身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式

文字の大きさ
上 下
100 / 121
第2章

本殿での初夜7 カルロside

しおりを挟む
 本殿での初夜は、テリアあいつが皇妃になった時の最悪な初夜をリセットして、正式な夫婦として俺達の関係をスタートさせる為に自分の気持ちを伝えることを決めていた。

 どう見ても離縁を心待ちに準備しているテリアあいつに、俺の都合を押し付ける。そんな初夜での告白が上手くいくとは最初から思って居なかった。


 俺の想いを伝えたところで、何とも思われていないことを再確認するだけだろうと身構えていた。

 ー・けれど、俺が想像していた反応とテリアあいつの実際の反応は違っていて、ほんの一瞬だけれど、潤んだ瞳が歓喜の光を宿して頬が桃色に染まる姿を見たら…、普通に脈ありだと思うだろう。




 告白してから、あんな紛らわしい反応された上に、目の前で目を閉じられたらキス待ちかと、普通は思うだろ。


 だがキスをしている最中に、異変に気が付いて身を離してみたら、テリアあいつはいつの間にか、やや青ざめた顔色をしてハラハラと泣いていた。

 それが嬉し泣きでないことはわかる。だけど俺を拒絶している訳でもなく、瞬きもせず、ただ涙を流していた。

 何処か辛そうに、眉根を寄せて、雫が溢れ出した黄金色の瞳が。静かに何処か遠くを見据えているようだった。

ーー初めて見るテリアあいつの姿に内心かなり動揺した。

「おい、どうした?」と、問いかければ、我に返ったように自らの袖口で涙を拭ながら「びっくりして涙が出てきた」と言ったあと、何処か無理している様にも見える笑みを浮かべていた。

「嫌だったか?」と、問いかければ。

テリアあいつは、一瞬表情を堅くして、ポツリと「嫌では、なかった」、そう答えた。


 だが、そう呟いてからテリアあいつは俺から離れて、「おやすみなさい」とだけ言って隣に用意したテリアあいつの部屋に帰って行った。

  
 あいつが皇妃になった時の初夜の反省を含めて、本殿での初夜では俺達の夫婦生活をやり直そうと思っていた俺は、内心、かなり戸惑い、部屋に帰ろうとするテリアあいつの背中に手を伸ばそうとした。

 だけど、テリアあいつの涙を見た直ぐ後だったせいか、結局は引き止められ無かった。

ーー途中まで良い感じだと思ったんだが。何が不味かったのかは検討もつかない。

 恐らく、テリアあいつは恋愛した事がなさそうだから、俺からの急な告白に戸惑っているだけなんだろう。

 無理もない。離縁が出来ないと伝えられてからの、急な告白だ。今までテリアあいつが頑張ろうとしてきた方向と180℃違う内容だ。

 考えが纏まらなくても仕方がない。あいつ、そもそも恋愛とかした事なさそうだしな。

「キスとか、ちょっと早過ぎたか?いや、でもこれくらいしないと、俺を夫として意識しないだろうし。チンタラしてる間に、またアネス子爵みたいなのに目をつけられたらたまったもんじゃねーし…さっさと夫婦感、出してかねーとさ」

 …まぁ、でも焦るのは良くないか。〝嫌ではなかった〟と言っていたし、告白した時の反応的に、俺の告白を喜んでたよな?

 てことはテリアあいつも俺のこと満更でもないんだよな??

 じゃあ、少なくとも離縁の話は無くなったと良いうことで良いよな?
 
 

 取り敢えず、あの瞬間感じた手応えは勘違いでは無いと思いたい。

 最後のテリアあいつが泣いてたのが、どうにもひっかかるけど…ー、いや、うんあれはただキスに驚いただけだ。



「……これから一生夫婦やるってんだから、なんとかなるだろ」


 当初予想したよりも、思いの外手応えを感じたと言うのに、予想していた時には抱かなかった一抹の不安に、何故か胸が漣だつ。

 カルロは一抹の不安を吹き飛ばすように、テリアから借りたままになっていたペンダントを右手でかたく握りしめて、ベッドの中で独り言を呟いて、目を閉じた。


 

 

 その夜。

 一抹の不安が拭えないまま、カルロは眠りについのだったー…
 
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...