身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第1章

カルロとテリア

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(流れるように、皇帝になったな…カルロ皇太子。)

 正直、かっこいい生き様だと思った。

(私にはとてもじゃ無いけど、真似出来ないわ。…ところで…)


 王宮の自室で寝転がっていたテリアは身を起こして、ユラとアレンを見ると、2人とも恭しくお辞儀をした。

「……だよね?」

 言葉にはしたくない。したくないが、直視しなければならない。

「「即位おめでとうございます皇妃様。」」


 そんな私の心情をストレートに現実へ戻す止めを刺された。

「ど、どうしよう!おか、おかしくない?あの人半年後って…ええ?」

 最早、急展開にテリアの頭がパニック状態だ。けれどそれは、ユラとアレンも例外では無いようで、とにかく今の現実をアレンが整理し始めた。

「いや実際時期的にカルロ皇太…陛下がこのような状況になるのはまだまだ先なはずなんですが…」

「だよね?だよね?
良くわからないけど。

多分早い!!かなり早い!」


「…これから、何とか巻き返しましょう。」
「巻き返せるかな!?」

「….。」

「……。」

「……。」


 この日はとにかく、互いに心を落ち着けようと言う事で3人は一旦保留にして明日に考えをまとめる事にした。








ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー

 そして夜ー…。

 テリアは眠れずにベッドの上で膝を抱えながら、窓辺から見える満月をじっと見つめていた。

(裁判…会場の雰囲気が怖かった。…カルロ皇太子…陛下?はずっと、あの中に居たのか…。)

 ブルリと身震いして、腕をさする。
 
(どうして、フェリミアがって。フェリミア〝だけ〟どうしてこんな目にって。
ずっと、思ってた。)

 だけど、〝だけ〟では無い。此処では、誰でも明日は我が身の事なんだ。

 今になって気がついた。

 そして、私は離縁すれば此処から離れられるけど、カルロやアリスティナは逃れられない。

 そう思うと、何故か胸が痛んだ。

(同情…?フェリミアをあんな目に合わせたのがカルロかもしれないのに。私は何を…)


ーコン

「?」

 戸がノックされる音がして、膝に埋めていた顔をあげた。


「入るぞ。」

  了承はしていないが、そのまま声をかけて入ってきたのはカルロだった。

 薄暗い中、歩みを進めて来たカルロは、ベッドサイドに腰をおろした。


「…カルロ…陛下。」

「…暫くぶりだな。元気してたか?」

「神殿から帰ってきたの?」

   テリアは、ベッド上で動いて話をするべくカルロの隣に座った。

「ぁあ。もう此処に帰って来た。
おまえの住まいも明日から移動する事になる。」

「え?何で?」

「当たり前だろう。おまえは皇妃だぞ?」

  あれ…フェリミアが皇妃になった時、部屋が移るなんて言ってたかな?

 でもそうか。流石に皇妃がこの宮に留まるのは良く無いよね。カルロの威厳?的にも。

「わかった。明日は早めに起きるよ。」

「その必要は無い。もうおまえが住める準備は整っている。むしろ今日からでもよかったんだが、ゆっくり出迎えて欲しくてな。」


「そうだよね。色々、バタバタしてたもー…」


 途中、カルロがベッドサイドに手をついて額をテリアの肩に乗せて、一瞬抱きしめられるのではと思ってしまうような態勢になったので、驚いて言葉を紡ぎかけた口が思わず止まった。


「そうじゃなくて…。おまえが落ち着いた状況で…。」


   私が、落ち着いた状況で。出迎えて欲しかった。

 (何か。求められてる?)


「……おかえり。」



「ー…ただいま。」

 
 

 それは

 何処か弱っているように聞こえたカルロの声が、耳元でこそばゆく感じる夜の事だったー…。

  

ーーーーーーーーーーーーーーーーー


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