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第2章
カルロの思惑 カルロside
しおりを挟む「では私めはこれで失礼します。
皇帝陛下、側室の件良くご検討ください。」
執務室から大臣がそう言って速やかに部屋から出て行く。
最近大臣を含めた貴族達の動きが不快で仕方ない。
そわそわしながら側妃にと自分達の娘の釣書を持ってきたり、紹介しようとしてきたりする。
俺の歳もテリアの歳も幾つだと思ってるんだ。側妃を打診するには通常より数年早い。
だけど、奴等が真に狙っているのは其処ではないだろう。
確かに側妃として娶られるならそれも良いが〝あわよくば皇妃に〟と考えているのだ。
既に皇妃としてテリアが居るのもお構いなしに。
それは皆の認識が以下の通りだからだ。
〝前皇妃様がカルロ殿下を皇帝にしないために用意した力無い妃だから、いつ消えてもおかしくない〟
この認識はテリアが来た当初から王宮内にずっと広まっている。俺が撒いた種のような所もあるが。
このまま放って置けばテリアが危険だ。後盾の無い妃は例え側妃だとしても目障りになればいとも簡単に皇帝と会えぬよう手を回されるか、陰謀に巻き込まれて命を落とす。
皇妃となれば尚更、そこに居るだけで奴ら狸には邪魔でしかない。
テリアは自覚していないが、結婚した時と大きく状況がかわったのだ。
警戒すべき対象が変わった。
俺が皇太子である時は、前皇妃や前皇帝、第2王子、その派閥の者が気を付けるべき敵だった。奴等の目に止まらないよう、王宮の片隅で存在を消し、俺に見向きもされないてないと言う位置が生き残る為に適切な場所だった。
そうする事で、当初俺よりも権力を持ち、幅をきかせていた前皇妃や第2王子の興味からは少なくとも除外出来た。
だが、今は違う。今の気にすべき敵…俺の…と言うより、テリアの敵となりうる者は下にいる貴族達だ。
奴等は力を持つ者にしか従わない。力のない者に上に立たれた時には足を掴み引き摺り下ろし自分達が上に立とうとする。
単純明快にして至極不快な奴等。家畜にも劣る存在だ。
俺にとって必要な時にはクソの役にも立たなかったくせに、情勢が変わると掌を返し自分の手塩にかけた娘を献上しようとしてくる。
狸どもが釣書を持ってくる度に、
〝おまえに似たブッサイクな女の顔を一々俺に見せるな吐きそうだ〟と言って、目の前で真っ二つに破いてやろうかと思うくらいだ。
(反吐が出る。反吐が出る。反吐が出る。反吐が出る。貴様らの娘がテリアにとって変われると思っているのか?)
奴らに手を出させない為に、皇帝となる目処が立ったと同時に対策を考えた結果、俺はテリアの住まう宮を自分の居る本殿に移す事にした。
普通皇妃とて、皇帝の居る本殿には住う事は出来ない。どんなに寵愛を受けても別宮を用意される。
それは、2つの配慮によるものだ。
1.側妃達の元へ渡っている事がすぐ分かり、皇妃が虚しい思いをする。本来同じベッドで隣に居る筈の皇帝が居ない事でかなり皇妃の精神が擦り減るらしい。
2.異世界の聖女が来た時、つまり皇后足り得るものが来た時に公平を期すため皇妃は本殿から出なくてはいけなくなる。かなり気まずいのでそれなら最初から別宮の方が当たり障りない。
この2つの理由によるものだが、どちらも妃を別に設ける前提だ。
はっきり言って、俺には必要の無い気遣いだ。
そしてこの決まりを犯してまで、テリアを本殿に住まわせたら、目に見える事実として皆理解するだろう。
皇帝は皇妃を生涯唯一の伴侶とする事を示していると。
こうすれば、テリアの扱いも変わるし、本殿に居るテリアを下手にどうにかしようと考えられない。おいそれと手を出せない。神殿や周りの奴らは暫く煩いだろうが、じゃあおまえら暗黒龍1人で倒してから言えよって…口にしないまでもそう思いながら無視しとけば良い。
そう、俺なりにあいつを守る為に考え行動しようとしているというのに。
「だと言うのに…おい、スピア答えてくれ、何であいつは未だ本殿に住まいを変えようとしない?」
隣にいる俺の護衛兼世話係に問いかけると、明後日の方向を向いて答えた。
「隅っこに居るのが落ち着くそうです。」
「俺は、この間あいつが変な見合い写真を持ってきた時に色々と説明したんだが?」
「はい、わたしも聞いてましたよ。説明してましたね。」
「あいつは理解出来てたよな?」
「そうですね、陛下が理解出来るまで説明された結果、何とか理解してるようでしたね。」
「それが、〝隅っこに居るのが落ち着く〟とかふざけた理由でまだ本殿へ移らないのかあいつは?」
「まぁ、テリア様ですから……。」
「もうこうなったら強行手段で…」
「これからは大切にするのでは無いのですか?初っ端から意思を無視して今後大丈夫ですかね…」
「…ーあーっ!くそ!あいつは今何してるんだよ?」
「貴族のご令嬢達とお茶会です。テリア様なりに皇妃として己の力で努力したいのでは?」
「いや…。多分違う。あいつは俺と離縁する気満々だからな。そんな皇妃活動に前向きな訳がない。
……何考えているかあいつの考えはいつもサッパリわからん。」
半ばやけくそになりながら、そう言って大臣の置いて行った釣書をゴミ箱に突っ込むカルロを見ながら、スピアは少し皇帝が気の毒になってきた。
「それは、何というか…前途多難ですね。」
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