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第2章
何故怒るのか
しおりを挟む『おまえは皇妃であり皇帝の妻だ。
つまり俺のものだと言う事を自覚しろ。
おまえの意思など関係なくな。
スピア、こいつを本殿に連れて行け。』
そう命じられ、本殿に連れられたテリアの部屋は突然だったにも関わらず、急拵えのものでない事は一目瞭然だった。
実家にいた時の様なテリア好みの家具や壁紙の色合いに揃えられおり、クローゼットの中には真新しいドレスがズラリと並んでいる。サイズはテリアに合うものばかりだ。
まるで、テリアがいつ来ても良い様に整えていたかの様だった。
(私好みの部屋になっているのは偶然かしら?本殿のどの部屋もこんな感じなの?
いやでも、ドレスのサイズまでぴったりとなると…)
椅子に腰掛けながら、落ち着きなく周りを見渡しているテリアに、ユラが問いかける。
「どうしますか、テリア様。」
「カルロ陛下が何故怒っているのか、原因が分からないと、どうしようもないわ。
…あんな怒り方は初めて見たかも。」
深くため息をつきながら、カルロの傷ついた表情を思い出した。
「……それについてなんですが、テリア様にご報告があります。」
「あ!そうだったわ。テンペル公爵令嬢とカルロはバルコニーでどうだった?
少しくらい距離を縮められたかな?」
テリアはアレンに向かって問いかけた。
アレンは獣人のクォーターだ。お陰で聴力が鋭く広範囲で人の会話を聞き取る事が出来るので、バルコニーでのテンペル公爵令嬢とカルロのやり取りを聞いてもらっていた。
何を思ったのか、ユラがチラリとアレンに視線をやって、アレンはそれに対して任せろと言わんばかりに頷いている。
(え、何。2人して意味深な態度して。上手くいったの?行かなかったの?どっち??)
「…そうですね。
結果から申し上げますとー…。
今回の作戦はカルロ陛下に筒抜けで失敗です。」
「えぇっ。何で?」
「どうやら、テンペル公爵家にカルロ陛下の手先の者が紛れていたようです。」
「うぁーっ!それでカルロ陛下はあんなに怒ってたのね!ぁあ失敗した。
でもそれは、カルロ陛下が次期皇妃探しを後回しにしてるからなのに…。」
そう、今回の事は理想の高そうなカルロ陛下の為に、私達が一肌脱いで色々とシチュエーションを試行錯誤したと言うのに。
そもそもは釣書の中から選んでくれさえすれば、私だってこんな作戦立てずに済んだ筈。
「そうよ。何で私が怒られなくちゃいけないのよ。
元々カルロ陛下が次期皇妃選びをしないからじゃない!
カルロ陛下がノープランだから、こっちが色々と考えて、これ以上無いくらい素敵なご令嬢を紹介しているのを感謝して欲しいくらいなのに!」
ユラはゆるゆると首を横に振ってそれを否定した。
「陛下はそれについて怒っている訳では無いと思います。」
「え?でも…私本当に心当たりが他に無いんだけど…?」
「それは…。」
眉根を寄せて困った顔をしていているユラを横目に、アレンが覚悟を決めた面持ちで口を開いた。
「どうやら、カルロ陛下はテリア様を皇妃から下ろす気が全く無い様です。」
「え…?」
「だから、この先どの様な作戦を此方が立てようと無駄ですね。」
「あははっ!
まさかそんな、それは勘違いだわアレン。」
「勘違いではありません。カルロ陛下はテンペル公爵令嬢にテリア様の後ろ盾になる様指示しておりました。
それはつまり、テリア様の地位を
盤石にしようとしているからに他ありません。」
「カルロ陛下がそんな事して何の得があると言うのよ?何か、別に理由が…」
「いいえ、他に理由は無いでしょう。」
「…?何でそんなにキッパリ言い切れるのよ?」
「はぁ…」と、大きなため息を吐いた後、アレンは意を決して言葉を紡ぐ。
「もうこうなったら、言わなければ埒があきませんので。
はっきり申上げます。
陛下は、テリア様をお慕いしております。」
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