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第3章
カルロの予感 カルロside
しおりを挟む「くそっ…!胸糞悪い予感がするはずだ…」
カルロは壁を右手でガンッと殴りつけて、左手にあるペンダントを強く握りこんだ。
ーー討伐から帰ってきて、このペンダントをテリアに返すつもりでいた。
事情を話して、すぐに神殿に鑑定をしに行こうとしていたのだ。
これが一体何なのかを解明するために。
いっときだとしても何故、俺が暗黒龍を討伐できたのか、何故、大剣が正常な姿を取り戻せたのか。
早く解明すべきだとわかっているのに、後回しにし続けた。
自分の中にある何かが、警告をするように胸をざわめかせた。
あの女、皇妃だった者は言っていた。〝子爵家にあった資料を見た〟〝この世界の聖女でも暗黒龍の討伐は出来ます〟と。
ーー異世界の聖女が現れてからの皇妃の処刑。そして、子爵家を見逃さずに追手を放ってまで一族郎党屠ろうとした神殿。
総合して考えてみれば、もしも暗黒龍を討伐して帰ってからすぐに、神殿へありのままに報告していたら、今回はーー…
そこまで考えて、頭によぎったのは、昨日、告白した後に頬を赤らめているテリアだった。
「あり得ない」
考えすぎだと思いたい、だけど。
────・確かに俺はこの目で見た。
処刑台と、叫び声と、手を伸ばした先で間に合わず斬り込まれていた、あいつの姿を。
ーがちゃっ
「ー…お待たせいたしました。
こちらがフェリミア・ロナンテス様からの──────…っ。
陛下、どうされたですか!?」
手紙を持ってきたスピアが室内に入ると、そこには拳から血を流している皇帝がいた。
♢♢♢
このペンダントは、暗黒龍討伐の時、テリアが俺に手渡したものだ。
『あんたに貸すから。戻ってきたら返してよ』
暗黒龍討伐に旅立つ前日、誰も俺が無事に帰ってくるなど思っていない中で〝無事に帰ってきてね〟と言わんばかりに手渡されたペンダントー…。
旅に出たのは聖女の泉が見つかったからだ。
暗黒龍討伐に役立つ可能性にかけていたつもりだった。
王が持つ大剣には刃がない。
それを完全な姿にするために、どうしても異世界の聖女が持つ神力を必要としていた。
大剣の刃は神力であり、神力は異世界の聖女のみが持っているもの。
俺は、聖女の泉に、神力が残っているのなら、大剣が何か反応を示すかも知れないという、僅かな可能性にかけていた。
もし、何も収穫がなくても、聖女の泉と言う誰も知らないものが実在したのだから、次の希望を探そうと思っていた。
ーーしかし、旅の途中で予想外の出来事が起きたのだ。
テリアから預かったペンダントを眺めていたとき、強い光を放ち、思わず目を閉じた。
次に瞼を開いた時、それまではただの柄でしか無かった大剣は、白光の刃を身に付けて完全な姿となって、浮いていた。
刃は橙色と赤の混ざった炎を白光するその身に絡めて、堂々と輝いていたのだ。
龍を1匹討伐したら、元の姿に戻ってしまったそれは。
確かに神力でつくられたものだった。
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