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第3章
皇妃の勤め
しおりを挟むその日のテリアは皇妃の勤めとして用意されたスケジュールをこなそうと、早朝から神殿へと向かっていた。
馬車の中で大きなため息をついていると、向かいに座っていたユラが心配そうにしているので、笑みをつくり、ヘラリと笑顔を浮かべる。
ーー今日。本殿に来て初めて朝をむかえた。
けれどカルロは仕事で朝食の場には姿を現さなかった。
昨夜の件もあって、気持ちの整理が未だについて居なかったテリアは、カルロからの告白にどう返事をして良いかも定まらないままだったので内心ほっとしていた。
けれど、その一方で目の前の空席が少し寂しいと感じている。
それは、1人ぼっちで席に座り食べているからだと思いたい。決して、心のどこかではカルロと一緒に朝食を食べれることを期待していた訳では無いと…そう、思いたい。
ーーそう思いたいと願う時点で、最早そうでは無いと認めているようなものだ。
今朝のことを思い返していたら、テリアの口からはため息が出て来た。
「はぁ……」
「如何いたしましたか?」
「……大丈夫よ、何でもないわ」
そうは言っても、今朝からため息が多く悩んでいるテリアの姿を見ていたユラは、〝何でもない訳ないでしょう〟と言う視線を送ってくる。
テリアは冷や汗をかきながらも、それに気付かないフリをして、人差し指で頬をかいたあとに、自然と話題を変える様に質問をした。
「近いうちに実家へ帰りたいのだけれど、可能かしら?」
その問いかけにユラは動揺し、たじろいでいる。
話を聞いていたアレンは思案を顔に浮かべて顎に指を添え、目を細めた。
「テリア様は皇妃であらせられます。お立場も盤石とも言い難いです。
少しでも波風を立てないよう、テリア様が実家へ帰ると言うよりも、フェリミア様に皇居へお越し頂くのが最善かとは思います」
「けれど、アレンも知っているでしょう。フェリミアは前に一度会いに来てくれたけど…。前世のこともあって、精神的に大分弱っていたわ」
私が心配で仕方が無いと言う様子は、定期的に届く手紙からありありとわかる。けれどそれでも、一度来たきり皇宮は来ないのは、おそらく来ないのでは無く、来れないのだ。
「ですが、フェリミア様もテリア様の足を引っ張ることは望んでおられません。子爵家からの報告では、精神的にかなり回復しておられるご様子とのことです」
「回復しているのなら、本当に良かったわ。私との手紙だと自分のことについては殆ど触れてくれたいから…」
ーーかと言って、皇宮へ訪れても平気になったとは思えないけれど。
こんな時、皇妃と言う身分に歯痒さを感じてしまう。
いっそ、こっそりと抜け出して戻ってくることが一瞬で出来れば良いのだけれど…
本日何度目かの大きなため息をついていると、足元でモフっと何かが爪先に当たった。柔らかい毛並みをしたそれは、足にスリスリと頭を擦り付けてくる。
テリアは太陽神に〝神様の使い〟と紹介をされた、水色の猫しか心当たりが無く、ほぼ確信していたので、触れるモフモフに動じることなく息をついた。
(はぁ…モフモフに癒される…)
スカートの下からひょこりと姿を現した猫に「やっぱり」と呟いていると、猫は徐に膝上に飛び乗ってくるりと丸くなり座り込んだ。
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