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第2章
バルコニー ロザリーside
しおりを挟む先程までは数人の貴族達がバルコニーへ夜風に辺りに来ていたが、今は皇帝と2人きりだ。これも皇妃様がそのように手配してくれたお陰なのだ。
皇帝の後ろ姿を見ながら、ロザリーは手に力をいれた。
我公爵家の将来は私に掛かっている。失敗は赦されない。少しずつでも皇帝の心を私に傾けられる事が出来たなら…。
皇妃様が考えているのは1ヶ月で進展する計画。その第一段階は重要で、皇帝が私に靡く可能性がないと判断されたら別の令嬢を検討し始めるだろう。
会場の中から私の様子を皇妃様も見ていると言っていた。どんな会話であってもなるべく仲睦まじく話している姿を見せておかなければならない。
バルコニーの手摺りに向かうフリをして、その実皇帝の横に並び立とうと一歩を踏み出したとき、皇帝は振り向かないまま、声をかけてきた。
「テンペル公爵令嬢」
「!」
私が足を止めてから、皇帝はくるりとその身を翻し、近いとも言えない距離で私と向かい合った。
「皇妃のお遊びに付き合うなら此処までにしておけ。それ以上は俺への不敬とみなす。」
「…存じておられて?」
「油断ならない公爵家を前に俺が何もしない間抜けに見えているようだな。
そうだ。前治世の時もテンペル公爵はそうして俺を見下していたな。娘である貴様もそうか?」
(…テンペル公爵家の使用人の中に…陛下の手先の者がいたのね…誰なのか検討がつかない。一体誰なの?)
胸中は動揺の嵐が吹き荒れるが、ロザリーはそれを表情に出す事はなく持ち堪えた。
探る視線を受けて、ドレスの下には汗をかいている。
(ここで、嘘を付いても隠し事をしても、目の動揺からバレてしまう。…ならー…)
「…申し訳ございません。
陛下を愚弄するつもりはありませんでした。
…陛下の聞いているように弟の為、ひいては公爵家の為というのもありますが…
私が陛下に心惹かれて居るのもまた本当です。」
全てを察した私がこの状況で言うことだ。
目の前にいる皇帝になら私の言葉が本心である事はわかっているだろう。
表情を動かさない皇帝の様子を見ると、府に落ちていない何とも言えない様子だ。
陰謀には気付くが、乙女心は分からぬと言ったところか。
「これより先は分を弁えて話せ。」
乙女心が分からないどころか、食指が一つも動いていない事がわかる言葉だった。
女としてのプライドが大きく傷付くが、皇帝を前にして、その傷をおくびでも態度に見せたなら
早々にくだらぬ存在と見限られて我公爵家は重要政務への参加機会は2度と訪れない気がして、皇帝に望まれている返事を粛々とした。
「かしこまりました。」
「おまえの願いは弟の為、公爵家の政務参加権奪還。そうだな?」
「……はい…」
「近々大臣に空きが出る。空いた椅子にテンペル公爵を座らせてやらなくもない。」
「!」
空きが出る?
「おまえを含め、テンペル公爵家が条件を満たせば、前治世での事は俺の記憶から消したものとしてやる。」
前皇帝の治世で我公爵家は早々に第2王子派に組していた。前皇妃と父が懇意にしていたからだ。
法は犯さずとも我公爵家の振る舞いで第2王子派は勢いを増し、一気に勢力は拡大した
数百年前現れた異世界の聖女の血筋であるからこそ、皇帝には目を瞑られたが、生涯をかけて恨まれたとしても何も言えない。
現皇帝在任中、時間をかければ我公爵家を衰退させる事も可能だろう。
だが、皇帝が提示する条件を満たせば全て赦すと言っているのだ。食いつかない訳がなかった。
「ー・何なりとお申し付けください。」
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