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第2章
忠臣は知っている ユラside
しおりを挟むのんびりしている子爵家の面々の中でもより一層能天気で、ぬけていて、いつも元気で。理不尽に対して怒ることはあれど、その後は何ごとも無かったように引きずらない。それは懐の深さ故なのか、それとも浅はかさ故なのかも図りかねるほど掴みどころのないーー…
ーそんな、テリア・ロナンテスと言う、私が生涯の忠誠を誓った主人が、人を憎悪し永遠に続くだろう恨みを宿した瞳で叫ぶ姿を見る日が来るなど。
あの日、あの時まで、想像すらもしたことがなかった。
『それ以上やったら、容赦しないんだから!!私が貴方達を殺してやるから!』
短剣を握りしめて、処刑台に向かって叫ぶ声と姿が今でも鮮明に、私の記憶に残っている。
♢♢♢
私は、母がロナンテス子爵夫人に拾われて以来、私達母子でロナンテス子爵家の忠臣としてながらく仕えてきた。
子爵家の人々はのんびりとした雰囲気で、領民達にとても優しく、だからこそ領民達に慕われて敬愛されていた。
王都からは遠く離れているせいで、活気があるとも言えない領地だけれど、気候には比較的に恵まれていたので農業が盛んに行われている。
常に自足自給を出来ていたおかげで、裕福とは言えないが皆飢えることは無く、税が引き上げられる事もなかった。
テリア様のお母様である子爵夫人はおっとりとしていたけれど、気の利く優しい奥様で、便利な農具を何処からか見つけて来ては各村長達へと商人を紹介していた。
山々の狭間にある田舎であり、外から移り住んで来たところで働き口などあまり無いので、外から人が来ることは無かった。
けれどある日、子爵夫人がたまたま子爵領に流れ着いた獣人を拾って側において大切に育て、その獣人は立派な侍女となった。何処からかその噂を聞いた他の獣人がチラホラと子爵領へと訪れ移り住むようになった。
他領では獣人が迫害されていることは領民達も知っていたけれど、この子爵領では領主自身が人の倍働いているからと、人より高めの給金で獣人を雇った事もあり、それを知った領民達からは獣人達に対する偏見が薄れてゆき、終いには獣人が尊敬されるようになっていた。
そんな風に、誰にとっても穏やかで平穏な領地を築いた子爵夫人の子が、テリア様とフェリミア様だ。
姉妹の性格は正反対だと皆が口を揃えて言った。
慎重で博学だけれど内向的な妹君のフェリミア様に対して、姉のテリア様は物事を深く考えることが苦手で勉学はそっちのけで外で自由に遊んでいる。
確かにこの2人は一見対照的にも感じるけれど、私は2人とも奥様に似ていると感じていた。
お2人共、亡き奥様と同じく、優しくて穏やかな心根の持ち主なのだ。
きっと、彼女達は奥様と同じく最初から最後を迎えるその時まで、皆から愛されて生きて行く人生だろうと誰もが思っていた。
彼女達は陽だまりの中、誰からも愛されてその笑顔を曇らせることもなく生涯を終えるべき人達。それが彼女達に相応しい人生で、その傍で彼女達の側で最後までお仕え出来ることは、この上無い私の誇りであり、人生の糧ーー…。
(テリア様が優しいことは、テリア様が生まれる前からお仕えしていた私が、1番。よく知っている)
木陰から夜目をきかせ、アリスティナ姫とテリアの姿を見つめていたユラは、様々な想いを馳せながら目を閉じた。
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