身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第3章

大司教と対面2

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 リリィー・ケスラー公爵令嬢が元々カルロの婚約者最有力候補であった話は、後任皇妃を探していた時から既に知っていたから驚きはしなかったけれど。

 よもや、大司教とも繋がりがあるとは思わ無かったのでそのことにテリアは驚いた。

 彼女の姿は後任皇妃を選ぶお茶会で見かけたことがあるので、今でも覚えて…うん。まぁ沢山人が来ていたので、なんとなく…思い出せる。


 あの時、私は後任皇妃にロザリー・テンペル公爵令嬢を選んだ。彼女は初代異世界の聖女の子孫だとか。

 テンペル公爵令嬢も元々、第2皇子が生まれる前はカルロの婚約者として有力候補ではあったけれど、当時それを上回るほどに支持されていたのがリリィー・ケスラー公爵令嬢だったそうな。

 異世界の聖女の子孫よりも皇太子の婚約者として推されると言うのは、一体どう言う人なんだろうと。腑に落ちなかった。

 私は、王宮でのことはアレンとユラからの情報しか得られない。彼らは人一倍耳が良いので、使用人達の噂話を集められるし、普段はそれで充分なのだけれど、全ての情報を得られるわけでは無い。


 でも、これでやっと腑に落ちた。


「大司教の姪御様が…。そうでしたか」

 腑に落ちてすっきりしているテリアとは対照的に、後ろで控えていたユラは〝何でわざわざそんな話をテリア様の前でするのかしら?〟と苛立ちを滲ませていた。

「ははっ、お気に触りましたか?ちょっとした冗談ですよ」
「冗談?ですが、婚約者最有力候補であったのは本当の話では…」
「しかし、結果なれませんでした。
皇妃様は本当に、運が宜しく羨ましいかぎりですよ。
ははっ。

姪はあれほど陛下をお慕いしていたというのに…可哀想に、最近では側室でも良いと健気なことを言っております。どうか、その際・・・は良くしてやってください」


 大司教の言葉に、テリアの背中は苛立ちの沸点を超えそうになっているユラとアレンの気配をビシバシと感じ取ってテリアはふるりと身震いをした。


(……何だろう。空気が重たい様な、背中が熱いような…)


「…ケスラー公爵令嬢がカルロ陛下の婚約者となりたかったこと、公爵も、そして大司教も当時から分かっていたのですよね?何故、ケスラー公爵は当時皇太子と婚約をさせなかったんでしょうか??」

 これは、嫌味ではなく素朴な疑問での問いかけであった。第2皇子が生まれるまでは、彼女達は婚約者として候補に名を連ねていたのだ。それが、第2皇子生まれてからは潮がひいてく様に、どの家門もその座を押しつけあったと聞いている。


 ケスラー公爵令嬢の気持ちを思うなら…カルロに味方して婚約しても良かったのでは無いだろうか。そう思ってしまう。



「…ふふっ、これはまた手厳しい」

 
 後ろで見ていたアレン達はハラハラしていた。

 後ろ盾なんか無いも同然の皇太子。
 前皇妃と言う後ろ盾のあった第2皇子。

 そして、成り行きを見ているだけの前皇帝を見ていたら、高位貴族達は勝率の格段に高い方へ鞍替えするのは自然だろう。

 皇太子とて、味方になってくれる者全くいなかった訳では無い。

 しかしあまりにも前皇妃の後楯が強大で勝ち目など無かった。

 そもそも前皇妃は、ケスラー公爵家の家門出身の者。
 その前皇妃が第2皇子を産んだのだ。
 それを、ケスラー公爵令嬢を皇太子の婚約者にしてしまえば、家門同士の諍いになってしまう。安易に欲張り、同士討ちで衰退した家門は歴史上数多いる。

 故にケスラー公爵が応援する皇子は第2皇子一択でしか無かった。家門の発展を考えると、娘の恋心など、二の次だったと言うことだろう。

 他の高位貴族達は、大司教と言うつてを持つケスラー公爵家に表立って楯突く気はさらさら無かった。テンペル公爵家も例外なく第2皇子側へと傾いた。

 

ーーしかし、彼らの予想を外れてカルロが皇帝になってしまった。

 今更になって何とか皇帝に取り入らなければとどの家門も焦っていた。
 それは、ケスラー公爵家とて同じことであった。

 それもそうだろう。そのやり方は緩やかな政局の変化は無く、取り付く隙間も交渉余地を与えない一瞬のどんでん返しだったのだから。


 異世界の聖女が長らく現れないことで、増え続けるだけだった暗黒龍を、1人で討伐したと言う事実。これは建国以来初めての偉業である。
 世界中の人々が願ってやまないことを、唯一無二の偉業で成し遂げると言う力技で、皇位継承者の正当性を神殿に認めさせ状況が変わった。

 こんなこと、誰も想像出来なかったのだ。


ーーテリア様は恐らくそこまで複雑なことは考えないお方なので、純粋に、〝なんでだろう?〟と思って聞いたのだろうが。

 勝手に深読みした大司教が、ご立腹なのが分かる。瞳に宿る光が、鋭くなった。


「ーー皇妃様。
ところで、つかぬことをお伺い致しますが、陛下がどの様にして暗黒龍を討伐されたのかご存知ありませんか?」

「いいえ、知りません」

「カルロ陛下は異世界の聖女を連れていた訳では無いのに、討伐された暗黒龍は確かに斬られた傷がございました」

「陛下がお一人で、どうにかしたのでは無いですか?」
「そうでしょうな。でも一体どうやったのか。どうにも気になりましてな…」

ーーコンコン

 話の途中で鳴らされたノックに、外からは「大司教様!」と慌てた様な声が聞こえて来た。

「騒がしいな、皇妃様がいらっしゃるのだぞ。一体どうした」


「現在、伝手から報告があり、ケスラー公爵が皇国騎士団に捕縛されました」

「なんだと?!」

「皇帝陛下の勅命で、強制家宅捜査が行われ…横領の証拠が差し押さえられまして…」
「何故そんなことになる!馬鹿め」

「そ、それと…」

「まだ何かあるのか!?」


「リリィー・ケスラー様も、捕縛されました」





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