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第2章

後任候補とお茶会

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 テリアが皇妃主催のお茶会で、後任皇妃に目ぼしい人を見つけてから数日が経過した頃2人で是非改めてお会いしないかと誘ってみたところ、快く了承してくれた。

 そして現在、互いに1人ずつの侍女のみを後ろに従えて、まるでこれから秘密の話をするかのような雰囲気が流れている。

 

 後任皇妃として私が選んだのは、テンペル公爵令嬢ロザリー・テンペラント。常に姿勢良く、ブランドの波打つ髪は艶やかで気品漂う出立に、知性を感じさせる面持ちは、正にこの国の皇妃にふさわしいと思えた。


 

(アレンが選んできた中に居たと言う事は、こんな人にも。カルロは好意を寄せられてきた訳ねぇ…)

 そんな事を考えながら、数分間は当たり障りのない話をしていたところ、本題を切り出してきたのはロザリーだった。

「皇妃様、…私から切り出すのは、失礼とは存じましたが誤魔化してもせんのない事です。私と、取引をしませんか?」

「取引?」

 (はて…。こちらが本題切り出す前に向こうにも何か話があって今日は応じてくれたのね。どうしよう、難しい話だったら。)

「私を、皇妃様の権限でカルロ皇帝の側妃に召し上げてくれませんか?」

「…。私にそんな権限が?」

「やはりご存じなかったのですね。
後宮は皇妃様の管轄です。皇帝が首を縦に振らずとも…その、ずばり申しまして皇妃様が寵愛を得られなかった場合、代わりにお世継ぎを生む為の女性を皇妃様自らが選抜するのはよくある話です。
下手に別の勢力の者に側妃を選別されるよりも、よろしいかと思います。如何でしょう?」

「えーと、つまり。私がロザリー様を側妃にして…」

「その見返りに私は皇妃派閥の者として行動します。私の後盾はもれなく皇妃様の後盾ともなります。どうでしょうか、悪い話ではありません。」

 (そんな事思いもつかなかったわ。ロザリー様って賢い…)


「側妃になると覚悟して…そこまで、カルロ陛下の事を慕っているのですね。」

「いえ。私はテンペル公爵家の為になる事を申しているのです。」

「ん?」

「私には目の中に入れても痛くない可愛い弟が居ます。
その子が公爵家を継ぎますが…我公爵家は前皇帝の治世のおり、完全に第2王子派閥でした。その事で現皇帝には政から遠ざけられています。それは今後、弟の大きな足枷になり得ます。」

「…。成る程。」

「私は愛する弟のためなら一肌でもなんでも脱ぎます。
必ずこの美貌で皇帝陛下の寵愛を賜り、公爵家と、皇妃様に恩恵を運びます。
ですから、どうか…。」


 ロザリーの眼差しは真剣そのものだった。冗談でもなんでもない。彼女は本気だ。大切な人の為、自分の身は二の次で…私はそう言う人が嫌いではない。  

 寵愛を受ける自信も伝わってくると言うか…、確かにこの美貌であれば落ちない男は居なさそうだ。その点は何か安心感がある。

 ちょっと予想とは違ったけれど、下手にカルロを好きだと言う令嬢よりも、こう言う人の方が良いのかもしれない。
 そしてまどろっこしい言い回しをせず単刀直入なのがとても爽快で、私としては現時点で大変好感がもてる。

 互いに知ればきっと…、カルロとロザリーの2人は良い関係を築ける気がする。

 (カルロも妹溺愛だから…あれ?本当に良いかも。もしかしてこれ以上ってない?)

「ロザリー様のお話はわかりました。実は私がロザリー様と改めて会いたいと申し上げたのも、似たような理由です。」

 テリアがティーカップを置いて、神妙な表情で言うと、ロザリーは息を飲んでからコクリと頷いた。

「やはり…。」

「ですが、一部違います。私が貴女に求めようとしたのは側妃ではありません。」

「……?では、何を?」




「この国の 皇妃になるつもりはありませんか?」

 この時、2人の間に吹き抜けた風は嵐の前触れのごとくザワリと髪を揺らし頬に張り付く。



「…あの、僭越ながら…私の聞き間違いでしょうか、今…」

「私は皇帝と穏便に離縁をするお約束をしています。近々この座から居なくなる身なのです。」

「…!!」

「側妃よりも、皇妃である方が公爵家の助けにはなりませんか?」

「……。それは、そう。ですが…流石に、え?」

「ただ、これにはふたつ条件があります。」

「条件ですか?」

「1つは私を害さない事。」

「それは、勿論です!」

「2つ目はー…」

「2つ目は?」


「……。いえ、きっと貴女なら大丈夫な気がします。」


「ですが、皇妃になるには流石に皇帝陛下の承認が必要で…」

「だから急に事を運ぶつもりはありません。今度の舞踏会で私が貴女を陛下に紹介します。」



 
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