身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

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第2章

その夜は テリアside

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 夜もふけて皆が寝静まった頃、テリアは本殿敷地内の夜道を散歩しようと外に出た。

 夜道は薄暗いので、片手に洋燈を持ち足元に気を付けてゆっくりと歩く。

 このように遅い時間帯でも、此処から離れた位置に、見える舞踏会場は明るい。

ーーまだ、会場に人がいるのかしら。

 そんな事を考えながら、辺りを見渡した。
 強い光を放つ舞踏会場とは対照的に、暗闇で華やかさが鳴りを潜めた本殿敷地内は、点在しているランプの光が仄かな灯りで周囲を照らしている。

 暖色の穏やかな明かりが、テリアの心を気持ちだけ落ち着けてくれた。


 日中は存在感を放つ大木も、夜の中ではただ、枝先の葉が風に揺られ揺らめく音のみだ。

ーー大木か…此処へくる前は、木に登るの好きだったな、流石に今はしないけど。

 目端に入った池に、ふと、フェリミアと幼い頃に言い争ったことを思い出した。

 池にいる魚は眠るのか、眠らないのか。今思えば、些細なことだったのに私はムキになって魚も眠ると主張し続けたなぁ…。

 根拠はなかったけど。

 実際はどうなのか、少し興味が沸いたテリアは確かめるべく、忍び足で池に近寄ると、テリアの後ろから、可愛らしい声が呼びかけてきた。


「テリアお義姉様」


 その声がフェリミアのものだと思ったのは、私はこの方と出会ったときから、2人を重ねて見ていたせいなのだろう。


「アリスティナ姫…」

 自由に歩けるようになったアリスティナ姫は、最近外出する機会が格段に増えた。

 数年間で王宮内の情勢が変わる中、自由に歩き回れるようになったアリスティナ姫もまた、どんどん成長して目覚ましく変わったと思う。


 現在、外に行って何をしているのかは、カルロにすら秘密にしていると言う事だったけれど、アレンが得た情報では、獣人達も通える学校を創設する夢の為に奔走しているらしく、まずは獣人達の生活の安定化をすべく、地道に努力をしているようだ。

 近頃では吹けば儚く散ってしまいそうだった少女の面影は既になく、今はそこには、気高く強く優しく成長をしている王族が居る。


「テリアお義姉様、私のことはアリスと呼んでくださいと何度も申し上げましたのに…」
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