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第2章
本殿での初夜6
しおりを挟む「好きって…カルロ陛下が、私を?」
やっと口に出来たのはそんな言葉だった。答えなんか聞かなくても間違いなく自分に向けられたものだとは理解が出来ている。
そしてカルロの気持ちを聞いてどう自分がどう思ったのか、徐々に熱くなってゆく己の頬と、高鳴る胸がその気持ちを示していた。
「……ぁあ」
照れもなく、淀みない肯定にテリアは驚いた。
ゆっくりと大きくなる鼓動が、カルロの言葉を嬉しいと感じてしまっており、それをテリアに自覚させようとしている。
離縁が出来ないと聞いて、ホッとしている自分がいるのだ。そんな自分に気が付いて、動揺を隠すように口元を左手で覆った。
これではいけない。私がすべき事は〝離縁は陛下から言い出したことなのに、今になってから撤回するなんて酷いわ、約束をちゃんと守ってよ〟そう言って、怒るべきなのだ。
私がカルロと婚姻を続けることを考えた事は一度たりとも無い。
将来処刑されてしまうかも知れないことが怖いと言うのも勿論あるけれど。
それ以上に私は、きっと一生カルロを許せることはないから。
そんな私が、将来も隣にいることなんて互いに不幸になるのは目に見えているし、万に一つだってあってはならないと思っている。
今も尚、こうして目を閉じれば瞼の裏で焼き付いて離れない。
時間を遡る前の、あの光景が鮮明に浮かぶ。
群衆の中、私の姿を捉えて虚だった瞳に光を宿した妹の姿。
口を小さく動かして。 私に、なんて言っているのか、その声が聞こえてくるようだった。
『ごめんね、おねぇさま』
ーーそう、どうしたってあの時の事を私は生涯忘れる事はないだろう。
(そうよ。せっかくカルロは皇帝になれたと言うのに。私がずっとカルロの側にいるなんて、どう考えてもあり得ない)
冷静さを取り戻したテリアが、ゆっくりと瞼を開けようとした時、ふわりと唇に当たる柔らかな感触に目を見開いた。
ーーこ、この人!このタイミングでキスするなんてあり得ない!!
「……っ」
抗議をしようとしていたテリアの頭を片手でおさえ、勢いをそのままに、何度も角度を変えて絶え間なく口付けてくる。徐々に軽い口付けから深みを増して呼吸が追いつかずに「ふっ」「ん」と声が漏れ出る。
テリアはあまりの苦しさに、思わず目を固く閉じてカルロの胸板を叩いたが腰に回された手が、より一層強く引き寄せて逃れられずにいた。
甘く痺れる感覚に、力が抜けていくようで徐々に身を委ねていくも、頭の片隅では最後まで抵抗しなければと感じている。
ーーまるで身体と頭が別々になっているみたい
薄らと目尻に滲んだ涙の真意が、その時のテリア自身にも、分からなくなっていた。
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