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第2章
貴女は笑顔が似合う人1
しおりを挟む散策をしていたら敷地内でアリスティナ姫と出くわした。
アリスティナ姫は、私がまだ本殿から遠く離れた離宮に住んで居ると思っていたようで、何かあったのかと心配されてしまったので、私が何故夜中に本殿付近でこうして彷徨いているのかを掻い摘んで話をした。
「パーティーでお兄様が怒って本殿に…」
とはいえ、全てを話す気はなく、カルロの怒りを買ってしまったことにより本殿に来る羽目になったところだけ伝えた。
それがカルロのヤキモチであり、今しがた告白され、口付けまで済ませておきながら部屋を出てきたなど、カルロの為にもテリアはあえて言わないでおいた。
ベンチに2人で座りながら、木陰の揺れる音を聞いてテリアが気持ちを落ち着けている一方で、アリスティナは、ふむ…と口元に手を当て、思考している。そんなアリスティナ姫を横目で見つめていると、何かを悟ったように猫耳をピンと立ち上げた。
「テリア義姉様」
「ん?」
「もしや、お兄様に告白されましたか?」
ザワリ、と風に飛ばされた木の葉が2人の間を横切ったけれど、他の物は視界に入らないほど、あまりにも期待のこもった真剣な瞳が覗き込もうとしてくるものだから、嘘や方便などの誤魔化しが出来ない。
テリアはゆっくりと頷いた。
「きゃあ!良かったです、やっと安心しました。
最近…不穏な噂まで流れているのに、お兄様ってばテリア様に何のフォローもしてる様子も無かったですし。
…でも。
これで、テリア様は安心しても此処に居て良いのだと分かっていただけましたか?」
「ーー…」
アリスティナ姫は人の感情に鋭い。自分に向けられる周囲の悪意で身体を壊してしまう程に。そんな彼女が私が抱いている不安を、微塵も察知出来出ないわけが無かったのだ。
「アリス…」
「私、お兄様に怒ってたんですよ?
お兄様がはっきり気持ちを口にしないから。テリア様を不安にさせてるんじゃないかって」
アリスティナ姫は最近カルロを避けていた。
それは側室を設ける話が王宮のそこかしこで流れ始めてからずっと、アリスティナ姫の心は落ち着かずモヤモヤとしていたからだ。
テリアと何の進展もしていない中で、新たな妃を娶ろうなどと言う噂が、テリアを傷つけているのではと思うと尚更、兄への不満が募って行くばかりだったのだ。
そんなカルロとアリスティナ姫の事情は梅雨ほども知らないテリアではあったけれど、カルロからの告白をしたら、アリスティナ姫は自分のことのように喜んでくれるのは想像がついたいた。
出会った頃からいつも、カルロとテリアが上手くいくことを切に願ってくれていたのだから、進展があれば当然喜ぶだろう。宮殿に住む女性が王に寵愛を受けて悪い事なんかひとつもない。
ましてや、テリアは皇妃だから尚更。
ーーアリスティナ姫が喜ぶと分かっていても、話すことが憚られたのはカルロから告白されておきながら、寝所を抜け出し、こんな所をほっつき歩いている現状への言い訳が全く思いつかないからであった。
(まさか、アリスティナ姫がこんなに鋭いなんて…。これは女の勘なのかしら?それとも猫の勘なのかしら?)
ーー兎にも角にも、アリスティナ姫には適当な誤魔化しなど通用しないだろうな。
可愛いアリスティナ姫に、落胆する顔をさせたくは無い。
けれどー…
(いつか。アリスティナ姫にはちゃんと話をしなくちゃいけないとも思っていたのよね)
「ー…あ「お兄様が、何を言おうがダメですか」
「アリス…」
「……初めて、テリア様にお会いしたとき。
この人はなんて優しい人なのだろうと。思いました」
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