢えずご飯を食べましょう」
「は?」
「ユラ、持ってきて」
その言葉を合図に、部屋の扉が開いてユラがワゴンを押して入ってきた。米の塊が3つ乗ったお皿を、カルロの前に置いて、グラスに水を注いで入れた。
一通りのセットを終えると、そのままお辞儀をして、速やかに部屋から出て行く。
「……。俺が暇な様に見えるか?」
「とっても忙しそうに見えるわ」
「……」
「朝食も昼食も食べていないほど。今大切な時なんでしょ?身体を壊したら全て駄目になるよ」
「……」
「前にサンドイッチを作ってくれたお礼よ。今度は私が作ったんだ。おにぎりって言ってね、異世界の聖女様が広めたー…「俺に話したいことは、食事についてじゃないんだろ?」
話を遮ると、きょとんとした顔をしてテリアは目を瞬いていた。
「聞いたんだろ?色々と」
「うん。聞いたわ。
でも私は本当にご飯を持ってきただけよ。
私と話をするって言えば、当分は誰も此処へは来ないから、落ち着いて食事が出来るでしょ?
私が居ても落ち着いて食べられないだろうから、もう部屋から出るけれど」
テリアは一歩後ろへと離れ、すっとスカートを摘むと、退出を示すお辞儀をした。
姿勢を整えてカルロを見据えた後は、その身を翻して扉へと進む。
ーーカチャッ
扉を開けて本当に、そのまま部屋を出ようとしていると、カルロは声を上げて引き止めた。
「待て」
テリアは開きかけた扉を、もう一度閉ざして振り向く。
「おまえに、話さなければならないことがあるんだ。
今晩、俺に時間をくれないか?」
「何でしょうか?」
「……」
黙り込んでしまったカルロを見て、返答に困っていると感じたのか、テリアは口元に小さな笑みを浮かべて頷いた。
「わかりました、それでは今晩お部屋でお待ちしておりますね」
今度こそ部屋から出て行った扉を見つめながら、机に置かれたおにぎりの1つに手を伸ばしガブリとかじりつく。すると、口の中には塩の味が広がった。
「…うまい」
テリアは、扉が閉まる音がしてから、歩み寄ってきた。チラリと俺の右手へと視線をやりつつも、こちらへと近寄ってくる。
徐に手を伸ばしてきたかと思えば、右手に巻いた包帯の上からそっと手を重ねてきた。
「ーー私ね、最近こう言うことも出来る様になったんだよ」
そう言って、指先から暖かな熱と、淡い光がつたって俺の右手を纏わりつく。
「凄いでしょ?」
口元に小さな弧を浮かべて、テリアの身体は縁をかたどる様に、淡い光を纏っていた
ーーやっぱりおまえは、そうだったんだな。
いつからなのか、俺は知らない。この様子から察するに本人は、皇妃に課される聖女教育の賜物と思っているのだろう。
だがー…前世の皇妃が神器のネックレスに触れた時の姿と重なる。
ーーこいつが、ただの聖なる力だと思っているそれは、間違いなく神の加護を受けた力。〝神力〟だ。しかも、これほど自由に操作するまでに至っている。
俺は黙って、右手の包帯をとり傷が癒えたことを確認しているテリアの姿を、じっと見ていた。
ーー俺はいつも、おまえから目を離すことが出来ない。
俺は、こいつが皇宮に来た時から…その姿を見た瞬間から、落ち着かなくて、気にせずにはいられなかった。
それが何故なのか、自分のことなのに訳がわからなくて苛立った。
義母である前皇妃が用意した婚約者。その思惑通りに、悪意を持ってあてがわれた女に執着してしまう自分に、苛立っていた。
本当におかしな話だった。
ずっと、俺の中で謎だった。
何故こんな感情が生まれる?腹が立って仕方がない。
顔は確かに好みではあった。だけどこいつがどんな人間なのか、微塵もわからないと言うのに…、皇宮に来る前の評判すら悪く、好印象を抱ける要素など、どこにもないのにーー…。
だがー…そんな疑問の全てが、わかってしまった。
俺はあの処刑場で
おまえに一目惚れしていた。
こいつが皇宮に訪れてきた時、俺は警戒していたし絶対に信用しない、情など沸かないと言う自信があった。
だけど、どんなに心を強く持とうともそれは無駄なことだった。
あの時点ではもう、既にこいつに惚れた後だったんだ。
「聞いたよ、壁を素手で殴ったんでしょ?」
「ぁあ」
「痛く無いの?」
「…痛く無いな」
ーー多少ズキズキと疼いたが、こんなものは痛みのうちに入らない。
「ふぅん…。まぁ、今は取り敢えずご飯を食べましょう」
「は?」
「ユラ、持ってきて」
その言葉を合図に、部屋の扉が開いてユラがワゴンを押して入ってきた。米の塊が3つ乗ったお皿を、カルロの前に置いて、グラスに水を注いで入れた。
一通りのセットを終えると、そのままお辞儀をして、速やかに部屋から出て行く。
「……。俺が暇な様に見えるか?」
「とっても忙しそうに見えるわ」
「……」
「朝食も昼食も食べていないほど。今大切な時なんでしょ?身体を壊したら全て駄目になるよ」
「……」
「前にサンドイッチを作ってくれたお礼よ。今度は私が作ったんだ。おにぎりって言ってね、異世界の聖女様が広めたー…「俺に話したいことは、食事についてじゃないんだろ?」
話を遮ると、きょとんとした顔をしてテリアは目を瞬いていた。
「聞いたんだろ?色々と」
「うん。聞いたわ。
でも私は本当にご飯を持ってきただけよ。
私と話をするって言えば、当分は誰も此処へは来ないから、落ち着いて食事が出来るでしょ?
私が居ても落ち着いて食べられないだろうから、もう部屋から出るけれど」
テリアは一歩後ろへと離れ、すっとスカートを摘むと、退出を示すお辞儀をした。
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今晩、俺に時間をくれないか?」
「何でしょうか?」
「……」
黙り込んでしまったカルロを見て、返答に困っていると感じたのか、テリアは口元に小さな笑みを浮かべて頷いた。
「わかりました、それでは今晩お部屋でお待ちしておりますね」
今度こそ部屋から出て行った扉を見つめながら、机に置かれたおにぎりの1つに手を伸ばしガブリとかじりつく。すると、口の中には塩の味が広がった。
「…うまい」
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