身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
上 下
112 / 121
第3章

皇妃の勤め

しおりを挟む



 その日のテリアは皇妃の勤めとして用意されたスケジュールをこなそうと、早朝から神殿へと向かっていた。

 馬車の中で大きなため息をついていると、向かいに座っていたユラが心配そうにしているので、笑みをつくり、ヘラリと笑顔を浮かべる。

 

ーー今日。本殿に来て初めて朝をむかえた。 

 けれどカルロは仕事で朝食の場には姿を現さなかった。

 昨夜の件もあって、気持ちの整理が未だについて居なかったテリアは、カルロからの告白にどう返事をして良いかも定まらないままだったので内心ほっとしていた。

 けれど、その一方で目の前の空席が少し寂しいと感じている。

 それは、1人ぼっちで席に座り食べているからだと思いたい。決して、心のどこかではカルロと一緒に朝食を食べれることを期待していた訳では無いと…そう、思いたい。
 

ーーそう思いたいと願う時点で、最早そうでは無いと認めているようなものだ。


 今朝のことを思い返していたら、テリアの口からはため息が出て来た。


「はぁ……」
「如何いたしましたか?」
「……大丈夫よ、何でもないわ」

 そうは言っても、今朝からため息が多く悩んでいるテリアの姿を見ていたユラは、〝何でもない訳ないでしょう〟と言う視線を送ってくる。

 テリアは冷や汗をかきながらも、それに気付かないフリをして、人差し指で頬をかいたあとに、自然と話題を変える様に質問をした。

「近いうちに実家へ帰りたいのだけれど、可能かしら?」

 その問いかけにユラは動揺し、たじろいでいる。

 話を聞いていたアレンは思案を顔に浮かべて顎に指を添え、目を細めた。

「テリア様は皇妃であらせられます。お立場も盤石とも言い難いです。
少しでも波風を立てないよう、テリア様が実家へ帰ると言うよりも、フェリミア様に皇居へお越し頂くのが最善かとは思います」

「けれど、アレンも知っているでしょう。フェリミアは前に一度会いに来てくれたけど…。前世のこともあって、精神的に大分弱っていたわ」

 私が心配で仕方が無いと言う様子は、定期的に届く手紙からありありとわかる。けれどそれでも、一度来たきり皇宮は来ないのは、おそらく来ないのでは無く、来れない・・・・のだ。

「ですが、フェリミア様もテリア様の足を引っ張ることは望んでおられません。子爵家からの報告では、精神的にかなり回復しておられるご様子とのことです」

「回復しているのなら、本当に良かったわ。私との手紙だと自分のことについては殆ど触れてくれたいから…」

ーーかと言って、皇宮へ訪れても平気になったとは思えないけれど。

 こんな時、皇妃と言う身分に歯痒さを感じてしまう。

 いっそ、こっそりと抜け出して戻ってくることが一瞬で出来れば良いのだけれど…

 本日何度目かの大きなため息をついていると、足元でモフっと何かが爪先に当たった。柔らかい毛並みをしたそれは、足にスリスリと頭を擦り付けてくる。


 テリアは太陽神に〝神様の使い〟と紹介をされた、水色の猫しか心当たりが無く、ほぼ確信していたので、触れるモフモフに動じることなく息をついた。

(はぁ…モフモフに癒される…)

 スカートの下からひょこりと姿を現した猫に「やっぱり」と呟いていると、猫は徐に膝上に飛び乗ってくるりと丸くなり座り込んだ。

 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜

ぐう
恋愛
アンジェラ編 幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど… 彼が選んだのは噂の王女様だった。 初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか… ミラ編 婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか… ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。 小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

【完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...